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僕とボクの大好きな気持ち
作:零・ZA・音


 朝の一時。
 爽やかな朝を演出する小鳥の鳴き声が窓の外から聞こえて、柔らかい日差しがカーテンの隙間から部屋の中を照らしている。もう少ししたら起きようかなと思い、寝返りをうった僕の耳に階段を駆け上がってくる足音が――
「あ……落ちた」
 していたが、「きゃう!」と短い悲鳴を上げて盛大な音をさせて落ちていく音が響いた。
 かと思えば、またすぐに駆け上がってきて僕の部屋の扉が開いていた(正確には吹き飛んだけど)。
「みゃこ!」
 全身ボロボロで「はあはあ」と朝から変態チックな息を吐いている女の子が、僕を見た途端に表情を崩して――
「きゃー! みゃこ、おはよー♪」
「うにゃ!」
 ぴょんっと飛び掛ってきた。
 僕の寝ているベットの上で、僕に馬乗りになって僕を見下ろしている女の子の胸はぷるるんっと揺れ動き、少し上気した頬を近づけてきた。
「……んっ、はむ……んんっ」
「…………もう、いい? あきちゃん」
「ぶー、なんで避けるかな。しかも、みゃこの指は舐め飽きたよ」
 ちゅぽんっと僕の指から唇を離すと、つーっと伝う筋を不服そうに眉を吊り上げて眺めたあとに、舌なめずりをして頬を染めている。
 なんだか色々と失うものは大きいけど、これも今だけは僕の身を守るために必要な尊い犠牲の一つなのだ(力説)。でも、指がふやけるほど舐められるからあまり好きじゃないんだけど、でもやっぱり唇はまだ早いと思うわけですよ。僕とあきちゃんは、まだそんな関係でもないし、だからと言って僕も本当に嫌がっているわけではなく、出来れば唇を重ねたいと思っている。
「今度はその唇をもらうからね。それとー、違うのも舐めてあげるから」
「い、いいって! ……それより下りてよ、あきちゃん」
「ぶーぶー、嫌だよー。ボクはみゃこが大好きなんだもんっ」
 そう言いながら僕の身体を抱きしめている女の子――畑中亜紀はたなかあき(通称:あきちゃん)。隣に住む女の子で幼なじみ。自分の事を『ボク』と呼ぶ元気いっぱいの女の子で、僕の事を『みゃこ』と呼ぶ。僕の名前は野々瀬京きょうであだ名が『みやこ』だったけど、いつの間にかこうなっていた。
「うーん、みゃこの匂いだにゃ」
 鼻をスリスリと僕の胸に擦りつけるあきちゃんは、子猫みたいに目を細めて幸せそうな顔をしている。
 僕も嫌じゃないので頭を撫でたりするけど、あきちゃんのスタイルはナイスバディで(身長は一七〇センチで僕より二〇センチほど高い)胸はFカップでウエストは細く、お尻はぷりんと肉感があり(全て本人の自己申告)、いつも僕にすり付いてはその色気で悩殺しようとしてくる。
 いつもはジーパンにTシャツみたいなカジュアルな格好なのに、今日に限ってはかなり大胆なスリットが入ったミニスカートで、すでに裾が捲れあがってぱんつは見えているし、キャミソールみたいなもの一枚で胸元は大胆にオープンして谷間はクッキリ二つほど見えるツンっとした”もの”はハッキリ……って、ブラは着けているのかな?
