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80. 新しい関係性を模索します(本編)



朝食の席にはディノがいなかったこともあり、新たな施策の説明はディノが戻ったその後で行われることになった。

魔物が出掛けていると言えばエーダリアは訝しげな顔をしたが、ネアが朗らかに朝食を征服している姿に問題なしと判断したようだ。


(お仕事の時間までには戻ってきてくれるかな……?)


それは杞憂だったようで、ディノはきちんと仕事の開始時間には戻ってきてくれたので、ネアは面倒な説明を迫られることもなく胸を撫で下ろす。


特に不在を謝ることもなく、ディノはいつも通りだ。

強いて言うならば心ここに非ずと感じる瞬間が何度かあったが、ネアが疑問を噛み砕く前に綺麗に違和感を消し去ってしまう。

問題になるほどに表面化しないのであれば、ネアは気にしないようにした。


「今日は、念の為に心臓の薬をひとつ。後は夕映えのお薬を二本作成します」

「わかった。その後で何か予定は入りそうかい?」

「いいえ。ただ、お薬の提出時に少しお話があるそうですので、昨日エーダリア様が入っていた急ぎの会議のことが共有されるかもしれませんね」

「ふうん、また遠くに行く仕事かな」


(守護を取り下げたのだから、遠出は嫌なのかしら)


