白い薔薇と檸檬の香り
「どんな方だったのですか?」
不意に、ヒルドがそんなことを聞いた。
目を瞬いて、凝視していた屋台から視線を戻す。
あの揚げチーズパイとは何だろう。
追って、早急に調査せざるを得ない。
「………どんな方?」
「先程話されていた、ネア様が思いを寄せた方のことです」
ヒルドは、話したくなければと前置きはつけない。
何やらとても聞き出す気に満ち溢れているのは、やはり権力への執着などを警戒されているのだろうか。
「穏やかに微笑む方でした。とても古くからある厄介な権力に紐付き、彼はその次の頭首とされていました。理知的で柔軟で、とても人気のあった方でしたね」
「その方とは心を添わせなかったのですか?」
苦味のある檸檬のコロン。
煙草の香りに、袖を捲り上げる音。
そして、群衆の中からこちらを見ていた、あの眼差し。
病室に届けられた、真っ白な薔薇。
「ええ。ご縁がありませんでしたから」
「……そうでしたか。申し訳ありません。立ち入ったことを」
話してもいいとは思う。
けれど、それを誰かに話すなら順番があるとぼんやり考えた。
その時。
視界を過ぎった人影に、ネアは短く息を飲む。
「………っ、」
まるで、過去の亡霊のように。
しかし見誤ったのは一瞬のことで、それはわざとらしく帽子を上げて会釈すると、すぐに雑踏の中に消えて行った。
顔立ちではなく、服装やシルエットが似ているのだと今更に気付く。
さして似てないのにタイミングが悪かったのだ。
「ネア様?」
「………紛らわしい」
地を這うような声に、ヒルドの微笑みが曇る。
小さく拳を握ったネアは、今度遭遇したら八つ当たりしてしまおうと心に誓う。
「ネア、迎えに来たよ」
そんなことをふつふつと考えていたら、唐突に隣から声がかかった。
顔を向けると、そこには擬態をしているものの見慣れた魔物の姿がある。
「……ディノ」
ほっとしてしまったせいで、魔物は喜んだようだ。
唇の端を持ち上げて、美しく微笑みかける。
「ディノ様、周囲の操作をされていますか?」
「問題ない。尾行は君が撒いてしまったし、監視は先程排除されたからね」
「安心いたしました。あなたの姿を見ると教会側が妙な欲を出さないとも限りませんので」
擬態をしていても、造作を変えないディノは美しい。
美貌そのものが階位にも関わるのが魔物なので、薬の魔物にしてはと憶測を呼ぶのだという。
「ディノ、先程アルテアさんを見ました。大聖堂の中でも見かけたのですが、気の所為だと考えていたら、そこの角のところにご本人の姿が」
「こちらで小さな問題があってね。少し会っていたんだ。もう帰らせたけれど、わざと顔を見せたようだね」
「アルテアさんのお隣にも白い髪の方がいましたが、ご一緒に?」
「ウィリアムかな。やれやれ、二人とも暇だな」
呆れたように笑ってネアの髪を撫でたディノに、ネアは、心配事が一つなくなって安堵する。
困った魔物ではあるが、アルテアはディノにとっての数少ない友人のような気がしていた。
しかし、あの殺害宣言以降気配がなかったので、仲違いしてはいないか心配していたのである。
何事もないように会えていたのなら一安心だ。
おまけに、もう一人親しそうな仲間が出て来たではないか。
「ネアは、アルテアが嫌ではないんだね」
「この前のことがあったからでしょうか?」
「自分を殺そうとした男だよ?」
僅かに首を傾げて、雑踏ではぐれないように繋いでくれた手を握る。
「猫に引っ掻かれたから猫を嫌いになるかという感じですね。警戒はしますが、あのような方にとっては自然なことのような気がするので、嫌いではありません。ディノのお友達ですしね」
「友達かどうかは微妙なところだけど、これから少し近くなるからね。ネアが嫌がったら差し替えようと思ってたんだ」
