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72.城門を閉じよ

「ところでベルデ。実際に見に来てみてどうだった? 不審な点はあったかい?」


イッシの言葉にベルデは微笑んだまま口を開いた。


「はーい、ますたー。やっぱりー、かくされたしかけがーありましたー。こっちですー」


少女に手を引かれる形で城の表に向かう。


普段は閉まっている城門は現在開け放たれており、巨大なアーチ状の通路が出現していた。


そこを通って城の外へ出る。


城門からは石造りの坂道がカーブを描きながら伸びており、城下町へと繋がっていた。


坂はかなり長く、その上急勾配である。


そのため城塞と城下町とはかなり高低差があった。


もともと大きな沼地が干上がり、そこに作ったのがラッガナイト城塞都市である。城のある場所は後から土を積み上げたのだ。


この坂を登るしか城へと至る道はなく、防衛には極めて有利な地形であった。


「それにしても人気ひとけが全然ないなあ。こんなに良い天気なのに」


「とーぜんとーおもうー」


ホムンクルスたちが城塞を占拠したという衝撃的なニュースは、その日の内に街中に知れ渡った。


その結果、大量の領民たちが城へと押しかけて来たのである。


ある男は真実を確かめようと城内へ侵入しようとし、ある女はホムンクルスを悪魔と罵った。


またある聖職者は守衛の少女に石を投げつけ、またその隣にいた信心深そうな老人は火を放とう躍起になった。


万事そんな具合だったので、イッシとしては法にのっとって然るべき対処をするしか方法がなかった。


というわけで、物言わぬ領民が大量に坂の外側へと投げ捨てられることになったわけである。


「真下の民家はさぞ迷惑したことだろうなあ・・・」


「そんなことよりー、これですよー」


失われた領民の命に何ら関心を払うことなく、少女はあっさりと話題を変えた。


ベルデが指さしたのは門扉を支える壁の一部である。


重く丈夫な門扉もんぴを支えるに相応しい石造りの立派な城壁だ。


しかし、それだけであって、何ら変哲があるようには見えない。


強いて言えば少し黒ずんでいることくらいだろうか?


・・・だが、ベルデが言うのであれば何かあることに間違いないだろう。


空間把握をギフトとする彼女以上に、この城の構造に詳しい者はいないのだ。


「ふうん、見た感じただの壁にしか見えないけどなあ・・・。確か門を閉めないと作動しないんだよな。とにかく一度試してみるか」


彼がそう呟くとベルデが「はいー」と言って、門番を命じられていた少女たちに声をかけた。


「みんなー、とびらーをーしめるんだー!」


気の抜けた声であったが周囲にいた少女たちは「了解でーす」と素直に答える。


そして重い扉を数十人掛りで閉め始めた。


一体何トンあるのかという程の分厚い鉄製の扉である。


閉じた後は太いかんぬきを内側から掛けるのだ。


まさに不落の城に相応しい堅牢さであった。


ズゥゥゥウウウウゥゥウゥッゥウンンンンン・・・。


数分ほど掛かってやっと扉が閉まると、二人だけが城塞の外に取り残される形になった。


イッシが試しとばかりに門を全力で押すが、うんともすんとも言わない。


「これはすごいな。ナハトでも多分無理だ」


「レナトゥスでもむりかもー!」


ベルデがあまりの迫力に「すごいー」と言いながらペタペタと城門に触れていた。


彼はその幼い仕草を微笑ましく見ながらも、先ほどベルデが示してくれた部分を指差す。


「ベルデ、それで仕掛けとやらはここだったかな?」


「そですー、それをおしますとー」


彼女が近寄って来て背伸びをする。


そして少しだけ黒ずんだ箇所をコツコツと叩いた。


すると、ガゴンッ!という音が響き、続いてズズズズズズ!という歯車が回るような音が聞こえてきた。


「一体なにが起こることやら・・・」


「たしかーこのあたりー、だったかなー?」


少女が城門の手前を指差す。


それは舗装されただけの単なる地面にしか見えない。


イッシは首を傾げながら眺める。


すると、彼女が指さしていた箇所が突然、ガコンッ! とへこんだ。


そして、そのまま沈み込んで行く。


そこに現れたのはちょうど人が通れる程のサイズの下り階段であった。


それは城門の下をくぐるように伸びており、ちょうど扉の裏手に出られるようになっている。


「気付かなかったな。門の裏手の石畳も外れるようだ。こうして中に入り込んでかんぬきを外すわけだ。そうすれば城塞を簡単に落とせる」


「はいー。たぶん、まんがいちー、てきにせんりょーされたときのー、せーふてぃーねっとー?」


「そう言うことだな。恐らく領主と側近くらいしか知らない仕掛けだろう」


「わたしもー、ギフトつかったときー、くーどーだー、っておもったけどー、なんのためかは分かんなかったー」


どーしてあることしってたのー? と、頭上にハテナマークを浮かべるベルデにイッシは笑いながら、


「よく居眠りをする娘に教えてもらったんだ。”少女たちのいる高い場所に、いつの間にか赤色が混じり込む。それによって金色の光はゆっくりと数を減らし、くすんで行く”んだそうだ。秘密の通路がどこかにありそうだな、と」


「うー、よくわかんないー。でー、これはうめといたらいいー?」


「いや、逆だよ。むしろ伸ばしてもらえるとありがたい」


首を傾げるベルデに彼は微笑むと、ある指示を与えたのであった。


・・・

・・


「父上、みな集まりました」


サリュートの言葉にロウビルは頷く。


昼夜を問わぬ強行軍も2日目を迎えていた。


明日の朝方にはラッガナイトへと到達する予定である。


無理をすれば今夜中に着くことも可能だ。


だが到着すれば即開戦となる可能性が高い。


強行軍の疲労を癒すため、小休止を取るなら今しかタイミングはなかった。


ロウビルからすれば一刻も早く城塞を敵から奪い返したい気持ちで一杯であるが、兵が疲弊したままでは勝てるものも勝てなくなる。


特に傭兵が多く、あまり無茶を強要し続ければ戦場につく前に脱走する恐れさえあった。


金で釣るのも限界があるのだ。


そこで公爵は思い切って小休止を部隊に命じたのである。


そしてその合間あいまを利用して、天幕には元帥であるロウビル公爵に加えて、騎馬隊長の大将サリュート、ソーサラー部隊を率いるクルオーツ少将、陸兵をまとめるグラリップ少将という、公爵領の主だったメンツが集まっていた。


明日の決戦に向けた最後の作戦会議という訳である。

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