 そんな感じの格好で、今度は自分の胸をすり付けて妖しげな声を上げているあきちゃんは、ほんのりと赤い頬で僕を見つめて微笑んでいる。
「みゃこの身体は、ボクにピッタリなんだもん。だからボクの身体も、みゃこにピッタリのはずなんだよ」
 それはどこがピッタリなのか深く追求しない事にしよう。
「それより、どうしたの? 今日は休みだし、まだ七時だよ? 早いって」
「何を言っているのよ。今日は一緒に買い物に行く約束したでしょ? だから、迎えに来たの」
「……そうだっけ?」
「あー! 忘れてるっ。一週間前の日曜日、一緒にお昼御飯を食べているときに『次の休みは一緒に買い物に行こうね』って約束したでしょ。時刻は十二時三七分、ちゃんと記録もあるけど見る?」
 胸元から(正確には胸の谷間から)取り出した小さな手帳を開いて、スラスラと読み上げていくあきちゃん。
 ――あきちゃん手帳。
 僕との約束事は全て時刻まで書かれている秘密手帳らしく、いつも大切そうに胸の谷間に隠されているのだけど、そこに隠す必要性がどこにあるのか僕には分からない。
「そっか……それなら用意するけど、まだ早いでしょ?」
「何を言っているの!」
 突然大声を出したかと思えば僕の上から飛び退くと、そのまま部屋の外へ。扉は外れてプランっと揺れているが、またこれを直さないといけないのかな? と思っている僕の前に大きな紙袋を持ったあきちゃんが部屋に入っていた。
「今から用意して丁度いいのよ。ちょっと待ってね……えっと、ね」
「何しているの? あきちゃん」
 紙袋を引っくり返して中身を確認しているあきちゃんは、とても楽しいそうに鼻歌まじりで上機嫌。だけど、紙袋から出てきた”もの”を見て僕は頭を抱えていた。
「もしかして、またする気なの?」
「もちろん、今日のは可愛いわよー。ボクも一目見て、これならみゃこに似合うと思ったから」
「根本が間違っているよね、それ」
 ベットの上で項垂れている僕をよそに、部屋中に散らばったものを楽しげに見つめては「むふふっ」と妖しげな笑みを浮かべて悦に入っているあきちゃんはヨダレを拭っていた。本気だよ……目が逝ってるし。
「ほら、可愛いワンピースでしょ?」
 あきちゃんが持っているのは可愛らしい白のワンピースで、前が全てボタンになっており、胸元に赤いリボンがワンポイントになっている。見た感じは清楚な感じとちょっとお嬢様って雰囲気がしているけど、これをあきちゃんが着るわけではなく……。
「だから、僕は男なのに……あう」
「それは、ほらっ――これを見てものを言いなさいって」
 あきちゃんはずいっと僕に近寄ってきてどこから出したのか、手鏡を僕の前に出してきた。そこに映ったのはもちろん僕の顔。見間違う事なき僕の顔だけど……。
「どう見ても、女の子じゃないの。これで男って言われても誰も信じないわよ。現に高校に入学して、何人の男子に告白されたと思っているのですか、あなたは!」
「……三〇人、です」
「おしい。正確には三四人、予備軍を含めるとざっと一〇〇人はくだらないわ」
 清々しいまでに言い切るあきちゃんはかっこいいと思う。これまで僕に近付く変な人(主に鼻息荒い男の人)から守ってくれたナイトみたいな女の子で、今でも空手をやっているのでとても強く並の男では歯が立たない。昔は僕もあきちゃんに誘われて一緒にやっていたけど、結果は全戦全敗で悔しくていつしか行くのが嫌になっていた。
 そんな僕を心配してあきちゃんは様子を見に来てくれたけど、やっぱりあきちゃんに負ける……女の子に負けるのは嫌で、かたくなに拒否する僕に『それならボクが、みやこちゃんを守るからいいもんっ』っと、宣言して今に至るわけですが――