「……近くなる?」
「ヴェルクレアを統括していた魔物が使い物にならなくなってね、アルテアが後任になった」
「あら」
「……ディノ様、それはいつからでしょうか?」
特に支障もないネアに対して、ヒルドの顔色は急降下した。
頭痛に苛まれるように頭に手を当てたヒルドに、ネアは後でのケアが必要だなとしみじみ思う。
さすがにこの連続は可哀想だ。
「つい先程からだよ」
「前任の方は亡くなられたのですか?」
「いや、恋に破れたという酷い理由で城から出てこなくなった。もう五年になるから、そろそろ後任が必要だったんだ」
「……成る程。五年もの間、ヴェルクレアは統括の魔物がいなかったということになりますね………」
一層に顔色を悪くしたヒルドに代わり、ネアがディノに問いかける。
「ディノ、統括の魔物とは何でしょう?」
「おや、君はまだ知らなかったのだね。統括の魔物はね、その国にいる魔物達の統括役だよ。特に縛りはなく常駐もしないけれど、戦乱や王の交代など、要所では混乱を治める役割を果たす」
「責任者という感じでしょうか?」
「責任は取らないけれどね。そういう大きな枠を決めておかないと、若く短絡的な魔物が、すぐに国取りで遊び始めてしまうから」
「…………抑止力なのですね」
「うん。公爵位の魔物は、全てそのように、自領ではない統括領土を持っているんだ。アルテアは、灰かぶりになっていたことを理由に、暫くの間統括をしていなかったから、そろそろ頃合いでもあったのだろう」
「住む土地ではないけれど、いざという時に睨みだけ利かせるぞ的なものでしょうか。と言うことは、ゼノもですか?」
「歌乞いを得たから、その役目を譲渡してしまったと聞いたかな。隣接する土地を統括する公爵に頼んだのだろう」
「ゼノもそんなお役目を果たしていたんですね。知りませんでした」
「魔物は魔物側の事情を、あまり人間に切り出さない。もとより関わりのないことだと考えるから、言う必要がないと考えるんだろう」
「ディノが話してくれたのは、なぜですか?」
「今回はアルテアだったからね。彼でなければ、わざわざ新規の魔物を君に関わらせることもないし、言わなかっただろう」
繋いだ手の指先に力が籠ったので、ネアは手をぶんぶんと振って微笑む。
何だかよくわからないが、今日は迎えにきてくれて嬉しかったのだ。
見上げたディノは、なぜか目元を薄ら染めて挙動不審になった。
この魔物は、髪の毛を引っ張るのは常用にするのに、どうして手を繋ぐと照れてしまうのだろうか。
「ディノ様、ネア様をどこか追尾のかからない範囲で連れて帰っていただけますか?少々、始末してゆきたい問題が起こったようです」
「レイラの妖精かい?それなら心配しなくてもいいよ。アルテアが暇潰しに蹴散らしていったようだ」
「恐らくそのことで、もう少し下位の小さなものを派遣したようですね」
「ふうん。それなら任せよう。レイラが関与しているのであれば、新しい統括から忠告させようかな」
「今回はウィームの問題でもありますので、その前に、ダリルダレンの妖精から釘を刺しておくようにしましょう。懲りないようであれば、お願いするかもしれません」
あの調子でダリルにまた何か言われたら、余計に心が荒むのではないだろうか。
ネアはとても心配になったが、このような問題には口を挟まない主義だ。
しゃしゃり出る程には、政治を知らないし、そもそもネアは、この世界にすらまだ不慣れである。
ヒルドはなぜか、ちゃんと帰ってきますからねと言い残しいなくなる。
死地に赴くような台詞で止めてほしいが、恐らく先程の会話の続きなのだろう。
毎回あのように言われると心臓に悪いので、早々に文言修正依頼を出そうと考えていたら、ディノが立ち止った。