そうであれば可哀想なので、あまり手間のかからない仕事だといいのだが。

そんなことを考えている内にいつもの通りものの数分で薬は出来上がり、さっそく出来上がったものを提出しに行くことになった。

いつもの様にお喋りしたがる様子もないので、ネアは小さな失望を飲み込んだ。


昨日の今頃はこの綺麗な魔物は泣いていたのだと思うと、押し篭めた筈の胸の奥が微かに軋む。



そうして訪れたエーダリアの執務室では、あまり穏やかとは言い難い顔をした男達がいた。


ノックをして入室した途端、何かを議論していたままの眼差しで、荒んだ目をしたエーダリアが顔を上げる。

ダリルはドレス姿のままエーダリアの机に胡坐をかいて書類を読み込んでいるし、ヒルドは誰かと通信を交わしているようだ。


奥の大きな机の上には地図が広げられ、戦の軍議をするかのように駒のようなものが何個か置かれていた。

ある程度は上手く緩和されていても、微かに残る緊張の残り香に、ネアはあまりいい状態ではないのだろうなと目星をつける。


「ネアか。………もういいのか?」

「ええ。その節はご心配をおかけしました。もうこの通り大丈夫ですよ。エーダリア様は大丈夫ですか?」

「幾つか要因が重なってな。まずは今動いていることを全て共有する。このすべてをお前に任せるわけではないが、因果関係もあるかもしれないので念の為にな」

「はい。お願いします」


エーダリアの説明は簡潔であった。


まず、ガレンに討伐依頼のあった国境域を侵す下位の水竜達の群れ。

こちらは水竜の王の直属の組織ではなく、直接の関わりを持たない小さな群れなのだそうだ。

人間で言うところの、王都から離れたところで悪さをする海賊のようなものらしい。


次に、ヴェルツで領主の元に外遊で訪れていた隣国の公爵が行方不明になった事件。


こちらは、他国の大貴族が土地の固有技術を学ぶ為に立ち寄ったということもあり、友好の証であった訪問を国家間の軋轢の要因としないよう、早急な解決が望まれている。

固有技術の開示という意味でヴェルツ側が最初の頃は難色を示していたそうなので、その反乱分子が公爵を拉致したとなるのが最悪の顛末だ。


そして最も厄介なのは、白持ちの魔物と水竜の王の加護を得た隣国カルウィの第一王子が、ヴェルクレアに干渉する可能性を見せていることだった。


以前ヒルドの羽に悪さをしようとしていたと聞き及んでいた王子で、生来の残虐な男であるだけでなく、魔術や戦略に於いても非常に有能な王子なのだとか。

公にされている魔物と竜の他にも、高位の人外者の守護を得ていると言われていたが、意図的に明かされている情報以外のものはあまり出てこないらしい。


彼等が興味を示しているのはアルビクロムより伸びる大陸公路の権利で、その道がカルウィの国土にかかっていないことを思えば随分と乱暴な主張であった。

それを言えばこの問題はウィームにもかかってはいないのだが、ガレンへの正式要請として成された以上、エーダリアが背負うしかなくなってしまう。


「最初の討伐依頼と、アルビクロムの大陸公路の問題は土地としては離れておりますが、水竜という意味では接点があってもおかしくはありませんね。中央でも、その可能性を踏まえてガレンに投げたのでしょう」


