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勇者の姉、召喚 作者:奏多
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4章 勇者の姉の意地-3

「イオリ様、お目覚めになられましたか?」
 伊織が目を開くと、目を細めて微笑むルヴィーサの顔が見えた。
 今にも倒れそうな青白い顔で、必死に笑顔をつくっているような表情だ。
 臙脂色の天井にも見覚えがある。そして背中に感じる震動。
「馬車……壊れなかったっけ?」
 たしか鳥に持ち上げられて、すごい音を立てて地面に落ちたはず。多分残っていても半壊状態だろう。
「もう一台ございましたでしょう。そちらにお乗りいただいております」
 そうだ。ついてきた女官が二人、別な馬車に乗ってた。では、その女官はどうなったんだろうと思えば「近衛の方々と相乗りさせて頂いております」との返事がくる。
 伊織は何度かまたたきして、ゆっくりと起き上がった。
 まただ。
 すごく体が重くて眠い。でも眠ったら、地面の中に引きずり込まれそうで、なんだか怖かった。唇を噛んで意識をはっきりさせようとしてみる。
「腕の手当てはさせて頂きました。他に痛いところはございませんか?」
 優しく尋ねてくれるルヴィーサに、足を打ったことを伝える。
「あれから、どうなったのか教えてくれますか?」
 生まれて初めての人事不省体験をした伊織は、自分が意識の無い間、どうなったのか気になってしかたなかった。
 襲撃真っ最中だったのだ。フレイは、アルヴィンは、他の人は怪我をしたりしなかったのだろうか。
「皆様ご無事でいらっしゃいますよ。万が一のために、王太子殿下が周辺に密かに兵を配置して下さっておりまして。さすがは先見の明がある方でございます」
 ルヴィーサの震えるような声で紡がれたの言葉で思い出す。アルヴィンが「伏兵は?」とフレイに尋ねていた事を。
 ルヴィーサは知らなかったようだが、あの二人はシーグ王太子が王家の墓周辺に他にも兵を配置していたことを知っていた。
 確かに、自分のために手を打ってくれたのかもしれない。護衛につけた近衛騎士だけでは、対処できない場合のことを考えたのだろう。
 でもちょっと待て、と伊織は思う。
 そもそも、危険だとわかっているから、自分は母の墓参りを強く望んだりはしなかった。近くにあるのか確認しただけだ。それを急に『ぜひどうぞ』と言い出したのはシーグ王太子だ。しかも当日の朝になってから。
「まさか……」
 守ってもらっていながら、こんなことを考えてはいけないのかもしれない。けれどもし、早期解決を望んだ王太子が囮を用意して、敵をおびき寄せようとしたのだとしたら?
 伊織は口の中が乾いて、水が欲しくなってくる。
 今現在、敵はどこの国の人間なのかはわからないと聞いている。もし自分が囮を使って相手を炙りだすなら、一週間は準備期間を作るだろう。相手にしっかりと情報が伝わるように。
 しかし、シーグ王太子は突然思いついたように出発を促した。さすがに付き従う人々にはもう少し早めに連絡していただろう。けれど、あまりに時間が短い。
 可能性は少ないかと思い始めたところで、伊織の心に一つの問いが浮かぶ。

 ――敵の仲間が、王宮内にいるとしたら?

 自分の考えに、背筋がぞっとした。
 けれど、それならシーグ王太子の行動にもつじつまが合う。この唐突な外出のことを連絡できるのだから、間違いなく敵が城内にいることが証明できる。これで伊織を攫いに来るなら、仲間のいる部署もある程度見通しがつくだろう。
 そして上手く敵を捕獲できれば、手っ取り早く城内に巣くう敵を一掃できる。
 そんなわけないと思いたかった。
 不意を打って突然に出かけた方が、まだしも安全に墓参りができると思っただけだと思いたかった。

 城に戻った伊織は、部屋に落ち着いて着替えを手伝ってもらった。
 そこでふと、いつもより女官の人数が少ないことに気づいた。
 衣装を選ぶとき、いつも青が似合うからと進めていた若い女官と、オレンジみたいないい匂いのクリームを手に塗ってくれていた、ルヴィーサより年上の女官。
「ルヴィーサさん、なんかいつもより人数が少ないみたいですけど、あの二人は風邪でもひいたんですか?」
 なにげなく尋ねた伊織は、それからひどく後悔した。
 唇を引き結んで、目を閉じたルヴィーサの苦渋の表情。原因を察するには、それだけでも十分だった。
「王太子殿下には伏せるように言われておりましたが、これから城内でもご用心いただくために、あえて申し上げます。あの二名はイオリ様に害なす者を手引きした疑いがあるのです。そのため衛兵に引き渡し、現在詮議中でございます」
 つい先刻、頭の中をかけめぐっていた疑惑。それは本当だった。
「今後、こちらへ出入りする女官は充分に吟味した者のみとなります。が、城内を移動されることもおありでしょう。その際には、必ず兵をお連れになりますように」
 伊織は唇を噛み締めた。
「他にも拘束された方がいるんですか?」
 その問いには、ルヴィーサは首を横に振る。
「わたくしは自分の部署の事しか存じ上げません」
 それは嘘だろう。
 毎日一緒に仕事をしていれば、女官や他の侍女以外とも顔をあわせるし、仲良くなったりもするだろう。知っている者が拘束されたり、あるいはそのまた知人が拘束されたら、必ず耳に入るはずだ。衛兵を連れて歩けと厳命されるのだから、尚更城内の女官以外にも密通者がいたのだと推測できる。
 それを話せないなら。
「王太子殿下が伏せるように、か」
 思わず呟いた伊織を、ルヴィーサがはっとした表情で見つめてくる。
 自分は彼女を責めたいわけじゃない。だから笑ってみせた。
「ごめんなさい。なんだか疲れちゃったんで、少し横になってもいいですか?」
 責めるべき相手は他にいる。
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