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森の国のアリス
作:甲斐仁



1、双子少年


 ぽかぽかと暖かい陽射しの中、アリスは大きなバスケットを手に歩いていた。
 日傘をさし、とんとんとリズムを取るように軽やかに歩いていく。
 ここは日本のド田舎。真夏の今そこここで蝉がうるさく泣いている。アリスは今、丁度地元の森を抜ける最中だった。
 細く続く一本道を、うきうきと歩いていく。

 アリスは、ふと足を止めた。
 視界の端に、さらりと煌く何かが写ったからだ。
 この森の中、なんだろう・・・と、少しだけ気になって、煌いた方へ顔をむけた。

「わぁ・・・」
 そこには、一人の青年が立っていた。煌いて見えたのは、青年の濃い金色の髪だったようだ。
「だれかな・・・」
 この近辺では、見たことがない。外人だろうか。
 青年は、ふとアリスの視線に気づいた。
「貴様は・・・」
「・・・わぁ」
 綺麗な、声。低く透き通るような、心地よい重低音だ。
 しかも、その容姿は目を見張るものであり、それぞれのパーツがこれ以上ないほど整っている。
―――睫、長いなぁ
「かっこいい、ひと」
「・・・」
 青年は、少しだけ目を細めると、黙って踵を返した。
 歩き出す青年を、アリスは慌てておいかける


―――あとから考えれば、なぜ一本しかない道をはずれたのか。なぜ、追いかけようと思ったのか、わからない

 それでも、あのとき、青年を追いかけた事実は・・・もう、消すことができないのだ。




「・・・あれ?」
 ふと気づいたアリスは、周囲を見回した。
 どれも、同じ木・木・木。
 もしかして、迷子になってしまったのだろうか。

 きゅ、とアリスはバスケットを抱えた。
 少しだけ、心細い。でも、あの、金の髪の青年を探したかった。
 会いたい。あの、綺麗なひとに。

 そのとき、ふと歌が聞こえた。
 妙な歌だ・・・。
「あれ、女の子がいるよ」
「あれ、女の子がいるね」
 容器な声に振り向くと、同じ顔が二つ。
 にこにこと微笑んでいた。
「あの、貴方たちは・・・?」
 驚くアリスに、まだ歳若い少年二人は、ずいっと一歩進み寄る。
「僕は、ドルダム」
「僕は、ドルディ」
「ダムって呼んでよ」
「僕は、ディだよ」
「・・・・双子なのね」
「うんそう」
「双子だよ」
 えへへ、と笑うと、ドルダムとドルディはアリスに抱きついた。
「きゃっ」
「ねぇ、お姉さん。一緒に遊ぼう?」
「ね、お姉ちゃん。一緒に遊ぼう?」
「今は、駄目よ。私、金髪の男の人を探しているの」
 え?と少年二人は目を瞬いた。
「お姉さんの、知り合い?」
「お姉ちゃんの、恋人?」
「ううん、知らないひと。ダムくんとディくん、知らない?」
 知らなーい、と二人は声を合わせて首を横に振る。
「遊ぼうよ」
「遊んでよ」
「また、今度ね」



ごめんね、と誤ると、双子がむぅ、膨れる。
「やだやだ、遊ぶぅ」
「遊ぶのぉ」
 困ったアリスは、よしよしと双子の頭をなでた。
「ねぇ、後で遊ぼう?ごめんね、ダム、ディ」
 膨れていた二人だが、ふとディが顔をあげた。
「じゃあ、金の髪のひとが見つかったら、遊んでくれる?」
 ダムも、ゆっくりと顔をあげる。
「だったら、知ってるかもしれない人、教えてあげる」
「えっ、教えてほしい・・・」
「じゃあ、あとで絶対遊んでね」
「約束だよ、お姉ちゃん」
 にっこりと笑う双子に、アリスも笑った。
「そうだ、お姉さん名前なんていうの?」
「うん、お姉ちゃんの名前しりたい!」
「私は、アリスよ。神葉ありす」
 え、と双子は目を見張るのがわかった。
「「本名??」」
 声を合わせる双子に、アリスは微笑んだ。
 自分でも少し変わった名前だと思うけれど、本名なのだから仕方がない。
 ちなみに、平仮名で「ありす」と書く。
「可愛い名前だね」
「うん、可愛いね」
「ありがとう」
 アリスは、それから絶対にあとで遊ぶから、という約束をして、金の髪の青年について尋ねた。
「多分、蒼がしってるよ」
「そうだね、蒼なら知ってるよ」
 あお?
 アリスは、少し首をかしげた。
 すると、双子は軽やかに歌い始めた。
「この森を、もっと真っ直ぐ行くんだよ♪」
「そしたら、お花畑にでるよ♪」
「そこに、蒼はいる♪」
「蒼は、物知りだ♪」
「ありす、君はどうだろう?♪」
「受け入れて、もらえるかな?♪」
「またね、ありす♪」
「またね、ありす♪」
「「あとで、遊ぼう♪」」
 歌いながら、双子はじゃあねと走っていってしまった。
 待って、と後を追おうと試みるが、既に森のどこかへ姿を消してしまったようで、すぐさまシンとした沈黙がおりた。
「こっち、かな・・・」
 アリスは、双子は示した方角へ向かい、歩くことにした。
 そのとき、ふと思ったのだ。
―――あの子たち、日本人?

 ここで、引き返すべきだったのだろう。

 けれども、アリスは先へと進みだした。


連載です。まだ続きますが、宜しくお願いします。
感想などいただけると嬉しいです。











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