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23.魔女はどちらか

やじ馬たちの中から一人の酔っ払いが場違いにも現れた。


どうやら仕事からあぶれた男の様で、昼間から酒を飲んでいたようだ。


そしてフラフラとイッシたちの元まで近づくと、大きな声で絡み始めたのである。


「ああん、なんだこの化け物どもは。お前たちの居場所は奴隷商館だろうがよ。おお、そこのあんちゃんの物か。いいご身分みたいじゃねえか。ったく、若いくせに生意気だなあ。一人くらい譲ってくれや」


そう言って一番近くにいたプルミエの肩を掴もうと手を伸ばす。


だがその手はプルミエに届く前に、イッシの手によって掴まれた。


「よしてもらおうか。お前のような一般人が触れられるような身分の者じゃない。何せうちの国の貴族様なんでね」


その言葉に酔っ払いは「ああん?」と言った後、ゲラゲラと笑い始めた。


「ホムンクルスが貴族だあ? おおい、てめえら聞いたかよ。とんだ馬鹿だったみたいだぜ。まったくよお、広場に陣取りやがって。何があるのかと思っていれば、つまらねえ勘違い野郎がいただけだったとはねえ」


その言葉に周りの人々からも憐れみのこもった視線や失笑の声が漏れる。


男は嫌らしい目つきで再度プルミエを見ると。


「オラ、この手を放しやがれ。それともこの場で殴り殺されてえのか、ああん? そうだな、今回はこの嬢ちゃんを貰っていくので勘弁してやるよ。なあに大丈夫さ、飽きたら返してやる。生きているとは限らねえがなあ!」


そういって腕に力を込めるが、イッシの手はびくともしない。


「くそっ、おい、いい加減にしやがれ、ぶち殺すぞッ!!」


その言葉にイッシが腕をはなすと、男は勢い余ってたたらを踏んだ。


つかまれた場所がアザになっているのだが、酔っ払っているためか、自分が今、何をされたのか男には正確に理解できていなかった。


「へ、へへっ、わかりゃいいのよ。おっ、この銀髪の娘も顔はいいな。生意気そうな眼がそそるぜ。よし、その青髪のねえちゃんは許してやるよ。その代りこいつを貰っていくぜ」


そう言って手を伸ばした時である。


「わしに触れていいのは館様だけじゃよ。ぬしがわしに触れるならば、やはり対価としてこの大鎌の渇きを潤してもらわんといかんのう」


「へひ?」


そんな少女の声が聞こえたと思った瞬間、男は目の前が左右にズレて行くように見えた。


そしてすぐに目の前が真っ暗になると、意識もぷっつりとそこで途絶えたのである。


そう、男は体を頭から真っ直ぐに左右対称に両断されており、そのままどさりと地面にゴミのように転がったのである。


アルジェが取り出した大鎌には、男の血がどろりとこびりついていた。


彼女はそれを実に汚らわしそうに振り払う。


と、それと同時に何が起こったのかを察知した周囲の人々から、阿鼻叫喚の悲鳴が上がった!


「傭兵たちを、自警団を呼べ!!!」


そう叫ぶ声がそこかしこで聞こえる。


ちょうどその時であった。


200人にも及ぶ傭兵たちが物々しい得物を手に、完全武装した状態で現れたのだ。


あまりに速い到着に町人たちは少しばかり呆気にとられる。


だが、今は目の前の邪悪な人形たちをどうにかすることが先決である。


普段はディアン町長の圧政を暴力という側面から担う憎い相手ではあるが、今回に限っては人殺しのホムンクルスをめっする正義の使者に見えた。


だから今回ばかりは人々は皆、心から彼らを歓迎する。


逃げ出そうとしていた人々も傭兵団が到着したことを聞き安堵し、ホムンクルスたちが哀れにも殺され尽くすのを見ようと、その場に再び戻って来るほどであった。


・・・

・・


「やれっ、その人殺したちをっ、ホムンクルスどもを殺せッ!!」


まるで魔女狩りの如き絶叫が人々の口からほとばしった。


グレーギン率いる傭兵団はおよそ200人。対してイッシたちはたった6名である。


先ほどは確かに酔っ払いが一人、ホムンクルスの少女に倒されたようだが、さすがに200人がたった6人に負ける訳がない。


町の人々は自分たちに劣ったはずのホムンクルスがすぐに打ち倒されることを期待し、良い見世物だとばかりに取り巻き、歓声を上げていたのである。


そんな中、イッシとグレーギンは視線が交わると、人々の歓声も気にせず、どちらともなく口を開いた。


お互いの声は不思議と聞き取れる。


「よう、グレーギン、何のつもりでそんな馬鹿面どもをこの場まで引っ張り出して来たんだ?」


その挑発的なイッシの言葉にグレーギンは青筋を立てる。


「何のつもりだ、だと? 今さら何を言ってやがる。フルテラ・イッシ、お前がその化け物どもを焚きつけて、こんな馬鹿げたことをしでかした親玉だってことはわかってるんだぜ。確かにおめえたちホムンクルスどもは、少しばかり腕が経つようだが・・・見ろッ! こっちには腕の立つ傭兵が200人もいるんだ。しかもだ、いくら周りの女どもが強くても、てめえ如き青二才の腕なんぞはたかが知れてるってものよ!! 周りの奴らに守らすのにも限界があるだろう。おとなしく降伏しな。そうすりゃ、できるだけ苦しまずに処刑してやるからよ」


イッシは「フム」と眉を跳ね上げた。


「どうやら、やはり礼儀がなっていない蛮族どものようだな」


その言葉にグレーギンは「はあ?」と声を漏らす。

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