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54.ラッガナイト城塞占領作戦9 ~魔法師団よ、蝋燭の火を灯せ~

風、炎、雷、という3つの属性魔法がバラバラに怪物へと突き刺さった。


「や、やった! 上手く行ったぞ!!」


「い、今の魔法ならさすがに生きてないでしょ!?」


「わ、私たちもやれば出来る子!!」


だが、怪物は魔法に体を焼かれながらもそのまま少女たちへと突進してきた。


どうやら毛ほどのダメージも受けていないらしい。


少女たちがワー、キャーと慌てるが、到達する寸前に転倒して止まった。


パラがワイヤーを操り、怪物の足に引っ掛けて転ばせたのだ。


「はあ・・・。皆、傾注」


そんな中、クレールが口を開いた。


「常に言っている通り、詠唱は世界を動かす真理の言葉。故に心を静かに保つ必要がある。今のアナタたちのようにワー、キャーしていてはダメ」


「だって怖いんですー」「分かってはいるんですがー」


少女たちの声にクレールはため息をつく。


「気持ちは理解する。ではこうしてはどうか」


彼女はそう言うと、自分の左腕を指差して「切除」と呟いた。


ブシュっ! という音を立てて、彼女の左腕が切断される。


ドバドバと青色の血が噴き出した。


「えええええええええええええ、クレール隊長何やってるんですか!?」


「ちちちちちちちち血が出てますよおおお」


「は、早く、衛生兵! 衛生兵を呼んで!!」


慌てる彼女たちに、クレールは冷静な声で告げた。


「学習、という言葉を知るべき。そろそろ冷静になることをすすめる。敵を倒したらアナタたちの手でわたしに回復魔法をかけて欲しい」


「そっ、そんな!? 早くしないと傷が悪化しちゃいますよッ!! 先に回復の方を・・・」


「黙る。慌ててはいけないと何度も言ってる。アナタたちが冷静にならなければ敵は倒せない。そしてわたしも片腕を永遠に失う。いい加減に痛い」


クレールの顔をよく見れば、脂汗が浮いている。


「そ、そんな、どうしてなの! なんでいきなり無口系から熱血コーチ風になっちゃうの!?」


「で、でもやらないと、クレール隊長って実は死ぬほど意固地だから」


「スイッチ入っちゃてるよ。だから普段しゃべらない子は怖いのよね。でも、やるしかないわ!」


部下たちも青ざめながら覚悟を決めた。


「アナタたちが私を普段どう思っているか理解した」


そんなクレールの言葉は無視して、少女たちは再度呪文の詠唱を開始する。


先ほどのようにグループに分かれていない。


「それで良い。魔法属性などとは便宜上の存在。全ては波長に収斂しゅうれんする。その音色を聞くことが魔法を使うという事。ただ周りの波長を聞き取り、ハーモニクスを奏でれば良いだけ」


魔法師団の少女たちは乱れそうになる心を必死に静めて呪文を口にする。


全ては頑固で無口な魔将軍を助けるためだ。


『サリギリウスの千寿の霊よ、いと雄々しき力を貸したまえ。久遠に敵を討ち滅ぼすジルトの矢をかの場所に降らせたまえ!』


98人の少女たちが唱和すると大規模な魔力が怪物の頭上に集積した。


怪物は逃げようとするが、パラのワイヤーに四肢を拘束されており身動きすることが出来ない!


間もなく凄まじい雷鳴が轟くとともに、何億ボルトという電流が怪物を襲った。


絶叫を上げる暇もない。


とてつもない威力の電気の奔流に耐えられるわけもなく、怪物の意識は一瞬で消失する。


そして、その身体は溶け始め周囲に異様な匂いを放つ。


雷鳴がおさまった時、残されたのは紫色のヘドロだけであった。


「や、やったの?」


「わ、わたしたちが? ま、まさか」


「い、いいえ。やったのよ! やっぱ私たちって、やれば出来る子!」


そう言って喜ぶ少女たちにクレールは言った。


「よくやった。魔力の調和と増幅。それこそが魔法の真髄。これからも励むこと」


「わ、分かりました! そ、それよりも隊長! 腕の治療をしないと!」


「ああ、これ?」


クレールは切断された腕を指差すと、


「保護」「再生」「加速」「特化」


と呟く。


すると間もなく、切断された腕の先からニョキリと、新しい腕が生えてきた。


「わあ!?」と驚く部下たちに、


「これくらい出来るのは当然。いちおう私、魔将軍」


そう言って成長した部下たちを見るクレールの顔は少し嬉しそうであった。


・・・

・・


漆黒のナハトが率いる第1軍団は食料貯蔵庫の制圧作戦を遂行していた。


抵抗はあったが大した被害もなく進み、もう間もなく制圧は完了しそうだ。


そこにフェアンの広域念話帯エロズィオーンのギフトを通じ、アルジェが作戦の進捗を聞いてきた。


「僕の方はサックサクだよー。怪我した子もいないし、そろそろ食料貯蔵庫も制圧できそう。ラクショーって感じだね!! あっ、でも別に油断してる訳じゃないから安心してね。それはグレーギンさんの時に反省済みなんだから!!」


「フム、そうか。こちらは武器庫へ向かっておるが、なかなか手厳しい抵抗にあっておる。時間の問題じゃろうが、今しばらくかかるであろう。もし余裕があるようならば館様と姫の部隊を支援されたい。玉座の間へと向かっているはずじゃ」


「了解!!」


そう言って通信を切る。


と、その時、部下の一人から奇妙な報告が入った。


「えっ? 僕ら以外にも侵入者がいるかもしれないだって?」


はい、と連絡兵の少女は頷いた。


何でも食料貯蔵庫を守る敵側の死体に奇妙な点があったらしい。


「その変なところっていうのは?」


「持ってまいりました。どうぞ」


そう言って差し出されたのは干からびた状態の生首であった。


「なんなのコレ? 日光浴しすぎちゃったのかな?」


「え? い、いいえ、将軍。こちらをご覧下さい」


少女が指さした首元には二個の小さな穴が空いていた。

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