「外遊中の公爵の失踪に関しては、グラスト達に一任している。しかしこちらも、白持ちの魔物の目撃情報が上がっているからな。無関係とは言い切れん」


あまり芳しくない情報が増やされ、ネアは困惑に眉を顰めた。


今迄の任務はどこかさらりとしており、このように足場の悪そうな政治的な関わり合いが顕著になるのは初めてのことである。

そろそろ任せられると見込まれたのであれば、現状の不安定さにひやりとした。


「でもね、公爵失踪に現場で目撃されてるのは、女の子なんだよねぇ」

「女性の白い魔物さんなのですか。確か、少ないのでしたよね?」

「そ。まぁ、外野では実際のところはわからないけど、ディノは詳しいよね」

「白にも階位があるからね。一般的に公爵位相当であれば、五人程かな」

「うっそ、思ってたより多い!」

「あくまでも相当だよ。実際に公爵として統括の役目が可能な地位にある魔物は、全部で十四人だ」

「へー。それって見たらわかるもの?白の分量的な感じ?」

「どうだろう。判別し難い白を持つ者も多いからね」


ディノの話によれば、公爵位ではない白を持つ魔物は三十人くらいいるのだそうだ。

その多くは白い部位が少なく脆弱だったり、特性上不安定な魔物だったりするのだとか。

逆に言えば、白持ちではなくとも微量な白持ちよりも厄介な魔物も多いのだろう。


ネアは、ディノと上手に話してくれるダリルに場を任せ、あまり口を挟まないようにする。

どうやらエーダリアがだいぶ疲弊しているようなので、それが少し気になった。


「一目見てわかるとなれば、白薔薇か白墨かな。信仰ならば君達にもわかるだろうし」

「その子達は強いの?」

「いや、統括が可能ではない階位だった筈だよ。でも時々、需要や流行で力を強める魔物がいるからね」

「あちゃー。そうなると厄介だね。ねぇ、ネアちゃん」


不意に話題を投げられてびっくりした。

ネアは少しだけ考えてから、ダリルがこちらを向いている内に広げておきたい質問を返すことにする。

いつもなら魔物に尋ねるような内容なので、勘のいいダリルが気付かなければ良いのだが。


「カルウィの方の魔物さんは、男性なのですか?」

「そうみたいだね。こっちは、第一王子が持ち込んだふわっとした情報だけなんだけど」

「しかし、それもまた厄介な話でして」


通信を終えてこちらに加わったヒルドが、あまり気乗りしないような口調で切り出した。


「ヴェンツェル様の方で手に入れた情報では、カルウィの魔物は灰被りだと特定されているんです」

「灰被り?」


思わずネアはその名称を反芻してしまった。

確か、その魔物はアルテアによって滅ぼされたのではなかっただろうか。

ネアが疑問に思ったことを、折良くヒルドが尋ねている。


「こちらで聞いているところでは、その魔物はもういないとのことでしたが」

「どうだろうね。需要のある魔物は、新しく派生する。灰被りは犠牲を司る魔物だから、新しい代のものが派生していてもおかしくはない」

「…………成程、そういうことか」


エーダリアが頭を抱え、ヒルドも目を細めた。

先代の灰被りは、砂糖の魔物の片腕を捥ぎ、他にも数人の公爵の魔物を殺した実力者だった。

アルテアさえ灰被りにされたのだから、相当強い魔物だったのだろう。


「けれど、不思議だね。誰がその魔物が灰被りだと特定したのだろう」

「兄上は確証があるようだった。魔物の特定は難しいのだろうか?」

「高位の魔物を知る者は少ないんだ。ましてや灰被りは、あまり本来の姿を見せなかった魔物だ。それを特定したとなると、見てきた者も同階位ではないと」

「となると、アルテア様かもしれませんが、昨日は何も仰っていませんでしたね」

「あいつ、こっちに回ってくるって思ってなかったんじゃない?」


わやわやする男性陣を見ながら、ネアはこっそり祈っていた。

どんな仕事でも構わないが、ディノに負担を強いるような環境下でネアが作業をするようなお役目は拝受したくない。

魔物の指輪がない状態で、今迄通りにディノの手綱を握れるのかどうか保証がないからだ。



「やれやれ。兄上に手札が知られるのも厄介なものだな。カルウィの案件など、本来こちらに回ってこなかったものだろうに」


そうぼやくエーダリアの言葉に、また少し胸が痛んだ。

こんな風に彼等を困らせておいて、いざという時に力になれなかったら謝るだけでは済まない。

そう自分を叱咤してから、どんな衝撃にも耐えうる覚悟で心の奥に蓋をする。

自分の責任の上で、きちんと確認するべきことはしておかなければ。


「エーダリア様、私は何をすればいいのでしょうか?」

「お前には、カルウィの水竜の王に会って来て欲しい」

「………水竜の王様ですか?」

「ああ。元々、水竜が守護を与えているのはあの国土だからな。あの王子が公言している個人的な守護が、どれだけのものか見極めて来て欲しいんだ」

「わかりました。………魔物さんの方はいいのですか?」


ついそう聞き返してしまったのは、てっきり魔物界隈の問題を任されると思っていたからだ。

それに対しては、ダリルが教えてくれた。


「魔物の方はさ、ガレンが間に立つとしてもアルテアの問題なんだよ。あれでも一応、統括の魔物なわけだから」

「あまり拘束力のない役職、というわけではないのですね」

「魔物絡みで国家間級の問題が起こる場合は別。これは正式に申し入れしておくから、ネアちゃんは心配しなくていいからね。立会いって名目で協力体制を取るのも、うちの馬鹿王子かヒルドになるね。ただ、カルウィに赴く際にはちゃんと気を付けること」