大聖堂前の賑わいを抜け、博物館等の立ち並ぶ瀟洒な通りだ。
道幅が広くなり、夜になると、街路樹には結晶石でのイルミネーションが煌めく。
昼間の飾りつけはシックなリボンやオーナメントでこれもまた趣があり美しかった。
「………ネアは、好きな人がいたのかい?」
風に同じ色合いの長い髪が揺れる。
その髪を縛ったリボンに目を止めて、ネアは唇の端を綻ばせた。
以前、煉瓦の魔物から取り上げたこのリボンも、まだディノは大事に使っているのだ。
こんな生き物を慈しまずして、どうして恐れたり出来るだろう。
「ヒルドさんとの会話が聞こえてしまいましたか?」
「私には、秘密の会話だったのかな?」
「いいえ。知りたいなら、いつでもお話しします。ただ、話の切り出し方が分からなかったので、今迄はディノには話せていませんでした」
「縁がなかったという以上のことを聞いてもいいだろうか?」
灰色の空を雪待鳥が飛んでゆく。
白鷺に似た大きなその鳥が、ネアは結構好きだ。
さっきの会話でネアが言葉にしなかったものの躊躇を、この魔物は嗅ぎ取ったのかもしれない。
まったく、そういうところばかり鋭敏なのだから。
「あまり気持ちのいい話ではないんです。だから、言うとすれば、まずディノに最初に話そうとは思っていたのですが、そもそもの切っ掛けがないまま、今迄話していませんでした」
多くの住民は大聖堂の方に集まっているのだろう。
イブメリアはまだだが、早くも今日は祝祭ムードになっている。
そんな、人通りもまばらな通りを歩きながら、ネアは遠くに見える森の色に目を凝らす。
確かあちらの方だった。
最初に森に落とされ、そこからの道中でエーダリアに拾われたのだ。
「嫌な奴だったのかい?」
「ふふ。どうでしょう。……ただ彼は、私の家族を殺した人でした」
ネアがそう言えば、澄明な水紺の瞳が微かに見開かれる。
「それなのに、傍に居たい程に好きだった?」
「いいえ。彼には、復讐の為に会わなければいけなかったんです」
ディノは更に驚いたようだったので、僅かに心がひやりとした。
彼が魔物でなければ、ネアはこの話をしなかっただろう。
復讐という言葉は一様に美しいものではない。
同族である人間が聞けば、陰惨な罪となるべきものなのだから。
「詳しく聞かせてくれるかい?」
「……詳しく、ですか」
微かな困惑が伝わったのだろうか。
ディノはこともなげにネアを片腕の上に持ち上げると、しっかりと抱き上げた。
いつもは肩にかけるネアの手を、首裏まで回させる。
(まったく、この魔物は)
心の奥の方が掻き毟られる安堵感に、目の奥が熱くなる。
この魔物が時々差し出す揺るぎなさは、こんなにも心地よい。
そのくせに、一片も取り逃がさないぞというしたたかさなのだ。
「………私の両親は、事故で亡くなったと行政に判断されましたが、実際に指示を出し、殺すように命じた人がいました。それが、その人だったのです。……彼の治める組織が行う違法な取引に偶然気付いてしまった両親は、同僚の友人だからと直に話をつけに行ってしまったんです。…………だからずっと、亡くなったと知らされたその時から、私は、これは果たして本当に事故なのだろうかと考えていました」
それでも、事務的な葬儀などの手続きに追われていたネアには、どうしようもないことだった。
子供ではないが大人でもない身の上で、そのような高みの人間を調べ上げられるわけもない。
そう理解出来てしまっていることが、ひどく孤独だった。
「けれども、それが事故ではなかったと知ったんだね?」
「ええ。些細な偶然が幾つか重なったんです。あの日の私は、奇跡的に難を逃れ、彼等の標的から外されていました。けれどもだからこそ、彼等は、追加で私も殺すべきかどうかの算段をする為に、少しだけ私を調べなければいけなかった」
