2、ほのぼの青年
だんだんと、森の奥へと進むアリス。
道などなく、山道ともいう草木が生い茂る場所をただ進んでいく。
けれども、中々花畑には着かない。
アリスは、一度立ち止まり後ろを振り返った。
もしかして、真っ直ぐ歩いてないのかもしれない。
横にそれてしまっているかも・・・。
それでもアリスは自分を信じることにして、歩くことにした。
そして、願いが通じたのか。
ふと、甘い香りが花をくすぐったかと思うと、森が抜けて広い花畑に出た。
「わぁ・・・」
一面が、赤・黄・青・紫などの虹色をしていた・・・と思われる、場所だった。
つまり、以前はさぞ美しかったであろう、花畑。今は見る影もなく、あとこちで萎れていたり、枯れていたり。
「可哀想・・・」
お花畑を横断しながら、アリスは花たちの姿の胸が痛む。
かつては美しかったであろう花畑は、無残な姿となっており、このまま枯れてなくなってしまうのも時間の問題ではないだろうか。
アリスは、ハッと目的を思い出した。
そうだ、金髪の男を探すために、蒼というひとを探していたのだった。
きょろきょろと辺りを見回すが、枯れた花たちばかりで人の姿などない。
ずっと歩きっぱなしで疲れていたが、それでもアリスは広い花畑を歩き続けた。
実際、森がいきなり開けて広大な花畑があるなど、不可解この上ないが、アリスは蒼を探すことに必死なのと、目の前の悲惨な状況にすっかり失念していた。
前方には高い山があり、花畑の向こうにはひとつだけ家が見える。
この森の奥にある開けた場所は随分と広く、花畑を過ぎても、どこまでもどこまでも続いていた。
「あら・・・あそこかな?」
花畑を過ぎたところに、小さな家があった。
先ほど、花畑から見えた、あの家だ。
あそこにいるのかもしれない。
アリスは、小さな家へと駆け寄った。
さすがに歩き続けで、少し息が上がってきていた。
「すみませんー」
トントン、とドアをノックする。
が。
「留守、かな」
なんとなく周辺を確認してみると、煙突から煙が出ているのが見えた。
「誰か、いるよね・・・多分。・・・え?」
もう一度きょろきょろと辺りを見たアリスは、ドアの下にバスケットがあることに気づいた。そして、よくよく見るとドアの下部に、更に小さなドアがついている。
アリスはしゃがむと、小さなドアノブを回してみた。
カチャ、と小さなドアは開く。
「開いた・・・でも、20センチくらいしかない」
どうやってこのドアから入るのだろう?
「このバスケットも、どうして・・・」
バスケットには、書置きの紙がおいてあった。
「えと・・・“このクッキーを食べれば、小さくなれます?”」
身体が、だろうか。だとすると、この扉から入ることができる。
「・・・ちょっと怪しいけど」
物は試しだ。
少しだけ、齧ってみよう。
「あ、おいしい」
お腹もすいていたし、一口食べたクッキーはアリスの口の中ですぐに無くなった。
折角だし、もう一口、と口をあけたとき。
「・・・・え?」
むくむくむく、と身体がどんどん縮んでいく。
「嘘・・・」
なんと、アリスは身長1メートルほどまで縮んでしまっていた。
「・・・凄い」
もう少し縮めば、小さなドアから入れる。
アリスは、もう少しだけクッキーを齧った。
すると、丁度ドアを通れるほどまで身体が縮小した。
アリスは、残りのクッキーをポケットにしまうと、小さなドアから家へと入っていった。
「こんにちはー」
ひょこっと顔を出して、中を覗き見た。
だが、どれも巨大でよくわからない。
と、思っていると・・・むくむくむく、と身体が大きくなりはじめた。
と思うと、すぐに元の大きさに戻ったようだ。目線が、いつもと同じところにあった。
アリスは、改めて周辺をみた。
「わぁ、可愛い」
部屋の中は、とても暖かな雰囲気が漂っていた。
キッチンではこぽこぽと鍋が音をたてており、傍には小さなリビングがあった。リビングでは丸くて赤い机がひとつと、小さな椅子が3つ。
アリスは、失礼しますーと言って中へと身体を滑り込ませた。
「わぁ、何をつくってるのかな」
台所へと行くと、オーブンで何かが膨らんでいた。ケーキだろうか?とてもいいにおいがする。
「蒼さん、いますかー?」
アリスは、少し声を張り上げた。
見当たる範囲には誰もいないし返事もない。
けれど、この部屋以外に部屋はないようだし、外から見た感じ小さな家だったので、二階もなさそう。
