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42.全ての始まりミグサイドベリカ砦

「まったく、敵に大きな動きがあったからイッシ様にお伝えして、そのご褒美にいっぱいナデナデしてもらおうと思ってたのに! 良い気持ちが台無しじゃないっ」


プリプリと怒るフォルトウーナロッソに、その変な歌を口ずさんでいた少女は「エヘ!」とかわいく笑った。


「ご、ま、か、す、なああああああ!!」


そう言って頭をぐりぐりすると、少女は「ひぎゃああ、ごめんちゃーい」と叫び声をあげて謝る。


ぐりぐりとされるたび、少女の紺色のぼさぼさ髪が暴れまわった。


「ちょっと、あんたフケがすごいわよ!! イッシ様のおっしゃられたお風呂に入りなさい! お風呂に!! すっごく、気持ちいいんだからッ」


「いいんだもーん! 芸術は爆発なんだよ! お風呂に入ってる暇なんかないんだからー!」


「な・に・を・訳のわかんないこといってるのー!!」


などと言ながらの地獄のぐりぐりが終わると、した側、された側の双方は疲れきってぐったりとしてしまう。


二人はゼイゼイと肩で息をするのであった。


「・・・で、何をしてたのよ?」


「そりゃあ、決まってるよ。イッシさん・・・マエストロからのリクエストにこたえてるんだ」


「はあ? それって一体なんなのよ?」


そう質問するフォルトウーナロッソに、少女はニコリと笑って答えた。


「そりゃもちろん、今回の戦争に勝利するためのカンツォーネだよっ!!」


・・・

・・


「そうか、ご苦労だったな。フォルトウーナロッソ。とうとう攻めてくるか。・・・ええっと、ナデナデはいるか? いる・・・んだろうな、やっぱり・・・」


何を当然のことを、といった表情をしてフォルトウーナロッソが頭を差し出す。


イッシにしばらく撫でてもらうと少女は満足した表情で部屋を出て行った。


「それで、ラプソディーの方も曲は完成したのか?」


そう問いかけるイッシに、ラプソディーと呼ばれた素体No.0013の少女は「えへ」と嬉しそうに笑って頷いた。


ぼさぼさの紺色の髪は相変わらずとっちらかっている。


「芸術が爆発しました! みんなに聞いてもらいたいな!! 僕の狂死曲ラプソディーを!!」


テンションが上がり続けるラプソディーは急に歌いだす。


「ぜっつぼーがー、とっきをとーめー、悲しいみーがー、せっかいをおっおう時ー、うなる剣戟のあーらーしーも断っち切るー。正義のしっしゃー」


その曲に合わせて、ラプソディーの背後から薄暗い妙なオーラが立ち上り始め・・・、


「すっすめー、すっすめー、イッシさまー、わっれらーがイッシーさまー、だいせいぎー。いええぇぇええい!! マエストロ様さいこおおおぉおぉおお!!!」


「うるさいです!!」「うるさいわい!!」「うるさいよ!!」「であーる!」「不快」


部屋にいた元帥プルミエ、左将軍、右将軍のアルジェ、ナハト、そして魔将軍のクレールとマロンが口を揃えて苦情を叫ぶ。


その途端、歌は止まり、不思議なオーラも消え去るのだが、ラプソディーは動じるどころか、「ああ!! 今のでまた良いカンツォーネが浮かんで来たような気がする!! 爆発! 爆発だ!!」などと絶叫している。


そこにイッシがこめかみを押さえながら声をかけた。


「ラプソディー・・・。いつも言っているだろう。いきなり人前で歌いだしてはダメだ。みんながびっくりするから」


そう言ってイッシがポンポンと膝を叩くと、今度はテンションの上がりまくった子犬のようにイッシの膝の上に飛び乗った。


そして、そのまま丸くなって動かなくなる。


寝息のような音が彼女から聞こえた。


・・・本当に眠ってしまっているのである。


「・・・さて」


イッシは何事もなかったように少女たちの方に振り向いた。


その手馴れた扱いに「さすが館様じゃ」「ほんとだね」と感心する者もいれば、「狡猾」「まったくである。私もマスター殿の膝の上で惰眠を貪りたいのであーる」といった声も聞こえた。


なお、プルミエは「ガーン」という表情で固まっている。


彼らの軍議が始まるまでには、いましばらくの時間を要するのであった。


・・・

・・


「おや、アレは・・・」


ロウビル公爵が使う斥候は別に2人だけではない。


それこそ何十人という人間が諜報活動のために日夜情報収集に各地を駆けずり回っているのだ。


この男もそんな中の一人であった。


「ああ、懐かしいな。ミグサイドベリカ砦じゃないか」


そこはかつて、北部で反乱を起こした貴族が使った砦であり、今は打ち捨てられた古き戦いの遺跡であった。


彼が生まれる前に起こった反乱であり、内容は聞きかじったものでしかないが、どうやら秘密裏に帝国の援助を受けた王国の貴族が、まんまとそそのかされて起こした反乱、というのが事の真相らしい。


なお、その貴族の家は今は存在しない。


一族郎党は捕らえられ、王の怒りのもと皆殺しの憂き目にあったということである。


だが、古き遺跡であるはずの砦に彼は何かを感じた。


「何だか、しばらく前に見た時とどこかが違うような気がするな・・・」


それはちょっとした違和感でしかない。


だが、諜報活動とはそんな微細な異変を直感的に感じ取り、そして追求することである。


彼は勘の良い人間であった。


男は唇をひとなめすると懐に忍ばせたナイフを手に持つ。


そして風のように早く静かに砦へと向かったのである。

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