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74.蜃気楼作戦(前)

「武器庫を早期に制圧できたのは幸いじゃったな。処分するひまもなかったと見える。さすがは西方の鎮守府たるラッガナイト城塞。たんまりとあるのう」


ニヤリとしながらアルジェは言った。


だが、少し疲れているようで普段美しい銀髪がいつもよりくすんで見える。


軍の再編と今回の作戦を同時にこなさなければならないため、忙殺されているのだ。


「再編作業は先ほどナハトに丸投げしてきたし、姫と一緒につつがなくやるじゃろ・・・。あ、そう言えば奴も合同計画の準備があると言っておったの・・・」


思い返せば丸投げした時、ナハトの顔がやや青ざめていたような気がする・・・。


「まっ、まあ大丈夫じゃろ!!」


アルジェは首をぶんぶんと振った。


ともかく編成における要点は先ほど伝えてきた。


あとは参謀本部の面々に一任しておけば良いだろう。


むしろ今回、急遽立案された遅滞作戦「蜃気楼ファタモルガナ」を完遂する方が重要であった。


「足止めを1日するだけで大変なものじゃのう」


「アルジェよ、具合はどうかえ? 作戦は実行出来そうか?」


ブツブツとぼやく少女の後ろから狐耳を生やしたタマモが問い掛けて来た。


尻尾を揺らしながらアルジェの隣に並ぶ。


「タマモか。どうじゃ見てみよ、豪勢なものじゃろう。これだけ矢があればロウビル公爵軍に一泡吹かせられるぞ」


「そうかえ、それを聞いて安心したわ。わらわのギフトは人の目はあざむけても、真実は変えられぬものゆえな。無いものは無い。虚実入り混ぜんと効果は見込めぬのよ」


分かっておる、とアルジェは頷いた。


「ところで肝心の成功率の方はどうなのじゃ? 10倍に見せかけるのじゃぞ? なかなか難しいと思うが・・・」


だが、尻尾しっぽを勢いよく振ってタマモはニヤリと笑う。


「心配は無用ぞえ。昼間ではバレてしまうかもしれぬのう。しかし夜ならば人間の目をあざむくのは容易たやすい。昔から人というのは闇を恐れては、色々な幻想をはぐくんできた生物いきものゆえに、な」


アルジェもその返事を聞いて微笑んだ。


「フォルトウーナロッソの遠見によれば、夜にはアケラカ山の麓を通るとのことじゃ」


タマモは耳をピンと立てた。


「そうかえ。先ほど帝国軍の旗の模様も遠見で確認して来た。ロウビル軍はなぜかわらわ達を帝国の傀儡かいらいと思うておるからの。これを利用しない手はあるまい」


彼女の言葉にアルジェは「そうじゃな」と頷き後ろを振り向いた。


そして、武器庫の入口に控えている部下たちに向かって声を張り上げる。


「準備は整った! これより遅滞作戦”蜃気楼ファタモルガナ”を開始する! 総員、弓矢を持て! できるだけ多くじゃ。用意が出来たら連絡兵はスミレを呼んで来るが良い。アケラカ山まで飛ぶぞっ、待ち伏せじゃ!!」


アルジェの命令に100人の少女たちの返事がこだました。


・・・

・・


「そんな馬鹿なことがあるかッ!! 帝国兵じゃと・・・いや・・・そうか」


天幕を出たロウビルは、アケラカ山の方を見て呟いた。


伝令兵が言った通り、1000はあろうかという松明たいまつが山の中腹ちゅうふくに見える。


炎に照らされているのは帝国の旗だ。


旗印であるドラゴンが見え隠れしている。


彼はその光景を見て、最初こそ狼狽ろうばいしたものの、すぐに冷静になった。


自分たちの予測が裏付けられる格好になったからである。


「ホムンクルスどもを操っていた帝国がついに隠れるのをやめたという訳じゃな。城を占拠し、すでにセブパラレス砦の戦いも始まっておろう。これ以上こちらを欺くことに意味はないということか!」


ロウビルは歯ぎしりをしながら言う。


この地点で襲撃を仕掛けて来たのは、ロウビル軍を全滅させることが目的ではなかろう。


少しでも戦いを長引かせ、城塞の占領状況を継続させることこそが真の目的なのだ。


城塞が帝国の手中にある限り、西方への鎮守府としての機能は失われる。


その状況が生み出すのは西方貴族たちの反乱、そしてイブール王国の孤立である。


また、糧秣に限りのあるロウビル軍の足止めにもなろう。


まさに一石二鳥というわけだ。


「恐るべきバキラ帝の策謀・・・。大陸の半分を占領した器量は伊達ではないと言う事かッ!」


ロウビルは叫ぶと急いで天幕へと戻る。


中では血相を変えたサリュートたちが待っていた。


「どうされますかっ、父上! アケラカは森深き山脈です。隊を編成して討伐することも可能ですが、その場合は明日城塞に着くことは難しくなりますぞ!!」


「その通りです。ですが大将、このまま無視しても結局、挟撃を受けることになりやすぜ」


サリュートの言葉にグラリップが意見を述べた。


クルオーツもその言葉に頷く。


「グラリップ少将の言われる通りですな。無視しても追っ手が掛かりましょう。忌々しい事ですが、ここ数日の強行軍により傭兵たちの士気が下がりつつあります。挟撃を受けながら進軍するのは難しいかと」


彼らの言葉にロウビルはすぐに決断した。


「討伐隊2000を至急編成せよ! グラリップ少将を隊長とし、山狩りを行え!」

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