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正しい悪魔の飼い方 作者:庚 真守
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使役される悪魔のこと

「すまぬ。そなたは“女”のほうがよいかと思ったのじゃが、つい」
 つい……なんだと言うのか。
 これはどういう状況なんだ。
 言いたいことも考えることも山のようにあるはずだ。それでも今のあたしは、言葉を発するどころか、まともな思考もできない。
 鼻がぶつかりそうなほど近くに、見知らぬ美しい男の顔がある。
 でも、それは同時にあたしのよく知っている美女の顔でもあった。
 やや面長で、少しばかり頬がそげたようだ。
 彫りの深いはっきりとした顔立ちは、性別が入れ替わろうとそのままだった。
 いや、女の姿をしていた時よりもいっそう艶やかな色香と甘さがある。

「……公爵? 本当にアスタロト」
 あたしは、酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせていたに違いない。
 開きっぱなしの口が閉じられなかった。
男も女も超越したような艶やかな美貌は見まがうはずもない。これはアスタロトだ。
「そうだ。“そなたのアスタロト”じゃ」
「…………」
“あたしのもの”なわけなのね。
 ツッコミどころだと思ったが、完全に毒気を抜かれた。

「そなたを怯えさせたくはなかったが、つい我慢ができなくてな」
「へ、へ、へへへへ……へ、平気よ」
 不自然なくらいどもりながら、あたしは答えた。
 口で言っていることと、内心は裏腹だ。
 じつのところ、まったく平気ではない。頭の中は収集がつかないほど混乱している。
 これで、こいつが実はニューハーフでしたとかいうオチなら、まだ判りやすかったかもしれない。
 いきなり目の前で、女の身体から男のものに変わったのだ。
 当節、流行の“男の娘”というやつか。いや違うな。まったく違うぞ。
 今、いちばんあたしがうろたえているのは、そんなことではない。

「ちょ、ちょっと、驚いただけだわ」
 そうよ。なんてことないわ。
 キスくらい、どうってことないわよ。そんなもんでいちいち、どうこういうほど初心じゃないわよ。
 だいたい激しすぎるスキンシップで、こんなもん慣れっこなんだから。生乳揉んだり揉まれたりとか。……いや、そこは慣れちゃダメだ。冷静になれ、自分よ。

「ならばよい」
 よいって、ずいぶん勝手じゃない。
 そう言ってやりたかったのだが、こちらが口を開く前に、また唇が押し付けられる。
 冷たい唇。熱い舌と唾液が絡まる。
 まるで媚薬のようなくちづけ。
 全身が焼けるような熱さを感じた。
 不安と恐ろしさに震えるあたしを、なだめるように舌は蛇のように蠢き、あたしをいっそう蕩けさせる。
 なんて、キスをするんだろう。
 油断すると足の力が抜けそうだった。
 唇が離れる時、思わず彼の舌を追ってしまった。
 堪らなく恥ずかしい。
 それを見てアスタロトは、耳に息を吹き込むように囁く。

「そなたの唇は、甘いな」
 片手であたしの腰を支え、もう片方の手は胸に触れた。
 いや、公爵ははっきりと愛撫している。
 すでに足ががくがくと震えているあたしは、それだけで立っていられなくなりそうだ。
 やがて、その手がゆっくりと服の下へ潜ろうとしている。
 瞬間、わたしは我に返った。

「何しようとしてんの。ドスケベ!!」
 考える前に手が出ていた。
 あたしは、アスタロトに平手をかましていたのだ。
 自分のしたことにもびっくりしたが、殴られたアスタロトのほうは瞠目している。
 心底驚いたのだろう。
 サドっけのある男ほど打たれ弱いという。
 まさにアスタロトがそのタイプなのか。
 張り飛ばした手がじんじんと、熱くなって痛い。
 よけもせず、殴られた頬を押さえたままアスタロトは、あたしを見下ろしている。
 恐ろしげな甲冑と黒衣をまとった美しい男は、まるで捨てられた仔犬のように情けない顔をしていた。



 ……いや、仔悪魔というべきか?


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