そっと視線を巡らせて見上げたディノは、あまり嬉しそうではなかった。

眉を顰め憂鬱そうに表情を曇らせていたが、ネアの視線に気付くとふわりと微笑む。


「ネア、どうしたんだい?」

「………カルウィの水竜さんに会いに行くお仕事が入りました。大丈夫そうでしょうか?」

「あまりいい気分ではないけどね。ガレンも上手く仕事を選んだようだから、仕方ないね」

「良かったです」


ほっとしてそう微笑めば、なぜかディノは一瞬だけあからさまに嫌そうな顔をした。

どきりとして気付かれないよう息を詰めたが、すぐにまた胸の内の読めないくたりとした微笑みに戻ってしまう。



その後も幾つかの注意事項を話し合い、ネア達がカルウィに赴くのは四日後になった。

やはり敵地という扱いにはなるので、あの白い儀礼用のケープに擬態を施し、灰色のケープにして着ていくことも決まる。



「ディノ、お出かけですか?」

「うん。ネアは先に寝ておいで」

「はい」


その夜も、魔物は出かけるようだった。

頭を撫でようと伸ばした手を、ディノは微かに眉を顰めて引っ込めてしまう。

少しだけわくわくとしてしまったネアは落ち込んだが、今までの習慣でつい手を伸ばしてしまったのだろうと納得する。


一瞬、どこに行くのか聞いてしまいたくなって、やはりやめた。

今は業務時間外なのだ。


この頃、ディノはよく外出していた。

髪の毛を引っ張るように強請らなくなったし、そもそもネアに触れなくなった。

温もり不足で欲求不満になったネアは、ここ数日狐を溺愛している。



なので、今日もからりと部屋の扉を開けて庭に出ると、森の奥から銀狐がすっ飛んできた。

千切れんばかりに尻尾を振り回し、ネアの足に体を擦り付ける。

それから、首から下げた免罪符の首輪を胸を張って見せつけるのだ。

ここまでが銀狐のルーティンになっている。


「狐さん、今夜は蝶の魔物を…………まぁ!」


三日前の夜に狩りをしているのを見付かってから、銀狐は夜にもここに来るようになった。

真夜中の森で偶然遭遇した銀狐は、ネアを見るなり尻尾を逆立てて駆け寄って来て、かなりおろおろとしていたが、ネアが粛々と狩りをしていると諦めたように付いて来るようになったのだ。


そして今夜、銀狐は何やら大きな袋を引き摺っている。

鼻面でぐいぐいと押し出すので、ネアにくれるのだろうか。


「くれるのですか?………む。動いてますが」


もぞもぞしている袋を恐々と開いて覗き込めば、見覚えのある毛玉のような丸い妖精が詰め込まれていた。

覗き込んだネアに気付くと、助けを求めてミーミー鳴いている。


「………リズモ!」


詰め込まれていたのはお馴染みの、けれども稀少な金貨妖精だ。

それも、淡い赤羽の良縁の祝福をくれる個体ばかりである。



「………狐さん」


視線を戻せば、青紫の瞳を輝かせてこちらを見ている。

どうだ嬉しいだろうと言わんばかりの得意げな顔で見上げてくるので、ネアは思わず破顔した。


(狐の恩返し!)


「有難うございます!ではこれで、私は良縁を手に入れてみせますね!」


そう言うと、狐なりに難しい顔をして指輪があった方の手をふんふんと嗅がれた。

それを取り戻せと言いたいようだ。


「まぁ、もしかしてこの為に?」


昨日の夕方、銀狐はネアが指輪をしていないことに気付いたのだ。

獣の表情ながらに驚愕の目を向け、くるくると円を描くように走り回ってから、また尻尾を逆立ててくるくると円を描いて駆けずり回る。

あまりにも動揺してしまって気の毒になったが、更にその動揺から注意散漫になったのか、ゼベルから逃げようとして不凍湖に落ちる始末。

申し訳なくなったネアは、ヒルドにお風呂に入れて貰った狐をしばらくストーブの前で抱いていた。


腕の中に温もりがあると、心が安らいだからでもある。



その狐は今、得意げにリズモの袋を押し出して、尻尾を揺らしている。


「狐さん、このことは二人の秘密にして下さいね。あそこが駄目ならこちらというような、そんな甘え方をしたくないのです。……だから、今はまだ皆さんにお話しする心の余裕がなくて」


