4
「はーいーばーらっ」
あいりは朝日の射しこまない地下室を覗きこんで、中にいる灰原(哀?)に声をかける。
「お先にどうぞ。あと――解毒剤の方は、もう少しだから待っててくれる?」
「あぁ。やっぱり、そうだよな」
解毒剤が、簡単に、そしてすぐには作れないことなら分かっている。それでも、期待せずにはいられなかった。
いつの間にか、食事の時を知らせるついでに現状を伺うことがあいりの日課になっていた。まだそうなってから三日しか経ってはいないが。
さすがに嫌気が射したのだろうと判断して、
『彼女』は扉を閉めかけた。
そんな時に重要な一言を思い出し、扉を止めた。
「急かしてるオレが言えることじゃないかもしれないけどさ、あんまり無理すんなよ?」
「あなたのためじゃないわ」
背を向けたまま即答した哀に、あいりは思わずたじろぐ。
そんな『彼女』の様子を察知したのか、哀は静かにつけ加えた。
「やっぱり、私も食事にするわ。何だか作業が捗らないし、気分転換に」
「……じゃ、ここのドア開けとくぞ」
えぇ、と頷いた声に、あいりは階段を登り始める。全くもって哀の気持ちが分からぬままで。
「ごちそうさま」
誰よりも早く食事の終了を告げたのは、哀だった。彼女はあいりと博士の視線を気にすることなく、使用済みの食器を手早く片付ける。
全ての皿を洗い終えると、彼女は何もなかったかのようにまた地下室へと向かっていった。
哀の後ろ姿が扉の向こう消えるまで目で追ってから、順を追ってあいりは話し出した。
「灰原のヤツ、何か変だよな」
「そうかのぉ? ワシにはいつもと変わらんようにも見えるが」
博士との間にある溝を感じて、あいりはまた食事に戻った。オレの気のせいならいいけど、と思いながら。しかしながら、やはり何かが違う気がした。態度や語調はいつもと変わらないのだけれど。
そんな中、室内にチャイムが響き渡った。
「こんな時間に誰じゃろう」
こんな時間とは言え、朝の九時半だが。心の中で突っ込みをしつつ、あいりは博士の背中を見送った。居候している立場であるが、この姿で知り合いに会ってしまったりすると後々面倒だから。特に、次に会う時には元の姿で、と約束した蘭とは。
「蘭くんに園子くん? どうしたんじゃ、急に」
『彼女』の頬杖していた体勢が、一気に崩れた。思わず椅子から立ち上がっていたのだ。
蘭はともかく、いや、ともかくでもないけど。園子にはどう説明するか? 自分以外に誰もいないダイニングで、あいりは決断を迫られた。
|