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僕とボクの日常攻略 作者:水無月龍那

課題6:僕とボク、俺と私

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課題6:僕とボク、俺と私 4

「う……」
 ボクは床で寝ていたのでしょうか。
 そんな事を思いました。
 違う、とすぐに教えてくれたのは痛む頭です。
 さわってみると、何かがべちゃりと手につきました。
 なんだろうと手を見ると、それは乾きかけの、赤い何か……血でした。

 それでボクは思い出しました。
 朝。チャイムがなったこと。
 それでおにいさんを起こしに行こうとしたこと。
 それから……。
「!」
 慌てて起きあがると、目の前に女の子が居ました。
 あの女の子です。
 緑色のスカートに金色の髪がとてもきれいな女の子。
 その子も何故か血で汚れていて。
 倒れているお兄さんの前に座っていました。

「お兄……さ」
「あれ。目、覚めちゃったの……?」
 ボクの声で女の子が振り向きました。緑色のきれいな目がボクを向きます。でも、その目はなんだか残念そうでした。
 ボクには今、分からないことがたくさんありました。
 あなたは誰ですか?
 どうしてお兄さんが倒れているのですか?
 近くに転がっている、赤黒く汚れた瓶は何ですか?
 たくさん聞きたいことがありました。
 でも。
 それは、何よりも気付きたくなかった物を見て、全部どこかへ行ってしまいました。
 倒れているお兄さんは血だらけでした。
 口からも血が流れています。
 服はあちこち破れていて。色んな物が刺さっていました。
 頭が痛みます。
 ほっぺたが熱いです。
 喉に何かが詰まってるみたいに。息が出来なくて。考えられなくて。

 苦しいです。

「どうし……て」
「うん? なあに? 聞こえない」
 女の子は首を傾げます。
 てのひらに、指がぐっと埋まりそうなくらい。奥歯が音を立てそうな位。ボクは自分の中の何かを堪えていました。
 どんな形かは様々ですが、家に誰も居なくなる。
 何度も見てきたはずの光景なのに。
 こんなに苦しいのは、どうしてでしょう。

 ボクが居た家は、みんな幸せそうに笑っていました。
 確かに、幸せがそこにありました。
 でも、それはある日突然終わってしまうのです。
 長い時間をかけて、みんな死んでしまったり。
 旅行に出かけて、誰も帰ってこなくなったり。
 ボクがおうちの子供と庭で遊んでいる間に、家のみんなが死んでしまっていたり。
 いつもいつも、そうでした。
 ぱたぱたと居なくなって、家だけが残るのです。
 次の家は。
 次の家こそは。
 何度も何度も繰り返して、もう誰かの家に居るのはやめようと思って。
 でも、もらったサッカーボールだけを抱えて外に居るのはとても寂しくて。
 寂しくて寂しくて。どうしようも無かった夜。
 そんな時に出会ったのがお兄さんでした。
 吸血鬼だと聞いて、ちょっとだけ安心した自分も居ました。
 けれども。
 やっぱり、ダメのようです。
 座敷童で在りたいと。
 お兄さんを幸せにしたいと。
 思ったのに。
 叶わない。

 今回も、叶わない?

 そんなの。
 嫌です。

「……どう、して」
「どうして?」
「なんで! お兄さんが……そこでっ! 死んで、るのですか!」
 ボクの声に女の子が驚いた顔をするのと、ボクが女の子に飛びかかったのは、どっちが早かったか分かりません。
 女の子はボクに肩を掴まれ、押され、床にたたきつけられました。
 ボクに、どうしてそれだけの力が出せたのか、それだけ動けたのかも分かりません。
 ただただ。
 胸が苦しくて。
 辛くて。
 目の前の物を受け入れたくない。
 そんな。単なるワガママのような衝動だったのかもしれません。
「どうして! お兄さんが……倒れて、刺され、て……る、なんてっ! そんなこと……ある訳無い! あるはず、ないんです!」
「ある訳無い、なんて……」
 女の子はボクの眼を覗き込んで言います。
 緑色の目に、ボクの影がぼやけていました。
「事実、彼は倒れてる。テオの魂は私の血に混ぜて飲ませたわ」
「――え」
 何を言われたのか、一瞬分からなくて力が緩んだ瞬間。
 見えない力で振り払われてしまいました。
 床に吹き飛ばされた衝撃が頭をぐらぐらと揺らします。
「残念ね。あなたの“お兄さん”はもう居ない。居るのは――私の大事な“お兄さん”」
 もっとも、私は彼の家に住み着いてただけだけど-、と女の子は嬉しそうに笑います。
「物を動かして、音を立てるしか能の無かった私を恐がりもせず受け入れてくれたの」
 なのに、と女の子はお兄さんをちょっとだけ振り返ります。
「あの夜。あの人はバラバラになって帰ってきたのよ」
「いったい、何の話……」
「私は必死になって身体をつなぎ合わせたわ。でも、身体は所詮容れ物だもの。いつかちゃんとした身体をあげなくちゃ。それなら――テオをバラバラにした本人に、責任を取ってもらうのが一番じゃない?」
 ボクには、彼女が何の話をしているのか、全然分かりませんでした。
 ボクに分かることは。ひとつだけです。