「長い睫毛まつげに小犬みたいな円らな瞳、すらっとした小ぶりな鼻に乙女のように可憐で清楚な唇。そして小鳥のような可愛らしい声……。ああ、ボクのお姫様なんだよ、みゃこはっ! だから、お願い――この服を着てボクとデートしてよっ」
「もう、あきちゃん。そんなに力いっぱい言わなくても……」
 女の子”らしく”出来なくなって、言動も性格もすっかりと男勝りな女の子に成長してしまったのだ。
 そんなわけで僕とあきちゃんは微妙に(完全に?)立場が逆だったりするわけで、休みの度に女装させられるのはさすがの僕も予想外だったけど、こうなった一端を僕が限りなく担っているような気がして(あの宣言もあるわけで)、心を痛める毎日である。
 出来れば女装なんてしたくないけど、最終的には”力技”で押し切ってくるあきちゃんに勝てるはずもなく……結局は素直に着る事を選ぶ非力な僕です。だって、自分の命が大切ですから……。
「みゃこは何を着ても似合うけど、ボクの大切なお姫様なんだよ? 誰にも渡すもんですか!」
 子供の頃から一緒にいるあきちゃんの気持ちなんて今更過ぎるくらい知り尽くしているけど、僕だって男なんだ。やっぱり譲れない部分がある。
 それが叶ったら自分から告白しようと思っているけど――
「それでは着替えましょう、おー!」
「……はあ」
 結局、僕はこれを断れるはずもなく、あきちゃんのおもちゃにされるのだった。
 僕って意志弱いな……こうして僕の平穏な休みは波乱万丈な幕開けをしたのであった(現実逃避します)。

 外はとても気持ちいい日差しを空から振りまいて、「元気でやっているかい、若人わこうどよ」って感じの暑苦しい空色をしていた。まあ、夏も押し迫ったこの季節、暑いのは認めよう。しかし、暑苦しいのは嫌だ。意味合いが違うし、隣からは青空以上に清々しい笑顔なのに暑苦しい事この上ない鼻息を振りまいている女の子が一人。
「ねえ、あきちゃん……やっぱり止めようよ。これはさすがに恥ずかしいよっ」
「大丈夫よ、みゃこ。今日のは今までの中で一番似合っているわ! もう、さっきからボクの身体も疼いて我慢するのが大変なんだ。どう責任をとってくれるつもりなんだい?」
 そんな事知らないよ、僕は。しかも、思いっきり男前な台詞なのに似合っているのが、なんだか複雑だよ。
 格好は女の子で口調は僕より男前。まあ、さっきの露出狂紛いの格好ではなく、ちゃんとジャケットを羽織ってくれているあたりはいいだけど、下は相変わらずのスリット入りのミニスカートで逆にエッチっぽいのはどうしてでしょうか?
「だけど、このワンピースって前が全部ボタンなんだけど、やけに間隔が広くない? それに、あの……んうっ、食い込んで気持ち悪いよ」
「やっぱり、ショーツは無理があったかな? 確かにみゃこのは立派だし、収まりきらないかもしれないけど」
 なんでそんな事を知っているのですか、あなたは!
「そんなに見つめられる恥ずかしいよ、みゃこ」
「ひゃん! だ、だから、食い込むからだめだって……あうー」
 身をくねられせて悶えているあきちゃんを僕は見つめているわけではなく睨んでいるんだけど、まったくお構いなしに僕を抱き寄せてお尻をまさぐっているし、ボタンの隙間(間隔が一〇センチ以上っておかしいって)から手を入れて身体を……見境なさ過ぎだよ、あきちゃんは。
「ほら、行くわよー! ボクは今日をどれだけ楽しみにしてた事か」
「……僕は今すぐ帰りたいよ」
 目の前にあるはずの我が家がこんなに遠いとは思わなかった。今日は無事に帰ってこれるのでしょうか?
