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僕とボクの日常攻略 作者:水無月龍那

課題6:僕とボク、俺と私

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課題6:僕とボク、俺と私 1

 お兄さんの話は、ボクの中に少しずつ染み込んでくるようでした。
 ボクがこれまでぼんやりと過ごしてきた長い日々。そんなまどろみからゆっくりと目が覚めるような。そんなかんじがします。
 考えた事をノートに書いていると、少しだけ嬉しくなるのが分かります。
 ボクが座敷童として何かしようと思ったのは、もしかしたら初めてかもしれません。
 これまでは何がなんだか分からないまま、その力をぽたぽたと家中に落としていただけだったように思います。その力を両手でそっとくみ上げて、きちんと使おう。
 そんな事を、思うようになりました。
 部屋の隅に転がっているサッカーボールが、時々ボクにあの言葉を思い出させます。
「しいちゃんはニセモノなんだって」
 だから、ノートに書き込みます。

 ボクは。この家の座敷童です。

 □ ■ □

 一日サボれば取り戻すのに数日かかる。
 誰がそんなことを言ったのか分からないけど、痛感する事は多々ある。
 今週一週間がまさにそうだった。
 朝は夢から目を覚まし。しきちゃんを直視できないまま朝食を済ませ。
 学校で柿原に溜息をついて。先週聞き逃した分のノートと照らし合わせて授業を追いかける。
 昼はお弁当に有り難く手を合わせて、午後の予定を確認する。
 授業を受けたり、図書室で調べ物をしたり。クラスメイトに「バスケやろうぜ」と誘われて何一つ役に立たなかったりした。力を制御してるとまあ、そんなものだ。
 そして夜。
 冷蔵庫の中身を思い出しながら買い物を済ませ、家へと戻る。
 先日の夢のおかげ、いや、夢のせいか、しきちゃんへの態度は多少軟化したと思う。
 相変わらず色んな衝動はある。奪いたくなったり、優しくしたくなったり、不安定な事この上ない。そこはしきちゃんにも「離れておくように」と言い含めているので何とかなっている。おかげで以前よりは、憂鬱じゃ……ないはずだ。
 夕飯を食べて、テレビを見たり教科書に向き合ったり。少しだけ、アイツの事をしきちゃんと話したりもした。
「しきちゃんは……あいつの事、知ってるの?」
 そんな質問に彼女は小さく「はい」と頷いていた。
「ボクはあの家をずっと見てきましたから、その人も、小さい頃から見てきました。でも、お話をしたのはあの人が大きくなってから……ボクが家から出て行ったあの日だけです」
「そう」
「はい。あの人は……小さい頃から離れでひとりでしたから」
「……そっか」
 そんな会話だった。
 そうして過ごす一週間。平穏と言えば平穏。
 というか、これまでがキツかった分、緩和されたのを実感したような。
 そんな一週間だった。

 そして迎えた土曜日。
 休みの日はできる限り寝ていたい。
 本来夜型の僕だから、朝は苦手だ。
 苦手なんだけど。
 最近はちょっと事情が変わって。
「……6半時、か」
 すっかり朝早くに目が覚めるようになってしまった。
 正直もっと寝たい。が、身体のダルさがそれを許してくれない。

 夢の中では相変わらず灰髪が笑っている。
 起きたら顔は忘れてしまうんだけど。少しずつ、少しずつ。あいつは僕に似てきている気がする。
 それは立ち姿とか。曖昧な表情とか。ちょっとした仕草とか。
「毎朝最悪の目覚めをありがとうございますね……ったく」
 目覚まし時計に溜息をついて、僕は布団を出る。
 着替えて、ドアの前に立つ。
 深呼吸をひとつ。それからイメージをする。
 ドアの向こうからは、かちゃかちゃと食器の音。それからこれは……味噌の匂い。
 ドアを開けたら台所かテーブルの前にしきちゃんが居る。
「おはようございます」と挨拶をしてくれる。
 僕も「おはよう」と返事をして、テレビをつけて。彼女の手伝いをする。
 よし。いける。
 そして僕はドアノブに手をかけ――。

 □ ■ □

 朝。
 外ではちゅんちゅんと雀の声がします。
 まだ薄暗いですが、目を覚ましたボクは布団を畳んで着替えます。
 時計は6時を指していました。
 隣の部屋ではお兄さんがまだ寝ているはずです。
 だから、そっとドアを開けて、音を立てないように朝の支度をします。
 炊飯器の中身を確かめて、冷蔵庫から材料を取り出します。
 今日は土曜日なので、もしかしたら起きてくるのが遅いかもしれません。
 だから、温め直せるものを作ります。
 材料を切って、鍋に入れて。お味噌汁を作って。
 お魚はお兄さんが起きてから焼くことにして、とりあえず準備だけしておきます。
 一通り終えた所で。

 こん、こん。

 どこからか、ノックの音がしました。
「……?」
 部屋、ではありません。お兄さんはまだ起きてきません。
 こん、こん、こん。
 どこからだろう、と耳を澄ませます。
 こん、こん、こん。
「……玄関?」
 どうやら廊下の向こうから聞こえます。その先は、玄関です。
 火がちゃんと消えてるのを確認して、玄関に向かいます。
 のぞき窓はボクの身長では足りません。チェーンはかかっているので、そのままそっと、ドアを開けてみました。

「朝早くに、ごめんなさいね」
 そこに立っていたのは、お人形さんのような女の子でした。
 緑色のスカートに金色の髪がとても綺麗です。
「あ、あの。どちら様、ですか?」
 ドアから覗いたまま訊ねると、その女の子はぺこり、とお辞儀をひとつしました。
「ノエルといいます。スドウさんに、用事があって」
 日本語はボクが聞き取れるくらい上手で、ちょっとほっとします。
 ですが、朝早いこの時間。お兄さんはまだ寝ています。
「あの、お兄さんは……まだ、起きていなくて」
「そう、では、待たせてもらっても?」
「えっ」
 思わず声をあげてしまいました。
 こんなに朝早くやってきて、部屋に上げる訳にはいきません。
 でも、こんな……ボクより年上に見えますが、小さな女の子を外で待たせるには、と考えてしまう時間です。
「ちょっと……聞いてくるので、待っていてもらってもいいですか?」
「はい」
 では、とドアを閉めて、お兄さんの部屋へ向かいます。
 お兄さんは起きていないでしょう。起こしても大丈夫でしょうか。
 考えながら廊下を歩いていたボクは、気が付きませんでした。

 ちゃりん、というチェーンが外れた小さな音に。
 いつの間にか後ろに立っていた影に。
 ボクの頭めがけて飛んできた何かの塊に。

「――っ!?」
 ごすっ、ととても鈍い音がしたことだけは、分かりました。
 その衝撃で、頭が揺さぶられて立っていられません。
 膝をつくと、その横に湯沸かし器が落ちるのが見えました。床にぶつかる直前、ぴたりと一瞬だけ浮いて、それから音も無く転がります。
 ボクが、覚えていたのはここまでです。
「こんな小さな子供を飼ってるなんて。さすが吸血鬼。予想外だったわ……」
 ぐらぐらして暗くなっていく意識の中。
 そんな声が、遠く、とおく。
 きこえたような。
 気が。
 しました。
襲撃とは突然やってくる。そんな6章です。

正月三が日なので更新どうしようと悩んだのですが、まあ。日曜ですし。
今年もまったり更新していくのでよろしくお願いします。
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