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21.姉妹のホムンクルス

「今回の相手は邪悪なる人形、ホムンクルスどもだ」


その言葉に傭兵たちはドッと爆笑した。


「ガハハッハハ、冗談がきついぜグレーギン。あんたとは思えねえ悪いジョークだな」


一人がそう言うと、さらに隣の傭兵が口をそろえた。


「まったくだ、俺たちは命を懸けたやり取りがしたくてここに来てんだ。邪悪な人形どもなど人間様が命令してやれば、その命を差し出すだろうが!!」


しかし彼らが一通り笑い終えても、グレーギンが何も言葉を発しないことに傭兵たちは眉をしかめはじめる。そして、まさか、と言った表情で彼に問いただした。


「おいおい、本当なのかよグレーギン。お前さんともあろうものが、わざわざホムンクルスを捕縛するためにこれだけの人数を集めたってのか。そりゃあ、いい金にはなるんだろうが・・・」


「そうだぜ。確かにこれだけ集めりゃ十分だろうが、分け前も減っちまうッ!」


だが、グレーギンは大きくため息を吐くと、集まった傭兵たちを睨みつけるようにして言った。


「ああ、その通りだ。だがてめえらは少しばかり勘違いしている。まず、今回のホムンクルスたちは何人かで徒党を組んでいやがるんだ。しかもそれがとんでもねえ力を持ってやがる。姿かたちを他人そっくりに変える女、死神の如き大鎌を自由自在に振り回す女、透明になる女、稲妻のごとき凄まじいこぶしを繰り出す女。おかげで10人いた俺の部下たちは一瞬で殺されちまった」


その言葉に傭兵たちは「なんだと、あの腕っぷしだけが取り柄の奴らが・・・」と固唾を飲むが、「でもよ」とある疑問を口にした。


「なんでホムンクルスたちが今になって俺たち人間へ反乱なんてものを起こすんだよ。なあ、みんなもそう思うだろう? 奴らと言えば、気味の悪い金色の瞳をした人形じゃねーか! 人間様の言う事ならなんでも聞く木偶の坊に過ぎねえ。そんな奴らがどうして集団で襲って来るんだ? おかしいじゃねーかッ!!」


そうだそうだ、そんな事聞いたこともねえや、とそう口を揃える男たちにグレーギンも「フム」と言って顎をさすった。


(言われてみればそうだ。なぜ今になってホムンクルスどもが反乱を起こした・・・? そういえばあの時、やって来たご令嬢にお付きに若い男が一人いたはずだな・・・)


あのご令嬢の正体は変身したホムンクルスの少女だった。だとすれば、あの男がくさい。


確かフルテラ・イッシと名乗っていたか・・・。


「なるほどな、奴がホムンクルスどもを焚きつけたって訳かよ」


そうぶつぶつと呟くグレーギンに傭兵たちが声を掛けた。


「おい、いきなり黙り込んじまって、どうしたってんだ、グレーギンさんよ」


「いや、分かったんだ」、と彼は答える。


「ありがとよ、今回の本当の敵が分かったぜ。ホムンクルスどもはある男に操られているだけだ」


その言葉に傭兵たちは驚きの声を上げる。


「おおっ。で、誰なんだよ、その男ってのは?」


ああ、とグレーギンは重々しく頷いた。


「若い男だ。フルテラ・イッシ。女みてーな顔のまだ若いひよっこよ。こいつこそがこのふざけた事をしでかした犯人だ。奴を殺せ!! そうすれば人形どもの反乱も終わるッ!!」


・・・

・・


「という感じでございましたわね」


マリゴールドの説明にイッシは頷いた。


「まったく君たちを人形、人形と度し難い奴らだ。これはお灸をすえないといけないな。ギロチンのほうが良いかもしれないが」


「それよりもマスター」


とプルミエが微笑みを浮かべてイッシに尋ねた。


「これからどうなさいますか? マリゴールドの話によれば、そろそろこちらを目指し出陣して来そうな様子でございますが」


ん? ああ、もちろん、とイッシは答える。


「広場で迎え撃とう。相手は200人だから、この屋敷に来るには中央通りを歩いて来ざるえない。他の道からでも来れるがあまりに細すぎる。集団での移動には不利だろうからな。それに・・・」


イッシは悪魔のようににやり、と笑い、


「あのグレーギンという男、こちらの戦力をそれなりに高く買っているようだが、まだまだ常識にとらわれている。200人の傭兵たちで油断せずに当たれば、こちらを圧倒できると考えているようだ」


その言葉に、美しい銀髪を揺らして幼い顔のアルジェがどこか大人びた表情で言った。


「じゃが、実際こちらも油断は禁物じゃぞ、館様よ。特にグレーギンは館様が我らの王であると看破かんぱしたようじゃ。館様を討つことこそが、わしらホムンクルスの戦意を削ぐのに一番効果的じゃと、愚かながらに気が付いたというわけじゃの。じゃからのう、お願いだから気を付けておくれよ」


そういって心配そうに手を握って来るアルジェは年相応の少女の顔になっている。


いや、むしろ父親を心配する娘のようにも見えた。


「大丈夫だ、安心すると良い」


そういって、力強くその手を握り返す。


「それにな、今回の主役は僕やじゃないんだ。アルジェやナハト、君達でもない。ましてや、アマレロ、マリゴールドでもな」


そういって、姉妹型のホムンクルス、マロンとクレールを見つめた。


二人は何もない空間から分厚い本を取り出すと、


「準備は完了しているのである!」


「御意のまま」


と静かに宣言したのである。


姉妹が取り出した書物からはそれぞれ異なった妖気が放たれていた。


マロンのものからはいかにも不気味で邪悪なオーラが立ち上り、一方のクレールの物からは、侵しがたい、神聖なる光輝が周囲へ流れ出ていたのである。

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