「それでは、レッツゴー♪」
 笑顔のあきちゃんとは対照的には、僕はため息を吐いて引っ張られていった。


 さすがに日曜日。
 人ゴミを歩くと言う言葉があるけどまさしくその通りで人の数は半端ではなく、駅前にあるショッピングモールは大賑わいである。一歩進んで二歩下がる、みたいな感じで中々前に進む事が出来ないこの状況に疲れきっていた。
「なんで朝なのに、こんなに人が多いの? もう、疲れたよー」
「だらしない事を言わないのよ、みゃこ。ボクの胸に寄りかかってもいいから、しっかりと歩く」
 寄りかかるって言うより、押し付けているのは誰ですか? 頭の後ろで”ふにゅふにゅ”って当たっているんですけど。
「今日はここで、みゃこに似合う服を買うの。みゃこには可愛い服が似合うからねー」
「……はあ、もう何を言っても無駄なんだろうね」
「人間諦めが肝心って、どこかの偉い人も言ってたでしょ? むふふっ、観念しなさい」
 ぐいぐいと僕の頭に胸を押し付けてくるあきちゃんの楽しそうな声を聞きながら、何かが色々と間違っているのは十分に理解して分かっているつもりだけど、あきちゃんが楽しいのならいいのかな? と、思ってしまう自分がいたりする。
 やっぱり、あきちゃんが喜んでくれる事をしてあげたいけど、恥ずかしいのも事実だし……困ったな。
 ……。
 ……。
 そんなわけで完全強制(拒否権なし)で僕は女性下着売り場へと直行されていた。さっきは「服を買いに来た」って言ってたのに、いきなりここってどういう事だよって思ってしまった。だけど目の前には色とりどりの魅惑的な光景が広がっており、心臓がドキドキして僕も一応は男なので(ワンピースを着てますけど)、こういう場所は落ち着かない。
 随分前にあきちゃんに黙って連れて行かれそうになった事があって、そのときは隙をついてうまく逃げ出す事が出来たけど、今日は先手を打たれたみたいだよ。
「うわー、これってどこを隠すんだろうね? こっちは穴が開いてるよ。見て見て、みゃこすごいよー」
 隣で僕が逃げないように腕を胸の間に挟んでいるあきちゃんが楽しそうに下着を選んでいるけど、ここってこのお店でも一番過激な下着が置かれた場所じゃないの? 目に入ってくるのは刺激的過ぎて、クラクラするんだけど。
「あ、あきちゃん……普通のを見ようよー」
「みゃこは恥ずかしがり屋さんだね。まあ、そこが可愛いんだけど、ね」
 と、言いながらお尻を撫でまわすスケベ親父顔負けのあきちゃん。
「よきかな、よきかな、みゃこのお尻は柔らかいなー。本当に男の子って思っちゃうよ」
「だ、だから触らないでって……んふっ、はう」
「もしかしてここに来て興奮しているの? ふーん……やっぱり男の子だね、みゃこ」
 耳元で囁くあきちゃんの声は妙に熱っぽく、耳にあきちゃんの吐息にかかる度に身体がビクッとなってしまう。身体が蕩けてしまいそうになっているのは、やっぱりあきちゃんだから? それとも、この場所のせい?
「それじゃ、こっちにおいで……みゃこ」
「ふにー」
 フラフラとしている僕を支えて歩くあきちゃんは、楽しそうに僕を見下ろしては笑みを浮かべて「みゃこのエッチ」と耳元で囁く。 ……まったく誰のせいだと思ってるんだよ。
 でも、やっぱりこの場所は僕には刺激的なものがいっぱいで、さっきの過激な下着は僕には現実味がなくて興奮するというよりは驚きの方が強かったけど、今度はどこをみてもカラフルなものばかり。
「ここなら大丈夫でしょ? ほらほら、可愛いのがいっぱいだよ」
「……う、うん」
 楽しげなあきちゃんとは対照的には僕は鼻血が出そうなのを堪えていた。
 目の前にあるのは『三枚千円』と書かれた立て札があるワゴンで、普通のぱんつが山のように積まれており……こっちの方が僕には色んな意味で刺激的だった。
「それじゃ、みゃこが好きなのを選んでね」
「な、なんで僕がっ」
「みゃこが穿くんだから、自分で選ぶのは当然でしょ? それにみゃこの趣味も分かって一石二鳥っ」
 なんの一石二鳥ですか、それは。
 ……。
 ……。
