アジア食文化協会の和本得男が、健一との出会いに
感謝の気持ちをこめて、必死で励まそうとするのの
健一はさらに悲しみの中に入りこんでしまうのだった。
第十話 沈黙の日々 その5(10)
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〜〜〜
「この度は、大変でしたね」和本は、憔悴しきっている健一に静かに語りかけると、
健一も小さくうなずく。
「大畑さん。あなたとの出会いほど鮮明に覚えているものは、他にはありません。
実は私も、あの時は会員数が増えていたものの、少し将来の見通しが不安定でなりませんでした。
しかし、あなたが新しい分野“タイ料理”で参加してくれて、出会った翌年の2月から3ヶ月くらいのペースでタイ料理研究会を始められてから、当時はまだ未知の部分が多い、“タイ料理”に興味を持ってくれた方々が新たに会員さんとして加わってくれて、今では一番大きな研究会にまで成長しました。
他国の研究会のメンバーもあなたの熱意に刺激され、組織の強化を経て、昨年法人格を取り“社団法人アジア食文化協会(AFCA)”として、本格的な活動を開始できるようになりました。
私の最初の目標を達成し、次は料理コンテストを大々的に開催する事を考えているのです。
恐らく準備などを入れると2、3年後の話でしょうか?」
いつもながら和本の熱い語りが続く。
「また、大畑さんがこうして独立開業された事自体、非常に素晴らしいことで、当然繁盛されているものだと思っておりました。
しかしこの前初めて知ったのですが、そんなに大変だったとは・・・。
私たちが組織をあげて、もっと利用するように応援すればよかったと後悔しております。
そうすれば、千恵子さんもあんな事には・・・あっ失礼」
少し言葉を濁す和本に健一は、涙交じりの鼻に詰まった声で、
「和本さん、千恵子の事は、気になさらないでください。
全て僕が悪かったんです。と言うより早かったんです。
この泰男が生まれる事になり、就職先も和本さんに紹介してもらったというのに・・・。
あそこでもっと頑張ればよかったんだ!嗚呼、どうして店なんか始めたんだろう!!」
と言い放つと、大声で嗚咽するのだった。
実は、健一と千恵子の結婚はいわゆる“出来ちゃった婚”であった。
1986年の1月、千恵子から「すぐに会って欲しい」と連絡があった。
健一が千恵子の家に駆けつけると、いつも明るい表情の千恵子の表情が心なしか
暗いように感じた。
「千恵子どうしたんだ?急に呼んで表情もあまりよくないし」心配そうな健一に、千恵子は暗く小さな声で「実はできたみたいなの」「へ?体にできものか何かがか??」
健一の的外れな答えに、千恵子は少し大きな声になり、
「何言っているのよ!子供ができたみたいなのよ!」「えっ!」
健一は、その瞬間からしばらく固まってしまった。
千恵子はそのまま話を続ける。
「これは健一あなたの子供よ!どうしよう。やっぱり堕ろさないといけないのかしら?」
健一は気を取り戻すと、「いや、ちょっと待ってくれ、明日まで考えさせてくれないか?」
と言うと、とりあえずその場を後にした。
さすがに、その日の夜は食事ものどを通らず、一晩眠れずに、考え込んでいた。
「どうしよう。せっかくの子供は生んで欲しいが、これで結婚したとして現在のアルバイトだけの学生の身分で生活ができるのだろうか?」
今は、親の家から通っているから生活ができている健一にとっては不安が先走った。
将来のことなども考えると悩みが尽きず、静かに時間だけが過ぎていったが、考えを巡らせているうちに、今タイ料理のことを考えているときが最も充実していることにも気づいてきた。
ある結論に達した健一は、約束の時間になると千恵子に会うことにした。
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