81.ラッガナイト城塞防衛戦4 ~ドラグーン部隊の奮戦~
5色の未知の生物が近づ来るに従って、ざわめきが公爵軍の中に広がって行く。
それはロウビルやサリュートの耳にも入った。
なお、グラリップとクルオーツは出撃しており、ここにはいない。
「一体、何事じゃ。また領民どもが大量の糧秣を届けてくれたのかの?」
「すでに半年は戦えるだけの食料がございます。これ以上は管理が難しくなるだけですな。断ることとしましょう」
サリュートがそう言って天幕から出ようとしたところに、伝令兵が駆け込んで来た。
「たっ、大変です!」
「馬鹿もの、何を慌てているのか。物資ならば武器以外は断るようにせよ」
だが、彼の言葉に伝令兵は首を勢いよく横に振る。
「ちっ、違います! そっ、空に、空に!!」
「何だと言うのじゃ! はよう申さぬかッ!!」
ロウビルの叱責に兵はますます狼狽した。
そして、声を上ずらせながら何とか報告を述べる。
「ドラゴン! ドラゴンです!! 数は5体! まもなく本陣にとうちゃッ・・・!」
だが、彼の言葉が最後までつむがれる事はなかった。
ドォォォオオォォオォオォオオオオオン!!!
空気を激震させながら天幕が吹っ飛んだからである。
それと一緒に伝令兵も上空へと巻き上げられてた。
いや・・・!
「サリュートよ・・・。これは・・・悪夢か何かではないのか?」
「は、はい、父上・・・、ですがこれはッ・・・!!」
ロウビルとサリュートは茫然と空を見上げる。
彼らが見ていたのは一緒のものだ。
風を切って遠ざかるドラゴンの群れ。
真っ赤なドラゴンの足には先ほどまで目の前にいた兵が握りつぶされた状態で掴まれていた。
間違いない、アレは自分たちを狙ったのだ。
運が悪ければ、ああして空へと攫われていたのは自分たちであったろう。
ドラゴンたちは5体だった。
レッドドラゴン、イエロードラゴン、グリーンドラゴン、ブルードラゴン、ブラックドラゴンである。
だが、そんな馬鹿なことがあるだろうか。
「ドラゴンなど神話でしか聞いたことがないぞッ・・・!!」
「サリュートよ! いかん! こっちじゃ!!」
ドラゴンたちは掴んだ兵士を放り捨てると反転して再度襲撃を仕掛けてくる。
「合成獣たちよ!!」
「ハハッ!!!」
ロウビルの叫びに合成獣たちが一斉に反応し、かばうように前に出た。
そして一斉に呪文を唱え始める。
「原初にして偉大なるフレイムの神よ。何処かに眠る太古の旋律で悪魔を焼き尽くせ!!」
彼らの手から次々と火球が生み出され、襲撃しようとするドラゴンたちに撃ち込まれた。
・・・
・・
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「うお、けっこう熱いものじゃな!!」
「でもドラゴンなら全然大丈夫そー!!」
フェアンの広域念話帯を通じて騎乗者たちは感想を述べ合う。
ドラゴンの皮膚は厚くて固い。ロウビル軍から放たれた火球で傷つくことはなかった。
「一撃目の奇襲は残念ながら失敗に終わった。今後、大将たちを直接狙うのは難しかろう! あとは持久戦じゃ。城門の圧力を減らすよう派手に立ち回れ!!」
「はい!!」
5匹のドラゴンたちは散開すると、公爵軍を取り囲むように東西南北の四方、そして中央へと飛んでゆく。
敵陣の真ん中を担当するのはアルジェとドラコだ。
「ドラコよ、ここならば火球吐き放題じゃぞ」
銀髪の少女の言葉にレッドドラゴンは歓喜の声を上げるかの様にいななく。
そして、口の中に炎を生成すると、どんどん圧力を高めて行った。
「よし、やれ! ドラコ!!」
アルジェの声とともにレッドドラゴンの火球が放たれる。
合成獣から撃ち続けられる火炎を飲み込みながら、勢いを何ら弱めることなく敵陣の中央へと突き刺さった。
ドォォオオオオン!!
上空にいるアルジェたちにも聞こえる程の爆音が周囲に轟いた。
粉塵が巻き上げられ、巻き込まれた人間たちの阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。
「これは良いの! 命中したのは僅かじゃが、上空からなら極めて安全じゃわい。この戦術を継続するかの」
「でも、敵の一部が坂を上り始めてるみたいですよー。こっちが無理だから、さっさと城門を落とそうとしてるんじゃないですかねー?」
「なんじゃと!?」
アルジェの言葉に対してツッコミを入れて来たのはグリーンドラゴンに騎乗した少女であった。
西を担当する彼女たちの方を見れば、上空でドラゴンがカマイタチを発動させて敵を切り刻んでいる。
そして、確かに兵の一部が坂の方を目指して移動し始めていた。
「こりゃ戦略上いかんの。お主たち地上に降りて戦う事は出来るかの?」
「大丈夫でーす。敵に塩ですねー? 守勢に徹しまーす!」
「後で返してもらうがの!」
彼女たちはそう言うと、一転して地上へと降下を始めたのである。
・・・
・・
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「と言う感じで作戦は計画通りに推移してるみたいね」
フォルトウーナロッソの報告にイッシとプルミエは頷いた。
「城門の攻防は予想通り厳しいようだが、何とか耐えてくれているようだな。先ほど増援も送ったから大丈夫だろう」
「はい。あとドラグーン部隊も形になっているようです。一時的に敵が城門の方へ向かい始めましたが」
今は落ち着きました、と言うプルミエに、難しいものだな、とイッシは苦笑する。
すると彼の両隣にいるフェアンとソワンが微笑んで頷いた。