4-7 三つ巴
私は今しがた大樹が連行されていった生徒指導室の前で途方にくれていた。
今回の事件、大樹の自業自得なのはもちろんだが、いざ身内が停学にならんとしているとなれば多少心が痛む。
「はぁ…。」
私にも一応大樹を心配するという気持ちが残っていた様だ。
まさか授業をサボってまで大樹の処分を待ってるなんて…少し信じられない。
先ほど大樹を思いっきりつねったことで、多少気が晴れたのかもしれない…いや、そう思うことにする。
なんだかこそばゆいから…。
ブロォォン…
ふと授業中のため静寂を保っていた廊下に、不自然な騒音が響いた。
私は窓から校庭を見下ろすと、直後愕然とした。
「…え?」
裏門に停められたバイクに跨る二人の人物。
二人は同時にヘルメットを外す。
「…お兄…ちゃん?なんで…。」
怒りの形相で校舎を睨めつける義兄。
そして苦笑混じりの顔でそんな義兄の後を追う…確か瀬山さんという人だ…。
おそらく義兄は学校からの呼び出しを受けたのだ。
瀬山さんは…まぁ暇だから着いて来たとかその辺だろうが…。
いよいよ本格的にまずくなってきた…。
「…はぁ…。」
今日は本当にため息ばかりついているような気がする…。
今日1日だけでどれだけの幸せが逃げていったか気になるところだ。
私はそんなことを考えながら、義兄を捕まえる為に走り出した。
大樹視点
「校内を水びたしにした件については君だけに責任があるわけではないとわかりました。」
俺の横で事情を説明してくれた千里さんはホッと息を吐き出す。
聞けば彼女は暴徒鎮圧にも一役も二役もかってくれたらしい。
本人曰く、暴徒らに
「大っ嫌い!」と怒鳴りつけただけらしいが…本当に感謝してもしきれない。
が、しかし、教師の言葉や、先ほど手渡された書類を見るに状況がまったく好転したというわけではなさそうだ。
「はぁ…やっぱ停学っすよねぇ?」
「…そうなるわね。いくら君だけが悪いわけじゃないと言っても、水をかけるのはやりすぎよ。放送室にたてこもったのもね。」
確かにやりすぎました…反省してます。
とはいっても、恋に悩む少年が引き起こした若さ故の過ちってことですませてくれないかなぁ〜と、ちょっと願ってみる。
「…とりあえず今その書類書いて。反省文を…」
あ…やっぱそうなります?
「ちょっと待って下さい!停学はやりすぎじゃないですか!?」
俺の横で必死に抗議する千里さん。
やはり本当に良い女性だ。
腕についたつねり後をつけた人物…雪にも見習って欲しい。
俺はそんな千里さんに、諦めを帯びた笑顔を送る。
「もう良いんですよ…その気持ちだけで俺は充分です。」
「だ、だけど…。」
「ちょっくら罪…償いに行ってきやす…。」
先に言っておくが、別に俺は刑務所に入るわけじゃない。
なぁに…ただ言ってみたかっただけ…
「とにかく停学が解除されるまで自宅謹慎です。いいですね?」
「…はい。」
空気を読めこの教師め…。
せっかくの俺のキメ場を奪いやがって、どういう神経してやがる…。
大体、俺は好きな女に告白して返事すらもらえない上に自宅謹慎を命じられんとする哀れな男子学生だぞ?
少しぐらいの優しさだの、譲歩なりしてくれたって良いだろうよ!
「大樹君…全部声に出てるよ?」
「はっ!」
千里さんの言葉ではっとする。
教師はというと、呆れたため息一つついただけだった…広い御心をお持ちで…。
しかし危ない。
基本は小心者の俺だ、平静を装ったところで動揺は隠しきれないということか。
とにかく落ち着け…
「もう直ぐ保護者の方がいらっしゃいますからね。それまでここで待ってなさい。」
落ち着け…落ち着け…落ち着け…落ち…ん?
保護者=父or母
父or母=不在
結果保護者……………兄貴?
『お兄ちゃん…ちょっと待って。』
『洸!とりあえず落ち着け、な。』
廊下から微かに聞こえてくる声…。
……………。
いやぁあああああああ!
「…九条さんが…。」
いやいや千里さん、顔赤らめてる場合ですか?
洸平視点
僕…俺は廊下をただ無心で歩いていた。
数歩前をどこか不安げな雪が、横を苦笑顔の先輩がそれぞれ歩いている。
「…あの、お兄ちゃん…?」
唐突に雪が声を発する。
「どうした?」
「怒ってる?」
何を当たり前な質問をしているんだろう、この義妹は。
こんな日も高い時間に中々に距離のある学校まで呼び出されたんだぞ?
「怒ってるに決まってるだろ?あの馬鹿、ぶっとばす♪」
「洸…もはや人物設定ぐっちゃぐちゃだぞ。」
ちゃちゃを入れてくる先輩に俺は爽やかな笑顔を向ける。
「先輩もついでにぶっとばしましょうか?大丈夫、動けなくなったとしてもちゃあんと女が待ってる家に送っていってあげますよ。」
「いや…遠慮しとくわ。」
このヘタレパート2め。
さて、ヘタレパート1…愚弟大樹は何処に居やがるのか…。
しびれを切らし始めた俺がそれとなく雪に視線を送ると、いつもの無表情が帰ってくる。
「…そこ、生活指導室。」
雪の指す先には、確かに生活指導室の看板が立っていた。
視線を奥の廊下にやると、数人の生徒が遠めからこちらの様子をうかがっているのがわかった。
野次馬か、ずいぶんと暇なことだな。
「………。」
「お兄ちゃん…ちょっと待って。」
袖口を捕まれ、振り返る。
雪はいつもの無表情でこちらを…。
「………。」
なんだかわからないが…雪の目に秘められた感情はなんとなく読み取ることができた。
こういう目は…苦手だ…。
「雪、離して?」
「………。」
雪は安心したように微笑むと、僕の袖口を離してくれる。
…だんだんと頭が冷えてきた。
回る…回る…
「洸!とりあえず落ち着け、な?」
「落ち着いてますよ、先輩。」
そうだ、怒りなんてここでは置いておこう。
とりあえず保護者として…兄として振舞ってこようか。
多少恥ずかしい気持ちを感じながら、僕はドアノブに手をかけた。
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