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僕とボクの日常攻略 作者:水無月龍那

課題5:僕とボクの話

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課題5:僕とボクの話 3

「僕は今、自分の感情が分からない」
「と、いうと?」
「そこで更に深く聞くか」
「もちろん」
 柿原はさも当たり前のように言う。
 まあ、それはそうだ。これで分かれって言ったって、言葉が足りない事は重々承知だ。
「そうだな……夢の中のアイツは、彼女に恋慕していた」
「恋慕て」
「良いだろ別に言葉の選び方くらい。ともかく、だ。今の僕は彼に感化されたのか……その、同じ感情を持っている、と。思う」
「よし、しきちゃん。須藤から離れた方が良いぞ」
「えっ……」
 ソファからしきちゃんを呼ぶ柿原。それに困惑した表情の彼女。なんか自分が危険人物みたいで不本意だが、事実だからしょうがないと渋い顔の僕。
 三者三様。
「しきちゃん。とりあえずそいつの言う事は聞かなくていいよ」
 座ってて、とそっと促すと彼女はひとつ頷いて椅子の上に落ち着いた。
「まあ、話は何となく分かった」
 柿原はうんうんと頷く。
「とりあえず問題なのは、しきちゃんの魂の同居人が、お前の魂の同居人になったって事だな」
「魂の同居人て」
「良いだろ言葉の選び方くらい」
 さっきの僕の言葉をそのまま返して、柿原は言葉を続ける。
「そうだな……根本的な解決はお前自身がどうにか頑張るか、そいつが諦めてくれるのを待つか、じゃないか?」
「持久戦か……」
 辛いだろ? と柿原は言う。辛いな。と僕は頷く。
「まあ。まず、お前は自分自身を見失わない事だ。なんか、昔の持ち物とか、思い出とか。そう言うのを一層大事にして繋ぎ止めておけ」
「昔の物……」
 考える。夢に見た友人を思い出した。いや、あいつはもう居ない。
 居ないはずだ。
 日本に来る時、持っていた物は殆ど捨ててきてしまった。持ってきた物も、少しずつ捨ててきた。まだ何か残っているだろうか。
「うん。探して……みる」
 あとさ。と付け足すと彼は分かってると頷いた。
「大丈夫。他言なんてしねえよ」
 別に気味が悪いなら離れてくれても構わない、と言いたかったのだけれど。
 柿原は少しも態度が変わらなかった。
「え……あ、うん」
 ちょっと意外なような。想像通りのような。
 何とも言えない気持ちで、曖昧に頷いた。

 □ ■ □

 日も暮れてきたし帰るという柿原を見送るべく、玄関に立つ。
「そうだ。ノートありがと」
「いえいえ。どーいたしまして……あ、そうだ」
「?」
「お前吸血鬼なら十字架とか持っとけば? 恐怖感煽っていいんじゃないの?」
「残念、僕は十字架より信仰心の方が怖いタイプなの」
 手を振って否定すると、それは残念だ、と彼も頷いて鞄を手に取った。
「あとは、なんかあるかちょっと家探してみるかー」
「探すって……そういえばさっきから不思議だったんだけど」
 立ち上がりかけた柿原はその動きを止めて僕の声に応える。
「勘とか、こういう相談事受けても何も動じないとか。お前、何なの?」
「俺? 正体を聞いて驚くなよ?」
「え。何。そんな壮大な何かがあるの?」
 僕の問いに彼はあっさりと首を横に振る。
「いや。ご期待に添えなくて申し訳ないけど、爺ちゃんが神父やってるだけのフツーの人間だ」
 信仰心はばっちりだぜ、というサムズアップは、それはないと即座に却下して送り出す。
「ところで。玄関まで送っといてなんだけど、夕飯食べてかなくていい?」
「ん? いや、家にまだ一昨日のカレーが残ってるから。それをカレーうどんでトドメさすつもりだから」
「そう」
「あ。それより」
 彼の言葉に首を傾げる。
「明日はちゃんと学校来いよ?」
「え。土曜に?」
 何か予定あったっけ、と焦りかけた所で「バレた」と柿原が呟いた。
「嘘か! 一瞬焦ったじゃないか。ああもう。さっさと帰って寝てしまえ」
 柿原ははいはいと笑いながら靴を履き、玄関を開ける。随分と見ていなかった気がする外は、夕暮れを過ぎて夜になっていた。
「そうだ」
「まだ何かあるの」
「後ひとつな。お前もようやく恋煩いという病気をうつされた事だし、そのまま罹っておけばいいんじゃないか、って」
「……は?」
 思わずしきちゃんを見る。彼女も不思議そうに僕を見ていた。
 そうして二人揃って不思議な顔をさせたまま、彼は街の雑踏へと帰っていった。

「ええと。柿原さんの言っていた事は、どういうことでしょう」
「さあ。……でも、しきちゃん。アイツの言う事、真に受けちゃダメだからね」

 □ ■ □

「あれ?」
 晩ご飯を作ろうと冷蔵庫を覗いた僕は、首を傾げた。
 僕の記憶が確かなら。野菜、肉、魚、牛乳、卵。冷蔵庫と冷凍庫に保存されていた食材は、僕が帰ってきた日の物がそのまま入っていた。
 それが何を示すか。なんて、考えるまでもない。
「しきちゃん、もしかして」
 ごはんを食べずにいたのだろうか。そしてそれは、彼女の頷きによって肯定された。
「ボクは元々……ごはん、食べていませんでしたから」
 それは「おはようございます」と同じ位、日常だと言わんばかりの声だった。
「しきちゃん」
「はい」
 僕は彼女に背を向けたまま食材を取り出す。顔は上げない。さっきは柿原が居たからか、目が覚めてすぐだったからか分からないが、今はもう彼女の顔を見る事は出来なかった。
 魚を解凍して、夕食の準備をする。
 魚の下ごしらえをして、鍋に調味料を入れる。
「ご飯はね、ちゃんと食べないといけないよ。たとえ僕達の身体が食事を必要としなくても、心には必要」
 魚を鍋に並べる。火にかけながら独り言のように続ける。
「しきちゃんは座敷童だって、言ってくれたよね」
「はい」
「家に、幸運を運ぶと。言ってたね」
「……はい」
 ちょっとだけ自信なさげなその声に、「それなら」と言葉を繋ぐ。
「僕は君に元気であって欲しい」
 誰に向けた言葉なのだろう。そんな事をふと思う。
「この家を幸せにしたいなら、まずはしきちゃんが元気な事が条件。だから、僕が居なくてもちゃんとご飯は食べて」
 そう、彼女が心身共に元気であってくれたら良い。これが僕の感情なのか、アイツの感情なのかは分からないけれども。
 この言葉は本心でありたかった。
 夢で笑ってた昔の友人が、何度言っても僕の世話を焼きに来ていた理由が、今更だけど分かった気がした。僕はどれだけ人を知らなかったのだろう。
 今になって。この短期間で分かるなんて。これまで生きた長い長い時間をどれだけ無為にして来たのかを思い知る。

 ほら、ひとつを甘くみてはいけないよ。と嘲笑う言葉が聞こえた気がした。
カレーうどんでもカレーが残ったら、ご飯を入れて炒飯で間違いなくトドメが刺せると思ってます。

最近魚と唐揚げが食べたくて仕方ありません。魚は刺身でも火が通っててもいい。
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