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10.少女たちの王

「おい、本当にこの先の砦で見たんだろうな」


そう言ったのはどう見ても山賊といった風のけむくじゃらの男で、後ろから付いてくる部下と思われる男たちに向かって口にした。


その言葉に答えたのは、太鼓持ち、という言葉がぴったりの、ずる賢そうなヒョロリとした体型の出っ歯で目の細い男であった。


声までもがどこか甲高い。


「へへへ、デキムの頭ぁ、疑っていらっしゃるんですかい。このあっしの目に間違いはありやせんて。たしかに何十人にもなる女どもがあのぼろ砦にいるところを見たんでさ。いや、もしかしたらもっといたかもしれやせん。余りの多さでございやした。それで奴ら、奇妙なことに掃除なんてしていやがって、こっそりと窺っていたこっちには気づきもしやがらなかった。しかもおかしら、驚くべきことに、奴らの目の色は金色、髪の色は赤、青、黄色、銀とよりどりみどり。国に持って行きゃあ報奨金が出るし、変態に売れば金になるという、気味の悪いホムンクルスだったというわけですぜ」


そうまくし立てる男にデキムと言われた男はにやりと笑って答えた。


「別に疑ってるわけじゃねーさ。だが奇妙じゃねーか。ホムンクルスと言えば、なんかの拍子でたまたま生まれてくる魔法の失敗作だって話だ。それがテロリアよ、お前さんに言わせれば何十人、いや、砦の中にもいるとすれば何百といるって話だ。そう簡単に信じられるわけがねえ」


「いやいや、頭、まあ信じてくだせえ。すぐにアッシの言ったことが本当だとわかりやすから。ところで分け前のほうは奮発して下さいよ。あれだけの上玉ぞろいだ。売るところに売れば相当な金になりやす。まあ、売られるホムンクルスたちにとっては地獄の片道切符でしかないでしょうが」


その言葉にデキムは、ガハハと豪快に笑う。


「たしかにそこいらの女子供を売っぱらうともなれば、この極悪非道でならした俺でも多少の良心の痛みはあるってもんだ。だがホムンクルスなんてのは人間じゃねえ。単なる人形にすぎねえんだ。そんな奴らがどうなろうと気にする必要はねえさ。さあ、とっとと砦に行って、ふんじばって酒盛りといこうや。今日はいい仕事になりそうだぜ」


なあ、お前らッ!


と叫ぶデキムに、ぞろぞろと後ろからついて来ていた、剣や斧、槍などめいめい武器を携えた人相の悪い男たちは、「おうっ!」と威勢よく応じたのである。


・・・

・・


「ってなことを言っているわけだけどー」


そう言って不満そうな顔をしたのは、朱色の髪を後ろへひっつめた、おでこのかわいいロングヘアーの少女であった。


「No.0777、ご苦労様でした。では遠見の経過について、もう一度最初からマスターにご報告してもらえますか」


ベルデが駆け込んで来て、敵襲の来訪を告げてから、一瞬にして部屋は作戦会議室となった。


「まずは情報だな」


とイッシは呟き、それに応じてすぐさまプルミエが呼び出したのが、No.0777と言われた少女なのだった。


彼女は呼び出されてすぐにプルミエから説明を受けると、何もない空間に四角形に切り取られた外の風景を映し出したのである。


最初はまったく関係のない場所を映していたようだが、ベルデが方向の修正を指示して、すぐに迫ってくる盗賊の集団へと焦点を合わせたのだった。


「かなり遠方までいけるんだよ」


と言うNo.0777に、


「反則じゃないか」


とイッシは思わずつっこむ。


だが、この有利な状況をみすみす逃す手はあるまい。


少女が説明を始める。


「経緯と言っても、それほど込み入った話ではないんだけどねっ。イッシ様もご覧になっていた通り、盗賊団の一人が、たまたま掃除中のホムンクルスを目撃してたみたい。それで、わたしたちを変態どもに売って大金にしようと企んでて、現在この砦まで2時間くらいの位置にいる、ってわけよ」


