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52.ラッガナイト城塞占領作戦7 ~魔将軍の凱旋~

「ううーん、見るに堪えないのである。どうやったらここまで勘違いした作品を作れるのであーる?」


だがマロンはその恐ろしい怪物を目の当たりにしても、ひどく冷静な感想を口にするだけであった。


ガウガウと鋭い牙を見せつけ威嚇する合成獣キメラ


だが彼女はその姿にただ冷めた視線を送る。


くさいのであまり顔を近づけないで欲しいのである。生体がばらばらにパスを持って動いているだけの木偶でくなのである。全く生命に至っていないのである。これならまださっきの人間とゴブリンの合成獣キメラの方がマシなのであーる」


怪物が彼女の言葉を理解できたのかは分からない。


だが、自分という強大なる存在が、なぜか目の前の卑小な存在に見下されていることだけは直感的に分かった。


怪物は一瞬にして怒り狂う。


そして、その恐るべき口を大きく開けてマロンへと突っ込んだ。だがッ!


「遅延」


と、もうひとりの少女、姉のクレールの声が静かに響いた。


そして続けさまに、


「高速」「拘束」「梗塞」「回転」「回天」「開展」「鋼殻」「堅固」「堅牢」「破邪」


という言葉がつぶやかれる。


いずれも彼女が得意とする圧縮魔法マントラだ。


本来ならば長い詠唱が必要な魔法をクレールはたった一語に短縮したのである。


つまり彼女は一瞬で11個の魔術をほぼ同時に展開したのであった。


もし、この光景をクルオーツが見ていれば頭を掻きむしったことだろう。


なぜなら、この世界では魔術を2つ以上同時に行使することは不可能とされているのだから。


それはもちろん、人が呪文を複数口にすることができないという物理的な制約のためだ。


だが、彼女の圧縮魔法マントラはそれを可能としたのである。


彼女の魔法はたちまち効果を現した。


自分やマロン、部下たちの前に堅牢なる光の壁が構築されるとともに、身体能力が爆発的に向上する。


そして同時に化物の頭上に高圧の光の粒子が降り注ぎ始めた。


化物は野生の嗅覚で危機を感じ取ると咄嗟とっさのがれようとする。


「ぐぎょ!?」


だが、謎の強い力に押さえ込まれて身体を満足に動かすことが出来ない。


その上、なぜか自分の動きがゆっくりになっている気がするのだ。


そうして次の瞬間、身を焼くような恐ろしい熱と光に包まれたと思った。


「やった! であるか?」


「ここを壊すのは愚策。故に手加減。破邪は初級魔法の上くらい。再生しない限りは死」


珍しく長いセリフをしゃべるクレールだったが、残念ながら期待は裏切られることになった。


煙が晴れた瞬間、ぐずぐずに溶けた皮膚を引きずって歩く怪物が見えたからである。


そして、姉妹たちの方を見つけると、今度こそ食い殺さんと真っ直ぐに突っ込んで来た!


マロンは強化された足でやすやすとそれをかわし呪文を口にする。


「ク・アデル・メ・ヒコサデル、ア・デキ」


その詠唱は彼女自身が創造した魔術言語マギスラングであった。


彼女は既存言語ヒュマンラングの魔術適応の限界性をすぐに理解し、独自の言語を創り出したのである。


それは文法も発音も既存の言語体系からは大きく逸脱しており、異次元の言葉とさえ言えた。


だからこそ彼女は魔術言語のたった一語に、既存言語の何百、何千という概念を包含させることに成功したのである。


ゆえに、彼女の唱えた呪文の効力は幾重にもなって怪物の身体に現れた!


「グギイイイイィイギギウウウウウウ!!!」


「魔法耐性をキャンセルしてから、毒を注入したのである。それにしても身体の血液の半分を毒に変えたのにまだ生きているとは驚きである。ついでに老化の魔法も掛けておいたので、放っておいても死ぬのである」


かわいい顔をしながら残酷なセリフをさらりと言った。


怪物は悶絶するかのような金切り声を上げながら窓ガラスを突き破って外へと逃げて行く。


クレールはマロンに向かって、


「将来的には活動停止。だけど中途半端は減点対象。後でナデナデしてもらえない可能性大」


「そっ、そうなのであるか!? すぐに追うのである!!」


姉妹たちは慌てて後を追った。


その姿を見て部下たちも「集合!」と声を上げながら後を追いかけ始める。


怪物は体のあちこちから血を噴き出しつつ逃げて行く。


だが足がもつれたのか急にバランスを崩すと、そのまま近くの建物の壁に突っ込んでしまったのであった。


・・・

・・


「い、一体何だったでありますか!?」


カーネがラピッダの背中から下りて叫んだ。


エルブやレナトゥス、パラといった他のメンバーもいきなりの出来事に驚いている。


突然、壁が爆散したかと思うと、醜悪な怪物が現れたのだ。


そして、それを追って更に魔将軍たる姉妹がその部下たちも現れる。


「魔法師団のみんなでござる。あの異形を追ってきたのでござるか?」


怪物は姉妹たちを睨みつけると大きな声でえた。


その光景を見た姉妹は微笑みながら、


「だいぶ弱っているようなのである。さっさと片付けるのである」


「これくらいなら部下の訓練に最適。良い相手」


マロンとクレールは怪物を前にして喜々とした表情を見せる。


怪物を恐れている様子は微塵みじんも感じられない。


「なるほど、そうであるな。よし、魔法師団の皆、よく聞くのである! これから諸君ら98人で、あの怪物を倒すのである! 実戦で訓練の成果を示すのである! 第1軍と2軍にヘナチョコ扱いされるのはもう終わりなのであーる!!」


「奮戦を期待」

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