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65.玉座の間にて(前)

「お前たち・・・物凄いことをしてくれたな・・・」


ラッガナイト城塞占領作戦の第1段階では、兵站部隊はミグサイドベリカ砦で待機することになっていた。


そもそも第1段階における計画は、フェアンの広域念話帯エロズィオーンとソワンの広域回復帯レスレクシオンという2つのギフトを軸とした、全軍の相互支援と安全確保に重きを置いている。


つまり、進軍効率よりも少女たちの生存に配慮された作戦なのだ。


こうした基本方針ドクトリンに基づき、比較的戦闘能力の低い兵站部隊は後方での待機が命じられていたわけだが・・・。


イッシが呆れた声を出して玉座から立ち上がると、前にいた少女たちがビクリと肩を震わせた。


ベルデ、フォルトウーナロッソ、アマレロ、マリゴールド、スミレ、トートモルテ、ビブリオテーカ、ラプソディー、ナルコーゼ、ベルタン、タマモの計11名である。


ナハトたちには一旦退室してもらった。


イッシがミグサイドベリカ砦の異常を知ったのは、つい先ほどのことだ。


こちらをモニターしているはずのフォルトウーナロッソに彼が何度合図しても反応がなかったのである。


本来であればイッシかプルミエの制圧完了の知らせを受けて、兵站部隊が城塞へテレポートして来る手はずであった。


だが、しばらく反応がなく、イッシが首をかしげながらもう一度合図を送ると、慌てた様子でスミレがやってきたというわけだ。


それで、後ろめたそうな表情をしているスミレから仔細を聞き出し、事の次第が判明したという訳であった。


占領作戦を邪魔しないためとはいえ、兵站部隊だけで戦闘行為を行う判断は無謀と言って良い。


せめて相談するべきだったとイッシもプルミエも感じていた。


イッシは彼女たちに近づくと、司令官であったベルデの方に手を伸ばす。


お尻ペンペンか、と恐怖する少女は目をぎゅっとつむった。


だが、彼女に与えられたのは優しく頭を撫でられる手のひらの感触であった。


「まったく余り無茶をしないでくれ。心配で腰が抜けそうになる」


その言葉と暖かい手の感触に思わずベルデは、


「うええええええん、ますたああああああ、わたしもーこわかったー!!」


そう言ってイッシに抱きつくと大声を上げて泣き出した。


「ちょっと、あれずるくないッスか? 私もアレやってみたいんスけど」


「アンタ少しは空気読みなさいよ。ちょっとウルっとする場面なんだから」


「おめーら、声がでけえよ・・・」


フォルトウーナロッソとアマレロの会話にスミレが突っ込む。


「別にわたしたちも遠慮することないんじゃありません?」


「あら、たまにはあなたも良い事を言うわね。それじゃ遠慮なく」


「貴女が遠慮したところなんて見たことないけど」


そう言いながらマリゴールド、トートモルテ、ビブリオテーカもどさくさにまぎれてくっついた。


みんな笑ったり泣いたりしている。


「なあ、君たち信じられるかい? いちおう彼女たちが参謀本部の主要メンバーでもあったりするんだよ」


「うう、いい話だなー。雨降って地固まるとはこのことなんですねえ」


「わらわもナデナデして欲しいのう。尻尾をもふってくれたりしないかのう」


ナルコーゼ、ベルタン、タマモも感想を言いながら、羨ましそうに彼らを見つめていた。


そんな中ラプソディーは目の前の光景に歓喜の表情を浮かべ、


「最高の凱旋行進曲トライアンフマーチができそうだよ! ホムンクルスの天地開闢てんちかいびゃくここに来たれりッ、ちゃららーん!!」


などと訳のわからないことをわめいていた。


「えっと、お前たち・・・そろそろ・・・まあ、いいか」


イッシは騒ぐのをやめさせようかと思ったが、嬉しそうにしている彼女たちの好きなようにさせる事にした。


ラプソディーが隣で絶叫している通り、確かに第1段階の戦争には勝利したのだ。


これほどめでたいことは滅多にあるものではない。


イッシは11人の少女たちに抱きつかれたり、撫でろとばかりに上目遣いに見られたりしながら、しばらく時を過ごすのであった。


「私も後でしてもらおう・・・」


そんな光景を見ながらプルミエはぽつりと呟いた。


・・・

・・


「なるほど、死者の軍団とは考えたな。ビブリオテーカによればミグサイドベリカ砦は王国反乱軍の最終拠点だったようだ。相当大規模な戦争があったらしいから、死体の数も半端なかったんだろう」


「ええ、おかげで地獄のような光景を再現することが出来たわ」


うっとりとした表情でトートモルテが答える。


イッシは一段落ついてからそれぞれの少女から報告を受けていた。


今はミグサイドベリカ砦攻防戦についてトートモルテから詳細を聞いているところである。


「ところで知ってのとおり、数日後には敵本体が戻ってくる。僕たちは篭城戦を行うが、その死者の軍団を使うことはできるか?」


彼の質問に少女は首を振った。


「いいえ。あれは地縛霊のようなものね。あくまでミグサイドベリカ砦の周囲だけで使える裏ワザみたいなものよ。この辺りでやるなら、それこそ都市の人間たちをジェノサイドしないといけないわ?」


それも悪くないけど、などと言うトートモルテにプルミエが口を開く。


「それは無理かと思います。敵軍が来るまで早くて3日。自宅にいる領民たちを一人一人殺すのは時間がかかります。それに・・・」


「プルミエの言うとおりだな。時間もないが、何よりも領民が完全に敵に回ると困る。いや、敵であっても構わないが武装蜂起されるのは厄介だ。都市の人口は50万人。人間たちの恐ろしい点はこの数にこそあるんだからな」


あらそう、と言って素直にトートモルテは引き下がった。


次にイッシはナルコーゼを呼びに行かせる。

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