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70.ホムンクルスのみる夢

「本日はどういったご用件でこのような場所までいらしたのですか?」


シシアがイッシを見上げて言った。


彼は少女のそばまで来て座り込む。


「いや、最近どういった夢を見たかな、と思ってな。占領作戦の方はすごく助かった」


その言葉にシシアは微笑むと、


「昨日見た夢では、灰色をした山のような高い場所に大きな怒声が響いていました」


と口にする。


イッシが「ラッガナイト城塞のことか?」と呟く。


だが、彼女はそれには答えず言葉を重ねた。


「金色の瞳をした少女たちが低き場所にいる者たちと戦っていました。とても強い力が彼女たちを取り巻いていたように思います。命を落とす者も出かねないような恐ろしい力です」


シシアのセリフに彼は顎を撫でる。


「堅牢なるこの城であったとしても万の兵士で責め立てられれば、僕たちも無傷ではいられないということかな?」


少女は首を振りながら、


「詳しいことは分かりません」


と答える。


「風を象徴する緑、邪法を表す黒、暴力を示す黄、そして人の狂気を司る赤、深淵の青。様々な色彩の奔流を感じました」


「なるほど」


イッシは何かに納得したように頷きながら、


「他には何かあるか。特別な出来事があったたりだとか?」


「そうですね・・・」


とシシアは再びまぶたを閉じた。


彼女も夢の全てを覚えていられる訳ではない。だから思い出す作業は困難なものだ。


その上、シシアのギフトはけして万能ではない。


ミグサイドベリカ砦の夢は見なかったのだから・・・。


それでも自分たちの姉妹の運命を少しでも良くすることが出来るならば、苦労をいとう気にはならなかった。


「ああ、一つぼんやりとしたイメージを覚えています。少女たちのいる高い場所に、いつの間にか赤色が混じり込むのです。それによって金色の光はゆっくりと数を減らし、くすんで行きました」


彼は少女の言葉に少し考えてから、「そうか」と言った。


「それで彼女たちは死ぬのかな?」


イッシの質問に、シシアは今度ははっきりと頷いた。


「このままでは死ぬでしょう。光が弱まって行きます。ですが・・・」


少女はニコリとしながら続ける。


「様々な場所に散らばっていた青い光が混じり、その後たちまち黒き光で世界が覆われるイメージもまた同時に現れました。何を示しているのかはわかりませんが」


イッシは「うーむ」と眉根を寄せて、


「少し周りにも相談してみるかな」


と口にする。


するとシシアが彼の手に触れた。


「ですが我が君。あまりご無理をなさらないで下さい。私たちの一番の願いはイッシ様が健やかであられることなのですよ」


少女の手がひんやりとしているのを感じながら、


「もちろん、分かっているよ」


とイッシは答える。


そして少女の髪を撫でた。


シシアは自分の主人に髪を触れられとまぶたを閉じて熱い息を漏らす。


「・・・いつもそうやって誤魔化されますが、冗談で言っているのではありませんよ」


少女はイッシの膝に頭を預ける。


「私たちは主のために死を厭う気持ちが薄いのです。主を持たないうちはそうでもないのですが・・・。だから私たちを存分にお使い下さい。惜しむことはありません。・・・ふふふ、それにしても人間たちが私たちを人形と蔑む理由も理解できるというもの。生物として備えるべき生存本能が私たちからは欠落しているのですから」


自虐的に語るシシアの頭を撫でながら、しかし彼はあっけらかんと首を振った。


「真面目なやつだなあ。そんなに固く考える必要はないさ。自主性は少ないけど忠義心が天元突破してるって事だろう? 不義理な奴よりよほど良い。長所と思えばいいじゃないか」


イッシの言葉に少女は目を丸くしながら、


「長所・・・なのですか?」


と口にした。彼はためらうことなく頷くと、


「そうだよ。誰にだって短所もあれば、長所もあるさ。それに2つは表裏一体。優しい人は優柔不断。まじめなやつは頑固、とかね。そう思っておけば良いのさ」


少女はしばらく驚いていたが、やがて微笑むと膝から頭を上げた。


そして彼の頬に口づけすると、


「愛しいお方。必ずこの世界をイッシ様に差し上げますからね」


と口にするのであった。


「いや、だから、それはいいから」


イッシの乾いた声が部屋に響いた。


・・・

・・


その部屋には軍の戦闘面における幹部、それにオブザーバーとしてフォルトウーナロッソが呼ばれていた。


「・・・との夢見の結果をマスターからお伝え頂きました。よって、念の為に部隊編成を急遽変更したく思います」


プルミエの言葉にアルジェが美しい銀の髪を弄りながら頷いた。


「それは構わんがの。じゃが日が足りなくはないかの?」


彼女の言葉にナハトが頷いた。


「そうだよね。あと少しで敵は戻って来るんでしょ? 第2軍は兵站部隊と例の合同計画を進めなくちゃいけないんだよね。今日も含めて4日は欲しいんだけど」


その言葉にマロンが口を開いた。


「フォルトウーナロッソ、敵軍の進行状況はどうであるか?」


質問を受けた少女は「うーん」と唸る。


「アルジェとナハトの言うとおりね。なりふり構わぬ強行軍。このスピードだと3日目の朝には到着するわよ」


「1日不足。再編は困難」


クレールが端的に指摘した。


ホムンクルス王国における階級は元帥が王に次ぐ位置であり、左、右将軍、魔将軍がそれに次ぐ。


元帥であるプルミエの言葉はほとんどイッシの意思を代弁しているので、・・・時々行き過ぎもあるが・・・、ともかくそういった訳なので、彼女の命令が変更になる事はまずない。


だが今回ばかりは左、右将軍のアルジェ、ナハトに加え、魔将軍の二人も命令に懐疑的な様子だ。


彼女たちの意見を完全に無視することは例え元帥であっても難しいが・・・。

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