ファンタジーショートショート:ダンジョンの奥深く
そのモンスターは高難易度のダンジョンの奥深く、ボスフィールドで待ち構えていた。全身は炎のように赤く、立派な角を生やした牛顔、両手に斧を持ったミノタウロスだった。彼はこのダンジョンの最奥で攻略に訪れた冒険者達を血祭りに上げて来た。
稀に強い冒険者に討ち取られ、己の体から角や皮などを戦利品に奪われる事もあったが、それはダンジョンの摂理、また直ぐ復活しては冒険者を待ち構える日々であった。
そんな凶暴極まりないミノタウロスであったが、ダンジョンでただ待ち構える日々は彼には退屈すぎた。そこらの冒険者よりも上等の知性も持ち合わせているミノタウロスにはそれが我慢できなかったのだ。
そこでまず彼は、自分の居るボスフィールドを作り変える事から始める事にした。ボスにはある程度自分の住むフィールドを作り変える事ができる権限をダンジョンから持たされていた。そこで彼は出た事のない地上へ思いを馳せ、作り変える作業に勤しんだ。
一言で言えばやりすぎた。倒した冒険者の持っていた旅行記を参考にしたとはいえ、地下深くのフィールドなのに青い空と眩しい太陽、そして何処からとも無く吹く風、さらさらと流れる小川。あの石ばかりであったフィールドの面影は何処にもなかった。
だが、彼の暴走はそれだけでなかった。今まで様々な冒険者を倒した為。ある意味彼らのドロップアイテムが豊富にあった。そこには様々な本や何かの種子、そして何故か耕作用具まであった。それらで彼は見よう見まねで斧から鍬に持ち替え農作業に勤しむ事にしたのである。
最初は失敗の連続であった農作業も、試行錯誤を繰り返す内に様々な農作物の収穫が、出来るまでになった。それと同時に彼にあった狂暴性が失われていったのである。
そんなある日、ある冒険者の一行がボスフィールドに現れた。聞いた話とは全く違う様子のフィールドに驚く一行。そして何時の間にか人間の言葉まで習得したミノタウロスにこれまた驚く一行。
「よぉぐ来なすった。まぁ何にもねぇがゆっくりしてってくろ。」
そんなミノタウロスの言葉に卒倒しかける一行。そして彼らはミノタウロスに話しかけてみる事にした。
「我らは、お前のその角が目的でここまで来たんだ。その角から作られる薬がどうしても必要なのだ。」
その言葉にミノタウロスは一考し
「んなら、そだなこの角なら分けてやってもすぐ生えでぐる。やってもいいけんど条件があるだ。」
その条件とは、もうガタが来ている耕作用具や鋸や鉋、釘などの建築用具を合わせて求める事であった。
翌朝、角を分けてもらい帰路に着く一行。そしてそれから暫くして、その冒険者一行が約束道理、様々な道具を持って現れた。しかもそれだけでなく彼らは手伝いまでしてくれた。
こうしてフィールドはどんどん作り変えられて行き、木造の建物や温泉が湧く施設、馬、鶏、牛、豚などの家畜小屋等、様々な施設が建てられた。
こうして、冒険者やその後手伝いに来た人々によってミノタウロスの経営する保養所が出来上がった。
ぼろぼろになりながらやっと辿り着いたそのボスフィールド。そこに満面の笑みでミノタウロスが『いらっしゃい』と声を掛けてくるのだ。そしてその疲れた体をそこでとれた野菜や肉の料理、温泉で癒され、ダンジョンに入る前より元気になって帰っていく、またミノタウロスのドロップアイテムも、野菜の収穫など手伝いをすれば貰えると言うお手軽さ、お帰りには冒険者が用意した帰還用のワープポータルから一瞬。
命を懸けても行く価値のある保養所としてそのダンジョンは大人気になった。