永遠神剣 第5位
鋭い光の一閃が、沙月の頬を傷つける。
すぐに傷口から深紅の液体が出てきていた。
傷口に熱い痛みも感じる。
「痛っ」
斑鳩沙月は焦っていた。
閃夜をケイロンに任せ望の所にたどり着いたは良かった。しかし目の前の彼の力が強すぎる。
「どうした斑鳩?息が上がっているぞ」
「くっ、抜かしてなさい!」
先程からいいようにあしらわれていた。
剣を振りぬくが、刀で上手く受け流されすぐに反撃を受ける。
足を狙った鋭い蹴りだ、強化されたそれは当たれば打撲程度ではすまないだろう。
盾では防ぎにくいと判断し、形状を変化させようとしたが----
「そこだ」
「あっ!」
刀で変化途中の盾にぶつけられた。それと同時に蹴撃が飛来し
「先輩!」
ドン!という音と共に痛みが体を貫いた。
そしてそのまま彼女の体は硬い壁に吸い込まれていくが、途中に影が間に入り沙月の体を受け止めた。
「沙月先輩!大丈夫ですか!?」
受け止めた少年、世刻望が心配してくるが、
「望君!前!!」
「え?」
その隙を突かれ暁絶の神剣、『暁天』の銘を持つ刀に肩を貫かれた。
刀で刺されるという、人生で一番大きい痛みに今覚醒した彼が堪えられる筈もなかった。
「望ちゃん!?」
「望君!」
「があああぁぁぁぁ!!!」
彼と彼の幼馴染の悲痛な声が、聞こえれ来るが気にしている暇がない。
チャンスが今しかない。
斬り合い(戦闘)を始めてあまり時間が経っていなかった。
自分の体はミニオンや閃夜との連戦ですでに満身創痍と化していた。
閃夜が接近戦で着けた傷は来る途中で回復させたが、それでも傷口を塞ぐ程度だ。すぐに開いてしまって白い衣装には紅いシミが浮かんでいる。
そんな自分がこの不安定な体勢で剣を振っても、彼には通用しない。
――ならば彼の後ろにケイロンを召喚して……!――
その時の沙月の判断は間違いではなかった。
剣を突き刺している今、絶の体が止まっているのは事実だったしケイロンに任せたのは彼、閃夜の足止めだったのだから、しかし
「えっ?ええええええぇぇぇぇ!??」
しかしそれは予想外の展開をもたらした。
沙月自身も情けない声だったと思う、しかしそれほどの驚愕だったのだ。だって自分が呼び出した場所に現れたのは、礼儀正しい半人半馬の騎士ではなく、
「生徒会長がそんな情けない声で叫ぶもんじゃないぞ」
先程まで自分と凌ぎを削りあっていた。男だったのだから
「閃夜、ミニオンの掃除は終わったのか?」
「ああ悪かったよ、足止めできなくてな」
嫌味ったらしい笑みを浮かべながら、絶がしてきた。
明らかに沙月と望を相手しなければならなかったことを顔で語っている。
閃夜はそれでも圧倒してんじゃないかと、自分の親友の強さに呆れていた。
閃夜はゆっくりと浮かびながら、絶の肩に戻ってき行ったナナシにサポートのお礼を言っておく。
ナナシは何も言わなかったが、その顔には笑みが零れていた。
「ケイロン大丈夫!?」
「申しわけ…ありませ…ん、主」
ケイロンは閃夜の数瞬後に、無事に転送されて来た。
しかしその体は無事とは言えず、鎧には数多くの傷が付いていた。
沙月は自分の神剣を見た。
光りで構成されていた剣は光りが少々鈍っている。
気づかなかった自分の情けなさに腹が立つ。
鎧が派手に壊れている割には肉体のダメージは少ないようだ、
しかし疲労は大きいらしく、前足の膝を突いている。力を大きく使ったらしい。
これ以上の戦闘は危険だと判断し、ケイロンを下がらせる。
これは自分のミスだと沙月はわかった。
自分は閃夜の物体を影で、強化する技術だけではケイロンの鎧を破ることなど出来ないと、思っていたのだ。
しかし相手の神獣の実力を計り違えたのだ。
ライクレアの鬣は神々しい輝きを保っており、とてもではないがさっきまで自分が総合力で勝っていた少年の僕とは思えない程美しい。
神獣の力は主に比例するというのに!
