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69.首都ラフィアにて

「そうか! 勇者カザミがやったか!!」


セブパラレス砦の戦況について速報を受けたイブール国王メフィアンは、唾を飛ばしながら喝采を叫んだ。


「はい。早馬の知らせによりますと、勇者カザミが砦より討って出たようです。加えてバザル翁、そして勇者とともにやってきた異界の者たちも一緒に出撃しました。敵の不意を突くことに成功し、帝国軍の一翼が壊滅したそうです」


ゾリス宰相の報告にメフィアン王は更に喜ぶ。


にっくきバキラ帝めが、思い知ったかっ! 我が王国の勇者パーティの力をッ!!」


目を血走らせる王の姿を見つつ、ゾリス宰相は「しかしながら」と続けた。


「もともとのクザレアップ元帥の作戦は篭城戦による時間稼ぎでした。これは帝国兵を砦に張り付かせることで、反乱分子が帝国内部で動きやすくするためです。また、30万の兵を維持するのも大変ですから、戦いを長引かせることで帝国自体の弱体化も狙っていました。ですが今回、勇者カザミは独断専行し、あまつさえ・・・」


だが宰相の言葉は王の笑い声によって中断させられる。


「ワッハッハッハッハ!! クザレアップ元帥も老いたものだ!! 勇者パーティの戦力があるのに穴蔵に潜る作戦を採用するとはな! まあ、帝国に対してよく戦って来た元帥ではあるが、やはり勇者の力を正しく評価できてはおらぬ!! すべて勇者カザミに任せておけば良いのだ!!」


指揮系統という言葉をまったく無視した王の言葉に、ゾリス宰相はさすがに苦言を呈する。


「恐れながら陛下。少しばかり勇者カザミを自由にさせ過ぎではないでしょうか。あくまで彼は将の一人に過ぎませぬ。最高指揮官である元帥の指示に従わないようでは、軍の規律に関わりましょう」


だが王は彼の言葉にフン、と不機嫌そうに鼻を鳴らすと、


「ゾリス宰相、貴様は何もわかっておらんな。その規律とやらがこの王国を守ってくれたか? ん? そうではあるまい! この王国を守っているのは勇者カザミたちよ!! 帝国の侵略を防ぎ、先般は失地すら回復せしめた!! これを称えずして何を称えよと言うのじゃ!!!」


だが、ゾリスも伊達に王国宰相にまで上り詰めたわけではない。


彼は冷静に物の道理を説く。


「よくお考え下さいませ陛下。確かに勇者カザミの功績は群を抜いております。それは王国中の者すべてが認めているところです。ですが、それとは別に王の御代を更に輝かしきものにせんと多数の者が馳せ参じているのです。どうか寛大な気持ちで、彼らの労についても報いては下さいませぬか」


もともと緒戦の勝利に気をよくしていた王は、宰相の言葉に「うむ」と頷いた。


「無論、勇者カザミ以外の者たちの功績もよく理解しておる。クザレアップ元帥は堅実な男じゃ。彼でなければ王国はとうに帝国に支配されておったじゃろう。そうじゃな、では此度の戦で勝利したあかつきには勇者カザミに加えてクザレアップ元帥も顕彰するとしよう」


王の言葉にゾリス宰相は少し焦りながら、


「はい、是非そうして頂きたいと存じます。あの、陛下、ところで元帥の指揮権のことでございますが、やはり一兵士が独断専行するのはよくありません。やはり勇者カザミには、元帥の指示に従うように、と一言伝えておいた方が・・・」


だが、彼の言葉は王に届かなかったばかりか、再び機嫌を損ねたようで、


「愚か者が!! そんなことをして勇者カザミに出てゆかれでもしたらどうする!! 彼らこそが最後の希望なのだ。この王国のッ、いや、このミトルシア大陸のなッ!!」


メフィアン王はそう言って宰相を叱責すると、血圧が上がってしまったのか医師を呼んだ。


そして私室へと引き上げてしまう。


ゾリス宰相は深いため息をつく。


「なぜ気づいて下さらないのか・・・。最後に王を守るのは我々、王国軍しかいないのですぞ・・・? 勇者カザミは決してこの国のために行動しているわけではないのです。彼はただの狂人・・・。唯一の味方を蔑ろにしてしまっては、きっとこの先・・・」


彼の苦悩は尽きることがなかった。


・・・

・・


「入ってもいいか?」


ラッガナイト城塞のある部屋を訪ねて来たのはイッシであった。


中からは何の返事もない。


だが、彼女から応答がないのはいつもの事だ。


彼は少し待ってからドアを開くと身体を室内へと滑り込ませた。


「返事くらいしろよ」


イッシが呆れた様に言う。


その言葉は、部屋の中央正座し、目を閉じて瞑想する少女に向けられたものだ。


長い黒髪が地面に広がるほど伸びていて、その下には床に描かれた魔法陣が見える。


それはボウと白く光っていて、カーテンで閉ざされた部屋をぼんやりと照らしていた。


その少女、No.0002のシシアは主の言葉を受けてゆっくりとまぶたを開ける。


「ようこそお越しくださいました。我が君。夢なのかうつつなのか区別がつかなかったものですから」

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