童心
家に帰ると、季節外れの雪だるまが玄関に座って待っていた。
「おかえり、ナナちゃん」雪だるまがにこにこしながら話し掛けてくる。「僕、帰ってきたよ。待たせてごめんね」
私はとりあえず、雪だるまの知り合いなんかいないとハッキリ言ったのだけれど、雪だるまはにこにこするばかりである。
「あのね、ナナちゃん」雪だるまが言う。「ナナちゃん、昔 僕を作って遊んでくれたよね 。春になって溶けちゃうの、いやだいやだって泣いたよね。僕 20年かかったけど、たくさん修行して、絶対に溶けない雪だるまになったんだ!これでずーっと一緒に遊べるよ、ナナちゃん!」
嬉しそうな雪だるまが、あんまりにこにこするものだから、私は切なくなって泣いてしまった。
「泣かないでナナちゃん、僕もう居なくなったりしないから」雪だるまが何か言うたびに、胸が締め付けられるようだった。
「馬鹿っ!」私は泣きながら雪だるまを殴った。砕けたまま、溶けない雪がぱらぱらと部屋に散る。「馬鹿!私はもう子供じゃないんだから!もう雪だるまで遊んだりしないの!」
雪だるまが、いやだいやだと悲しそうな顔で泣き叫ぶ。「ナナちゃん、そんなこと言わないでよ。また僕と遊んでよ、僕 もっとナナちゃんと遊んでいたいよ。どうしてそんなことを言うの?たくさん待たせたから、怒っているの?」
どさくさに紛れて私の頬に触れようとする、雪だるまの手を振り払う。
「どうしてどうして、あんなに仲良く遊んだじゃない。そんな怖い顔しないでよ、笑って、ねえ… …笑ってよ……」
雪だるまが、肩を震わせポロポロ涙をこぼして泣いている。
「こんなことになるなら、僕 あのまま消えてしまえばよかったよ….…」
そう言って 雪だるまは、消えることもできずにいつまでもいつまでも泣き続けるのだった。