 結局、あきちゃんに押し切られて僕はぱんつを選ぶ事になってしまったけど、僕がぱんつを手に取る度に「ふむふむ」とか「へー、そういうのが好きなんだ」とか、隣で手帳に書き込んでいた。
 今日は色んな意味で僕の予想を遥かに越えているよ……あきちゃんは。

 ランジェリーショップのあとは、普通に服を見に行ったがここでもあきちゃんは暴走して、僕にミニスカートを穿かせようと必死だった。更にはアクセサリー、靴、その他諸々、女の子に必須のアイテムを散々見て周り、ショッピングモール内を引き回された僕はやっと休憩する事が許された。足が、足が……棒になるって本当だと知りました。
「ふうー、風が気持ちいいね」
「そうだね……それにしても、疲れたよー」
 屋上の一角に据え付けられたテーブルの上に突っ伏した僕を見て、クスクスと笑っているあきちゃんが優しく僕の髪を撫でてくれる。この手の温もりが僕は好きなんだ。思わずもれそうになる笑みを堪えて僕は目を細めて、その温もりを感じていた。
「にゃう……あきちゃんの手、気持ちいい」
「くすっ、可愛いわね。みゃこの恥ずかしいところをいっぱい見れて、ボクも満足だよ。あー、お腹いっぱい」
「なんか意味が違うような気がするけど……」
「いいのよ。ボクのお腹は食べ物とみゃこで、いっぱいになるようになってるの」
 なんてくだらない話をしながらお昼御飯を軽く食べて、僕達はショッピングモールをあとにした。

 
 帰り道。
 ちょうど家とショッピングモールの中間辺りにある公園に寄って、のんびりと過ごしていた。
「ねえ、みゃこ」
「何? あきちゃん」
 下から聞こえてくるあきちゃんの声。
 ゆっくりと下を向くとあきちゃんも僕を見上げて優しく微笑んでいた。
「今日のデートありがとうね。楽しかったよ」
「僕も楽しかったよ。けど、さすがに下着売り場は恥ずかしかったよ」
「ふふっ、ボクはみゃこと一緒に選べて楽しくて嬉しかったよ。今も幸せで気持ちいいんだけど……なんか、ちょっと落ち着かないかも」
「でも、こういうもの悪くないでしょ? もしかして恥ずかしいのかな? あきちゃん」
 ちょっと意地悪をして聞いてみただけなのに、あきちゃんは顔を真っ赤にして逸らしてしまった。
 公園の中にある芝生の上――そこで僕はあきちゃんを膝枕していた。まあ、あきちゃんが「膝枕して」とおねだりしてきたのだけど、そのときの顔があまりにも可愛かったので僕も頷いてしまった。だけど、こうやっていても嫌な気持ちなんて微塵もなく、むしろ楽しく仕方ない気持ちが胸いっぱいになっている。
「ふふっ、あきちゃん可愛いなー」
「も、もうっ! みゃこは意地悪だよ」
「それなら、あきちゃんも意地悪だよ? 僕にこんな格好させて……恥ずかしいんだからね」
 むすっと頬を膨らせて睨んだ僕を、きょとんとした顔をして見上げていたあきちゃんだったけど、今度は首まで真っ赤にしていた。
「どうしたの? あきちゃん」
「な、なんでもないよ。……ったく、どうしてみゃこは男の子なのに、そんな可愛らしい顔が出来るのかしらね」
「酷いよー、それは! それなら、あきちゃんだって可愛いよ」
「みゃこに言われるとなんだか複雑な心境ねえ」
 どういう意味だよ、それ。
「でも、いつまでもこうしていたいね。僕はあきちゃんと一緒にいれるのが楽しいから」
「ボクも一緒だよ。みゃこは誰にも渡さないからね」
 不思議と自然に出てきた僕の一言に、鼻を鳴らして見上げているあきちゃんと顔を見合わせて笑っていた。いつも一緒で気兼ねなく、なんでも言える仲ってやっぱりいいな。
 ……僕はあきちゃんが好き。
 例えこんなワンピースを着せられても(結構根に持ってます)、セクハラ紛いの事をされても、僕はあきちゃんが大好き。その気持ちに嘘はつけない。
「あきちゃん、大好きだよ」
 だからなのか、自然とこの言葉を口にしていた。
 意識した覚えはなく、ただ自然と口をいて出ていた言葉。この雰囲気が好きだから? でも、後悔なんて感じてないのは、ウジウジと考えるのが馬鹿らしくなかったかも知れない。
「ど、どうしたのっ? いきなりっ」
 驚いて飛び起きたあきちゃんは僕の顔を目を丸くして見ていた。というより、固まっていた。