 この人は、お兄さんの身体を乗っ取ろうとしている。
 ただでさえボクも、知らなかったとは言え同じようなことをしています。
 だから、彼女を責めることはできません。
 でも。
 ボクは座敷童だから。この家に住んでいる人を。お兄さんを、不幸にするような事は絶対にしません。

 それなのに。
 なのに。なのに……!

「――ねえ。そんな事より」
 女の子は不思議そうに言います。
「ひとつ聞きたいの」
「……え?」
 ぐちゃぐちゃとしていた感情が途端に取り上げられたようで。
 何だろう、とつい次の言葉を待ってしまいました。
「座敷童、って何? あなたがそうなんでしょ?」
「え……はい」
「ねえ。あなたはこの家の餌じゃないと彼は言ってたわ。人間じゃ無いとも」
「……」
「人間なら死んでてもいい傷なのに、そうして目を覚ますし。あなた、何なの?」
 彼女は心の底から不思議そうでした。
「座敷童、とは……家に、幸運を運ぶ存在です」
「へえ? じゃあ、何か出来るの? 彼のように夜の眷属だったり、私みたいに物を自由に動かしたり」
 ボクはふるりと首を横に振ります。
 彼女は「ふーん。何もできないのかあ……」と、首を傾げています。

 確かにボクは座敷童です。
 家に居て、そこに住んでる人の幸せを願って、不幸を遠ざけます。
 もしかしたら、この家に居たいっていう、わがままな言い訳なのかもしれない。
 ボクだって、大きくなって。皆と一緒にご飯を食べたかっただけなのかもしれない。
 だけど。
 だから。
「ボクは……座敷童、だから。お兄さんは……」
 ぐっと、息を飲んで。彼女に言い切りました。
「お兄さんは、絶対っ、不幸になんか……させないんです!」

「――そうだね、さすが我が家の座敷童」

「!?」
 突然の声に、ボクと女の子は一緒に振り向きました。
 きっと、同じ位驚いた顔をしていたのかもしれません。
 何があったのか分からない。
 目の前の物が信じられない。
 嬉しさか驚きとか、戸惑いとかが混ざってよく分からない。
 そんな顔だったのでしょう。
 お兄さんはくすりと笑いました。
 身体のあちこちに刺さっている物を抜きながら、お兄さんは言いました。

「まあ、吸血鬼だからそう簡単に失血死とかしてもねえ」
 それに、と足に刺さったコルク抜きを回しながら、お兄さんの言葉は続きます。
「しきちゃんの自称保護者に説教されるのはゴメンだし、他の人に僕の身体を明け渡すなんてもっとゴメンだ」
 最後のひとつ、ミキサーの刃を抜いて床に転がすと、乾きかけた床の上にかつんとがしました。
 お兄さんの青い目が、女の子をじっと見ます。
「な……どうして、テオは――」
「ねえ。君さ」
 女の子の言葉を遮ってお兄さんの目が鋭く光りました。
「君。テオと一緒に居た子でしょ」
「え、ええ……そうだけど」
 気圧されたのか、戸惑いがちに答える彼女に、お兄さんはにっこりと笑いかけます

「そう、じゃあ。この部屋ある程度片付けとくからさ。テオ連れてきてよ」
 ちょっと話をしよう。

 そう言ったお兄さんの顔は。
 いえ、ボクもそんなに長く一緒に居た訳では無いのでお兄さんの表情を多く知っている訳ではありませんが。
 お兄さんの顔は、とても楽しそうに。
 けれども、なんだか背筋が寒くなりそうな、冷たい笑顔でした。
むつきさん現実世界への帰還。
目を覚ましたら女の子二人が何か睨み合ってるって、あんまり遭遇したくない事態だな、と書きながら思いました。
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