ぶっきらぼうながらも分かりやすい説明に彼は素直に礼を言う。すると、


「ああ、うん」


ともじもじと様子を見せてから、


「えっとさ、もしも少しは役に立ったみたいだったらさ、私にも名前をつけてくれないかな。いや、もちろん、全然役にたってないようだったらいいんだけどねっ」


口調から受ける印象とは裏腹に、髪をいじりながら、あははー、と少女は健気に笑う。


イッシは頭を撫でてから、少し考えて名前を告げた。


「そうだなあ。じゃあ、フォルトウーナロッソっていうのはどうだろう。少し長いけど、その赤い髪と、777という幸運の数字にちなんで」


少女は何度かその名前を口にすると満足したようにと「んふー」と微笑んだ。


「さて、それでは」


とプルミエが話を本題へ戻す。


ベルデとフォルトウーナロッソには退室してもらう。


「盗賊たちがあと1時間程度でこの砦へと到着します。相手は粗末ではありますが武器を所持し、私たちを捕縛するつもりのようですね。もちろん、場合によっては殺されてしまうでしょう。対応方針を決定せねばなりません」


「対応方針、というのは?」


そう問いかけるイッシに、彼女は答える。


「もちろん、戦うか、逃げるか、ということです。今からこの砦を引き払えば、我々を見つけたという男、テロリアの妄想、ということで片がつく・・・かもしれません。まあ、これだけ私たちが砦で過ごした後ですので、誰かがいた、という形跡までは消せないでしょうが」


「ふむ、そしてもう一つは戦う、ということだな。戦うとすればここで篭城か?」


イッシの言葉にプルミエは、いえ、とかぶりを振った。


「できれば奇襲をしたいですね。ホムンクルスたちには戦う力がない者が多いです。いわばここは銃後。敵にたどり着かせては負けです。かといって、平野で決戦というのも情報で優越している以上馬鹿らしいですので、やはり不意を打って一気に殲滅するべきかと」


彼女の説明に彼は納得しつつ、


「ではそうしよう。戦える子たちを選んでおいてくれ。今回は大事な戦いになる」


「はい、そうですね。万が一があればせっかく手に入れた砦を手放さなくてはならなくなります」


いや、とイッシは頭を振った。


「緒戦で負けるわけにはいかないだろう。今後のことを考えれば、な」


はあ、とプルミエはよく分からない、といった様子で首をかしげた。


「あのマスター、それはどういう意味でしょうか。このあとも戦いが続くということでしょうか?」


彼はその言葉に軽く頷くと、


「そうだ。今半数のホムンクルスたちが建国に賛成している。そして残り半分もこれから賛成に回ることになる」


「ああ、たしかに。この盗賊たちが攻めてきたことを知れば、迷っている娘たちも、やはりこの世界に安息の地がないことを改めて知ることになるでしょう。つまり、そういうことですか」


プルミエは納得がいったとばかりに微笑んだ。


「そうだ、君たちの意思は建国、ということで統一される。まったく、よくぞまあ、偶然とはいえこのタイミングで盗賊が襲ってきたものだと思うよ。けれど、運命というのはこういうものなのかもしれないね。建国を決意した君たちがやるべきことは一つ。それは、イブール王国から領土を奪い取ることだ。つまり戦争だよ」


そしてこれが、とプルミエは言った。


「私たちの最初の戦争なのですね。盗賊であろうとイブール王国の人間とのはじめての戦い。こんなところで土をつけていては王国に勝てるわけがありませんものね」


そうだ、と彼は頷いてから、ところで、と続けた。


「話は少し変わるが戦争には正当性が必要だ。ただこの国の王にさからう、という形では、ただの反逆にしかならない。それだと今後色々と不便になる。というわけで同格の者どうしの戦いということにしよう」


「はあ、どういうことでしょうか?」


そう疑問符を頭に浮かべるプルミエに対し、「つまり」とイッシは立ち上がり声を上げた。


「僕は以降、君たち1000人のホムンクルスたちの王になろう。領地はこの砦。また君たちは全員貴族だ。大出世だな。それから法律はまずは一つだけ。僕や君たちを傷つける相手には相応の報いを与えること、だよ」


話の展開について行けず、プルミエはただただ目を丸くするのであった。

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