92.ラッガナイト城塞防衛戦15 ~天罰2~
さて、そんな少女たちであるが回復系ギフト自体に罪はない。
むしろ、ホムンクルス王国においては極めて重要な力であった。
何せイッシの戦術方針は「少女たちから死者を出すな」、という無茶なものだったので、回復系ギフトの存在は不可欠だったのである。
彼の意向に基づいてレナトゥスが急遽かき集め、作り上げたのが回復部隊だったわけだ。だが、別の観点から言えば選りすぐりの狂信者たちの集まりでもあった。
彼女たちを前にしてイッシの悪口を言おうものなら、さあ大変、といった具合である。
まあ、そもそもホムンクルスの少女たちの中にそんな娘はいないので、トラブルは発生していなかったのだが。
その上、レナトゥス自身が信教の自由を説いていたので、他の娘たちに教義を強要することもなかった。
従って少女たちの間で、このことが問題として顕在化することはなかったのである。
だが、ロウビル公爵軍相手にはそうはいかない。
公爵軍の中でイッシの名前はそれほど知られていなかった。
だが、それでも故郷を占領したホムンクルス兵たちを率いているのが、一人の人間であることくらいは周知の事実である。
そのため、イッシのことを「裏切り者」、「悪魔」、「もの好き」、「帝国の狗」、「虐殺者」などと散々罵る声が、戦場には当然のことながら蔓延しているのである。
何せ殺し合いの現場だ。
敵対する相手を罵倒するのは当然であり、普通であれば聞き流すべきものにしか過ぎなかった。
・・・だが、狂信者たちにとって、その冒涜は許せるものではなかったのである。
「さあ、かかって来るといいゾ、この異教徒ども!! 聖戦だゾ!」
「口から漏らすのは悲鳴だけで結構ですわ~」
半日と耐えられなかった回復部隊の2名は、激高するとあっさりと持ち場を離れて敵の真正面・・・つまり城門前へと降り立ったのである。
彼女たちはNo.0754、チカトリーチェ。そしてNo.0839、ベネノ。
回復部隊の中でも生粋の狂信者であった。
彼女たちはたった2人ぽっちの人数で、威風堂々と押し寄せる公爵軍に対峙したのである。
・・・
・・
・
「おいおい、何だこいつらは?」
「バカな奴らだ。わざわざ殺されに来やがった!」
いきなり城門上から飛び降りてきた少女たちを見た公爵軍の兵士たちは目を丸くするのと同時に口元に嘲笑を浮かべた。
さもありなん。
チビ助のチカトリーチェとノッポのベネノは悪魔の証である黄金の瞳を不気味に光らせてはいるものの、それ以外には何ら変哲のない少女に見える。
しかもたったの2人。どう考えても哀れな得物でしかない。
何やら「聖戦」だとか、「天罰」などと訳のわからない言葉を吐いてはいるが、すぐに悲鳴へ代わることだろう。
城門に押し寄せる兵士の数は2000名はいる。
もちろん、坂道の幅が10mほどしかないので、一度に攻撃できる人数は限られているが、それでも10、20人で押しつぶしてしまえばすぐだろう。
「城門をなかなか突破できなくてイライラしてたところだ! 悪いがお前らには慰みモンになってもらうぜ!」
「へへへ、ソイツはいいや! てめぇらホムンクルスどもの役割ってのを再教育してやらんとな!!」
下卑た表情をして男たちが集団で少女たちへと迫った。
するとチカトリーチェがベネノをかばうように前に出る。
「私に触れていいのは・・・」
彼女は呟くと、持っていた杖を大きく振りかぶり、
「イッシ様だけだゾっ!!!!!」
なんと無謀なことに敵集団の中に飛び込んだのである。
「ははは、何て馬鹿だ。そっちから来るとはな!!」
「お前ら、顔は傷つけるんじゃねえぞ! だが、手足くらいは構わん!!」
男たちの好き勝手な言葉が飛ぶ。だが、致し方なかろう。
まさに、飛んで火に入る何とやら、なのだから。
言わずもがな、彼女は兵士たちが振り下ろす剣に腕や足などをなます切りにされる。
何とか飛び込んだ際に相手に一撃は加えたらしく、兵士一人を倒したものの、少女は青い血の海に沈んでいた。
「おいジャック、しっかりしろ・・・。ちっ、バカが。こんな奴に殺されやがって・・・。くそ、ただ嬲るだけじゃあ収まらねえ」
「ああ。散々回したあとに捕虜として連行だ。奴隷として売っぱらおう。自分のしたことを思い知らせてやるんだ!」
「それはいいな。しかし、こんなダルマ状態じゃあ、帰るまでもつか? 数分ともたないんじゃ・・・」
男の一人がそう言ってチカトリーチェのほうに手を伸ばす。
だが、その手はあえなく空を切った。
「あれ?」
そうして間抜けな声を上げた次の瞬間、視界が暗転し、意識が遠のくのを感じたのである。
「さっき言ったゾ? 私に触れていいのはイッシ様・・・神様だけだって」
「きっ、貴様・・・どうしてッ!?!?」
そこには兵士の顔面を杖で殴りつぶしたチカトリーチェがいた。
彼女のなます切りにされたはずの四肢は何事もなかったように復元しており、また細かな傷も全て消えている。
また青い血がこびりついているものの、出血自体は止まっていた。
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「山あり谷ありチート転生者」(旧題:異世界で山岳ガイドやってます)
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