どうやら、本当に誰もいないようだ。
「あれ・・・」
赤い机の上に、小さな箱があった。
その箱から、オーブンから漂う匂いに負けず劣らずおいしそうなにおいがする。
「・・・なんだろ」
覗きこむと、そこには小さなパンケーキがあった。
一口さいずのそれは、可愛らしいトッピンクがしてあり、空腹なアリスにとっては涎が止まらない。
「食べたい・・・」
けれど、ここは他人の家。勝手に入っただけでなく、お菓子まで食べたら絶対に犯罪だ。
「・・・・・でも」
凄く、いいにおいがする。食べたい。
「・・・一口、だけ」
空腹の誘惑と甘い香りには勝てず、ちょっとだけと言い聞かせてひとつ食べた。
予想よりはるかに美味しく、至福のときを過ごしたアリスだが・・・それは、一時の幸せに過ぎなかった。
身体の異変に気づいたのは、それからすぐだった。
むくむくむく。
「きゃっ」
徐々に身体が大きくなり・・・それは、天井にぶつかるまで止まらなかった。
丁度天井のところで腰を曲げ、腕は窓から突き出した状態となり・・・・一瞬にしてぎゅうぎゅう詰まってしまったアリスは、己の軽薄さを後悔した。
「あれは・・・大きくなるパンケーキだったのね」
しょぼん、と呟いたときだった。
「あれ?お客さんかな」
青年の声が、した。
どうやら家の外のようで、アリスは視線をめぐらせるもその姿を見ることができない。
「あの、助けてもらえますか?パンケーキ食べちゃったの。ごめんなさい」
「ああ、パンケーキか。あれは永遠に効くようにつくったから、勝手には元にもどらないよ」
「えっ」
―――どうしよう
「泣かないで。机の上に、もうひとつクッキーの箱があったでしょう?」
声に導かれるように、部屋の中の机を見た。
「何もないけど。パンケーキしか・・・あ、机の下に箱がある」
「ああ、それだよ。そのクッキーをお食べ。元に戻れる」
アリスは、促されるままクッキーを一枚指につまんだ。小さなソレは掴みにくかったが、それでも必死に持って口へと放りこんだ。
「・・・やっぱり、美味しい」
と、思っていると、すぐに身体が縮みだした。
元の標準サイズとなり、アリスはほっと一息つく。
「元に戻ったね、よかったよかった」
かちゃ、と鍵穴が動き、小さい方ではない、標準サイズの扉が開いた。
現れたのは、鍵をもった一人の青年だった。
けれども、森で見た絶世美貌の青年とは違う。むしろ、対照的だった。
眼は鋭くなく、優しげに細められていて。髪は金の長髪ではなく、茶色の短髪。背は高いが、ほのぼのとした雰囲気が漂っている。
「あの、ごめんなさい。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。そしていらっしゃい、お客さんなんて久しぶりだ」
にっこりと微笑む青年に、アリスも微笑んだ。
「あなたが、あの、蒼さん・・・?」
「違うよ。私は、バロヴィルク。この家に住んでる、料理好きなお兄さん。バロでいいよ、呼びにくいだろう?」
「バロ、さん。あの、突然なんですけど、蒼さんという方ご存知ではないですか?」
「アオ、とはアイリオのことかな。つまり、芋虫」
「いもむし!?」
「彼は、物知りなひとでね。でも、危ないよ。彼は変わり者だし、容赦がない。もしかすると、女王に突き出されるかもしれないよ」
「・・・女王さま?」
さっぱり意味がわからない。そもそも、芋虫って??
「今ね、この国は女王陛下の支配下にあるんだよ。花畑も、枯らされた。湖も、干上がった。城以外は曇りの日が増えて、森は歪みあちらと時折繋がるようになった」
「??」
「ああ、?マークを浮かべて・・・わかりにくかったかな。けれど、女王陛下を知らないなんて、君は珍しいね。純粋なのかな」
「それで、あの・・・芋虫って?」
「芋虫は、アイリオのこと。そういう種族なんだよ。会いたいなら、案内するけれど・・・気に入られるかは、保障できないな」
苦笑されて、アリスは少し考えた。
もし、怒らせて、その女王陛下というひとに突き出されたらどうしよう。聞く限り、怖い人のようだし。
「ちょっと怖いけど、お願いします。アオさんに、会いたいです!」
アリスは思い切って言うと、バロは微笑んで、じゃあ行こうかと手を差し出した。
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