あの日、ネアの両親は一度自宅に帰ってきたが、現場に直行したことになっていた。
母が家電のスイッチを切り忘れたのが原因で、その往復に公用車を使ったことを隠していたのだ。
また、ネアも自宅には戻っていないことになっていた。
こっそりと自宅に帰って翌週に控えた母の誕生日の為の仕込みをしていたので、両親の不意の帰宅に焦ったくらいだ。
父親がその取引の違法さを確定させたのが、当日の午前中だったことや、ネアの年齢が親の仕事に関わるには若かったこと、そんな様々な要因が奇跡的に重なり、ネアを取るに足らない存在に格付けた。
幸運にも、その確認を取られた際に素知らぬ顔で受け流せたのは、単純に日々の手続きに追われて頭が回らなかったからであった。
その時には理解出来なかったものの、実際に何を調べられたのかを認識して呆然としたのはその夜のことだった。
「彼等と繋がっていた父の同僚が、私に接触してくれたお蔭で、私は苦労せずにその輪に滑り込めました。彼は、その方程には迂闊ではなかったのでしょうが、現場には関わらずにいた為に正しく私を知りませんでした。そして私は、その他大勢に紛れ込める容姿をしていたんです。………そうして、こっそりと、彼の取り巻きの一番外側の輪に入りました」
彼は魅力的な男でもあったので、その取り巻き達は、見知らぬ女の参入には慣れていた。
ネアは、父の同僚の偽物の同情に付き合うふりをして、その社交の輪の中から、彼の取り巻きに繋がる女性と知り合ったのだ。
偶然知り合った女性の声がけで足を踏み入れたという体裁のそこは、万華鏡のような華やかな世界。
低く囁き合う秘密にも、彼等は高慢さゆえにその声を潜めず、ネアに色々な情報を齎した。
それは例えば、彼を破滅させるのには何をするべきか、というような事までも。
「私はいつも、何もしないでぼんやりと大勢の輪に混ざるだけの存在でした。得にもならないが害にもならず、そして彼を傷付けるだけの近さもなかった私は、空気のように無視されていました」
「直接、その人物に関わろうとはしなかったのかい?」
「ええ。いつも大勢で集まるお店があって、私は時々そこに呼んでもらうだけの、誰かの知り合いの誰かでしかありませんでした。短く会話をしたことはありますが、その場以外で会ったこともありません」
「………そう、良かった。ネアは、時々ひどい無茶をするからね」
小さく息を吐いたディノは、ネアの背中にそえた手に力を入れる。
「彼は有能で恐ろしく、そして敵も多いひとでした。だから私は、あってはならない時に、あってはならない事件を引き起こす、最初に斜面を転がり落ちる瓦礫になるだけで良かった」
罪を明らかにし、そこに光をあてる。
そんな難しい選択は、無力なネアには選べなかった。
何もせずに輪の中で話に耳を傾け、最も不安定なその瞬間を選び抜いただけ。
けれどもあの日、群衆で賑わう進水式で、災厄の引き金を引いたのはネア自身だ。
華やかな歓声に舞い散る紙吹雪。
正装した男女と、楽団の小気味よい音楽。
そこで、あんな事件を起こしておいて、どうなるかわからなかっただなんて言い訳はするまい。
ネアは、その引き金を引けば彼が死ぬと、最初からわかっていた。
ネアは、下手に無理をせずに、植物から自分で精製した毒薬を使った。
不作法な女性のふりをして彼と同じ卓からグラスを掴み上げ、自分でそれを煽るだけで良かったのだ。
「…………毒を?」
「まぁ。そんな顔をしないで下さい。私は、とても強かでしたし、死ぬつもりは全くありませんでしたので、毒の分量はきちんと加減しましたよ?」
死んでも構わないという気持ちはあったが、積極的に望みはしなかった。
ネアが死んでしまったら、誰が家族の墓前に花を供えるのだろう。