「さあ、どうしてだろうね。……でも、子供の頃から大好きなんだよ? ねえ、覚えているかな……僕が空手をしなくなった理由を」
「え? うーん、と……確か勝てない子がいるから辞めるって言ったよね? だから、ボクが守るって言って、それから――」
 顎に手を当てて宙を見つめて思い出そうとしているあきちゃんだったけど、どうにも思い出せないようで目を潤ませて僕を見つめていた。思わずその顔に笑ってしまいそうになった僕は慌てて口を抑えたけど、吹き出してしまった。
「くすっ、僕が勝てない子って言うのはあきちゃんだよ。今は黒帯になっちゃったから、ますます勝てなくなったけど、ね」
「ボ、ボクっ! ボクに勝てなかったから、みゃこは空手を辞めちゃったのっ」
「そりゃ……好きな女の子に勝てないのは悔しいからね」
 くすり、と微笑むと一瞬呆けたような顔をしていたあきちゃんだったけど、ぽんっと顔を真っ赤にして俯いた。僕の言った意味が理解出来たらしく、うわ言のように何かを呟いているけどよく聞こえない。いや、聞こえていたけど聞こえないふりをした。
 『ボクもずっと、好きだったよ』
 その言葉と上目遣いで僕を見る姿は、いつものあきちゃんからは想像も出来ないくらいに可愛くて、思わず身体が動いていた。
「――んっ」
 触れたのは一瞬。
 だけど、感じる事の出来た温もりと柔らかさ。
「……不意打ち、成功」
 驚き過ぎて固まってしまったあきちゃんの口からほわーっと魂が抜けるような音がしたかと思えば、そのままうしろ向きに倒れてしまった。
「うわっ、あきちゃん! しっかりして――あきちゃんっ、あきちゃんてばっ」
 幸せそうな顔で芝生の上に寝転がるあきちゃんの頬を叩く僕の声と、「へへへっ」と妖しげな声が公園の中に響いていた。
 
 
 それから色々あって数日後。
 いつもの階段から転げ落ちる音を聞きながら、ゆっくりと上体を起こした瞬間――
「みゃこ、おはよー」
「ひにゃ!」
 部屋の扉を蹴破り(また吹き飛びました)、乱入してきた人影がベットの上にダイブしてきた。
「やんっ、朝から可愛いみゃこちゃんだー」
「ふぐっ」
 いきなりの柔らかい歓迎に一瞬天国が見えた(色んな意味で)が、ぬぽっと顔を胸から出すと満面の笑みを浮かべたあきちゃんがそこにいた。
「おはよ、あきちゃ――んーっ」
 朝の挨拶が終わる前に僕の唇は塞がれていた。それはもう魂吸い取りますって感じのキスですけど。
 あの日曜日のデート以来、あきちゃんの攻撃(朝の襲撃)は過激の一途を辿っており、命の危険を感じて毎日大変な目にあっている。
 あきちゃん曰く『お互いが好きならこれからは遠慮はしないからね』と――。
 今まであれで遠慮されていたんだと思うと、僕の未来がちょっと心配です。多分、間違いなく尻に敷かれるだろうな、僕。
「んんっ……もう、あきちゃん。苦しいよ」
「可愛いボクのお姫様……大好きだよ」
 優しい笑みを浮かべる大好きな人。
「うん、僕も大好きだよ……って、朝からそんなとこを触っちゃだめっ」
「もうっ、こっちのガードは相変わらず固いのね。まあ、朝だから固いのかも知れないけど」
「女の子がそんな事言っちゃだめでしょ!」
 結局、僕達の関係は言葉では表せないものなんだと思う。
 『好き』って言葉を伝え合っても今まで通りの展開だし、あきちゃんは変わりなく僕に女装をさせるし。でも、やっぱり好きな人がそばにいるのは楽しくて――。
 幼なじみから彼氏彼女になっても、変わらない日常。まあ、想像は出来ていたけど……。

「時間もあるし、今日こそは……ね?」
「だ、か、ら、っ! 朝からそんな事を言わないのっ」

 こんな感じで毎朝続いているのだけど……まあ、それも”僕達”だと割り切るしかないのかな?


ちょっと壊れていた間に書いた話です。
私の作品に女装ものが多いのは、小説を書き始めるきっかけになった某ゲームがありますので、その影響です(苦笑)













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