自分が狡い人間であることは承知の上だが、ここではそういう狡さを使いたくなかった。

ディノとは違う意味で大切な人達なのだ。

自分で恥じ入るような、情けない甘え方はしたくない。


それに元々ネアは、傷を負えば一人穴蔵で丸まってやり過ごす獣のような気質だった。

だから、ここにいる狐だけが、ネアが抱えた喪失を知っているということになる。


「暫くして、…………傷口が塞がってから、元気に報告するつもりなのです」


ジタバタするのは嫌いだ。

よけいに血が流れる気がするし、疲れてしまう。

扉を閉めて丸まって、嵐が過ぎ去るのを待つのがネアのスタイルである。

正面から災厄と向き合う、物語の英雄のような素敵な特性は持ち合わせていない。


「む。さては、その方策には反対だという眼差しですね」


ふきゅんと納得のいかない目で鼻を鳴らした銀狐に、ネアは頭を擦り付けた。

銀狐はびっくりしたのか尻尾をけばだたせていたが、途中から気を取り直してネアの頬を懸命に舐めてくれた。



「………それにしても、随分と捕まえましたね。狩りの女王としては複雑な気持ちです」



あまりの祝福の多さにげんなりした頃にそう言えば、銀狐はいささかしょんぼりとした。

袋の中にはまだ、解放待ちのリズモが鳴いている。

頑張って全てを解放する頃には、ネアの良縁の祝福は二十九にもなった。

財運も三つ混ざっていたので、そちらの祝福も有り難くいただく。


全部の祝福を使い切り、ネアはもう一度銀狐を撫で回す。

目を細めて尻尾を振っている銀狐に、淡く微笑みを深める。


この狐の思惑のように、この祝福程度のものでディノの気持ちを変えられるとは思わない。


だが良縁の祝福ならば、魔物の守護を失ってもリーエンベルクに残れるとか、ウィリアム達との友情が続くとか、その程度のことなら得られるかも知れない。

それだけでも良かった。


そこで、銀狐が小さく鳴いた。

慌てて顔を上げればそわそわしているので、どうやら魔物が帰ってくるようだ。


「狐さん、有り難うございました!」


慌ててここは解散し、狐は森の中に、ネアは部屋の中に戻る。


(そう言えば、夜の間はどうしてるんだろう……)


きちんと眠れているのだろうか。

凍えていたり、お腹が空いていたりはしないだろうか。

銀狐が心配になりつつコートを戻して就寝の準備をしていると、程なくしてディノが戻ってきた。


銀狐の感覚の鋭さにあらためて感心する。



「あれ、まだ起きていたんだね」

「お帰りなさいディノ。明日の準備をしていたんです」

「持って行きたいものがあるのかい?」


(あ、まただ………)


微かに不愉快そうな顔をしたくせに、また本心の知れない微笑みに切り替えてしまう。

この魔物の場合、常人にとっての無表情に近いのが、このそつない微笑みなのだ。


「初めてゆく国ですし、危ないところのようなので持ち物確認をしていました」

「……ふうん。確かに、水竜は狡猾で残虐だからね」

「…………そうなのですか?」

「竜の中では最高位ではないが、残忍な性質の竜だよ。風竜を絶滅に近いところまで追い込んだのも水竜だ」



あまり良い話ではなかった。

そんな竜の王に明日は会いに行くのだ。

そもそもネアは一人上手で、あまり他者と関わるのは得意ではない。

エーダリアは正式な会談とも、隠密に会って来いとも言わなかったが、書類等の準備がない以上、後者の接触になるのだろう。

果たして、大丈夫だろうか。


また少し不安になって、魔物に就寝の挨拶をすると寝台に上がって毛布に包まった。

本当はあの銀狐を鞄に入れて連れて行きたいくらいだけれど、危ないところに持ってゆくわけにもいかない。

精神安定剤代わりに水竜の巣に連れて行かれたらあまりにも不憫だ。


ディノはどうやらこれから入浴するようだ。

微かな水音を聞きながら、うつらうつらしていると夢の淵でも何だか怖い思いをしていた。


(近くにいるけど、………もう全然違う)



少なくとも、今のディノは可愛いとは思えない。

魔物らしく、気紛れで底知れぬ生き物だ。



夢の合間に目を覚まし、ふと誰かに猛烈に会いたくなる。

頭を撫でて慰めて欲しいけれど、やはりそうして側にいて欲しいのは大事な魔物だけなのだ。


(準備期間とか、……面倒になってしまったのかしら)


意識が眠り寄りなので、忌避していたことをまた考えてしまう。

とは言え、それを緩和する為に自分を変えられるかと言えばそうでもない。

出来ないものを差し出そうとすれば、いつか綻びが生じ、誰かを責めたくなるだろう。


所詮他人なのだからストレスなく誰かを愛そうだなんて愚かなことだけれど、無謀な努力をする為に踏ん張れる程、ネアは純粋でも無欲でもない。


(そうか。無謀………。もう、無謀なのか)



自分がそう考えていることが悲しくて、ネアはまた蓋をした。

ままならないことは慣れている。

どれだけ体を丸めて一人過ごせばいいのかわからないが、きっと苦しいのは今だけで身に馴染めば心は凪いでゆく筈だ。



懐かしいあの静けさを思い出して、目を閉じた。




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