しかもどうやったのかは知らないが、転移まで遣って退けている。
相手の実力が計り知れないほど、恐ろしいことはない。
望と絶の間で動けない沙月は考えるしかなかった。
沙月が思考に耽っているころ、閃夜は絶と話を進めていた。
「それで、これがお前の目的なのか?絶」
「ああそうだ、俺は望おまえを殺す」
絶は確認させるように望をその氷のような瞳で、冷たく見下ろした。
日常で見せた、親友を見守る暖かい瞳は何処にもない。
「だからそれがわからないって言ってんだよ!!」
望は駄々を捏ねる子供のように喚いていた。
当然だろう行き成り人形のような女性達が、自分たちを襲ってきたのだ。
分けの分からない剣で何とか退けたが、今度は自分の一番の親友が何時もとは違う雰囲気で、自分を殺すと言ってきたのだ。
そして今、普通ではない力を持った刀で自分の肩を貫いているのだ。
今、何とか喋れているのはただの気力だ。
極め着けには仲が良いクラスメイトである閃夜が、いきなり目の前に現れたのだ。
混乱は頂点に達しているだろう。
しかも絶とこんな状況で話しているのだ、もしかして閃夜も自分を狙っていると疑う。
「閃夜までなんで………」
「安心しろ俺はお前を殺す気はない」
「えっ」
閃夜はそれを証明するように手に持っている。巨大な黒刃を持った薙刀を普通の竹で作られた物に戻した。
望は当然期待した。やっと自分に味方してくれる人が来たのかと、だが………
「殺しはしないけど絶を止めたりもしない」
希望は簡単になくなった。
まるで水溜りに落ちた雪のようにあっさりと
「な、なんでだよ…それ……」
まるでこの問題には自分は介入しないとでも言いたそうに
むしろ助けを求める望を呆れるように
「な、なんで!?望ちゃんが殺されそうなんだよ?…助けてあげてよ…」
「絶風に言うなら『俺には関係ないことだ』となるが?」
希美が助けを求めているが、閃夜は聞くつもりはないらしい。
つうか…と言う顔で頬をかいていた。
「お前ら…見てなかったのか?俺と沙月会長が戦っている所を」 「な!?」
「え!?」
二人は驚愕した。沙月と閃夜が戦う?
そんなの見てもいないし、意味が全く分からなかった。
「一般人には見られないように結界を張っておきました」
「なるほど、ナイスサポート」
あ、じゃ俺の心配の意味ないじゃんと閃夜は笑っている。
絶の肩にいる何かの言う事も全く分からなかった。
希美はもう俯いてしまった。
完全な不意打ちだった。
予想外の攻撃
いや気づくべきだった。
だだの少女がこんな神剣同士のぶつかり合いを間近かで見ているのに、無事でいることを
普通なら階段に座って気絶している、あのクラスメイトの男女のようになっている。
「……させない」
「!?」
ビクッと神経が以上を感知する。
首に迫り来る処刑の刃
防ぐには影を出す時間もなかった。
「望ちゃんは殺させない!!絶対に!!」
「閃夜!」
絶にマントを引っ張られ後退する。
刃は掠り、せずに空気を切り裂いた感触だけは喉に残っていた。
後ろにいた絶が引かなければ、首と体がお別れしていた。
「うそ…希美ちゃんも…な…の」
「の、希美…」
ふらつきながら望と沙月が立ち上がった。
絶が後退したことで望に刺さっていた『暁天』も抜けた。
途端に血が出てきてくる。
希美が持っていたのは鎌だった。先端には刺すための刃が付いている。
閃夜の知識が正しければあれは鎌槍という、種類のはずだ。
間違いなく神剣、希美の服も普段の制服ではない。
いやそれよりも、今の希美の姿を見た閃夜は体が震えた。
あの瞳、怒りによる激しさでも、憎しみによる禍々しさでもない、あるのは敵を殲滅するための目。
その目は人間よりむしろミニオンに近いと、閃夜は感じていた。
閃夜は震えた。恐怖でも沙月と戦ったときの闘争心でもない。
ライクレアも主の感情に反応してか、主を殺そうとしてきた敵に蹄で音を発て威嚇している。
「絶……あれが覚醒か」
「ああそうだ、何か感じることはないか」
閃夜は希美の神剣覚醒を見て、自分の神剣を刺激しようとしていた。
感情を高ぶらせ自分の神剣『凱闢』を起こそうとしている。
「今の希美と戦えば目覚めるかもな…」
「役者がそろったようだな…」
戦う理由ができ戦闘を始めようと一歩踏み出した瞬間。
「くおーーーーーーーん!!」
激しい振動、
そのせいで飛び出そうとした踏み込みは止められてしまった。
膝を突き、閃夜の横にはライクレアが倒れまいと主を支える。
答えを貰おうと絶に視線を向けた。
いきなりのことに閃夜もさすがに焦った。
「絶これはなんだ!」
「世界が断絶していく…この強大な力は………そうか、神獣か…」
「…今のタイミングで出現する神獣は…」
ナナシの言葉で思い当たった閃夜と絶は、前を見据えた。
覚醒した神剣使い。
閃夜には二択だったが絶は納得がいったように、フッと笑っていた。
そして絶は階段を下りていく。
「おい、これは次回に持ち越しということか?」
「ああそうだ、お前はそっちについて行くんだろう」
「選択肢はすでにすんだが?」
「違いないな」
そう言った絶の顔はそのときだけは、優しいものだった。
「それでは良い旅を二人の親友」
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