全てが終わったからどうか安らかにと、誰がそう言ってあげられるのだろう。
そんな風に自分を戒め、百合にも似た黄色い可憐な花の若葉を摘む指先が震えるのを、他人事のように見ていたのは、もう遠い記憶になった。
大事な魔物がしょんぼりしてしまったので、ネアは微笑んでその髪を掴んでやった。
そもそも、ディノの練り直しでこの姿になった結果、あの毒のちょっとした副作用ももはや残ってないのだ。
「とは言え、素人配分でしたので、うっかりその後暫く入院する羽目にはなりましたが、特に深刻なこともなく無事に退院して普通の生活が送れました」
「彼はどうなったんだい?」
「燃えない筈の火種に火がついたので、土地の統制が崩れたのでしょう。その土地の利権を狙っていた大きな一族との抗争になり、彼は殺されました。……私は、そうなれば真っ先に殺されるのが彼だろうと、そして、そうなったときに彼等では敵うまいとわかっていて、そうしたんです」
ネアはここで少しだけ考えて、ディノの肩に回していた腕を外し、魔物の滑らかな頬に触れた。
夜明けの色の瞳を正面から覗き込む。
「復讐なんて、ほとんどの人は選ばないでしょう。けれども、一人では不幸や孤独を背負いきれなかった私は、我欲で多くの人を巻き込みました」
滅びゆく古い一族の中で、飛び抜けて有能だった彼だけが、その一族の最後の砦であった。
その結果、本格的な抗争になることはなく、明確に彼だけが標的になったのだそうだ。
しかし、多くはないが血が流れ、誰かを喪って泣いた人はいるだろう。
ネアはまんまと復讐を終え、退院して暫くすると祖国に戻った。
「私は残酷で我儘で、そして強欲です。………ディノは、私のことが嫌いになりますか?」
「私が君のことを嫌う理由なんて、どこにあるんだろう?」
逆に困惑したように問い返され、ネアは深く微笑んだ。
呼び落とされた世界が、剣には剣をと抗える世界で、そしてこのような場所で、本当に良かった。
「そんなことより、その男が死んでいて良かった。だってネアは、彼を殺すことが出来たんだからね」
「復讐の成功を祝ってくれるのですか?」
「殺せてしまうということは、その程度だからだよ。ネアは、私のご主人様だろう?」
そういうことかと得心し、ネアは言葉を飲み込む。
そう言えばこの魔物は、ネアの転職先候補だった酵母の魔物を亡き者にしたのだった。
「…………ネア、もし私が君の大事な誰かを殺したらどうする?」
「ものすごく怒りますが、ディノに復讐をする事は出来ないと思います。しかし、大変に荒ぶるのでやめた方が利口ですからね?」
「私を殺せないのはどうして?」
「ディノが、一番大切な私の魔物だからでしょうか。大事なものを失う痛手にはそう何度も耐えられませんので、いなくならないで下さいね……」
そう答えるとわかっていそうな表情でそこまで言わされたので、ネアは、惨事が起きる前にしっかり躾をするべく、ディノが嫌がりそうなお仕置きを考えておこうと胸に誓った。
とは言え、目の前の綺麗な魔物が意味深く鮮やかに微笑んだので、過去から剥がされるこの思考も、全ては魔物の手の上のことなのかもしれなかった。
あの日、意識を失う前に見た、彼の目の色を覚えている。
ジーク・バレット。それが、ネアの知る家族を殺した人の名前であった。
倒れてゆくネアを見る呆然と瞠られた瞳には、微かな理解故の驚愕があったような気がしたのだが、覚悟して待っていた病室にはとうとう、ネアを害するような手が差し向けられることはなかった。
病室で目を醒ましたのはその翌日のこと。
もう一人の家族もいなくなった筈のネアを深夜に見舞ったのは、一体誰だったのだろう。
枕元に置かれていた真っ白な薔薇のギフトボックスからは、彼が愛用していたコロンと同じ、苦みのある檸檬の香りがした。