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その話題は、いつもの何気ない会話のすき間からひょっこりと姿を現した。
『そう言えばさぁ、今日駅前で新一君に似た女の子を見たのよ』
「新一に?」
蘭はそれを聞いて、受話器を持つ手に思わず力が入った。園子の言葉に出てきた、新一に似た女の子と言えば一人しか思いつかなかったからだ。
『あいり』である。蘭はカレンダーを見てみると、例の事件から五日経っていると分かった。彼女は、初めて出会った日以来『彼女』とは一切連絡を取っていない。正直、今すぐに声が聞きたいと言うわけでもないからだ。どこかへ行ってしまった人はもうそばにいると分かったからかも、と解釈をしていた。
『ほんと、新一君をそのまま女の子にしたみたいな感じの子だったのよ。まさかここまで似てる人がいるなんて思ってもなかったわよ』
やっぱり、と蘭は真っ先に思った。彼女の九割ほどの確信が入っている容器が、完璧に満たされた瞬間だった。もはや、答えあわせは必要なかった。
蘭が言葉を発した瞬間、思わず彼女の口からは笑みがこぼれていた。
「そうなんだ」
『何、なんか変なこと言った?』
「……ううん、全然。多分ね、その子は新一のい」
蘭はそのままのノリであっさり『あいり』を紹介しそうになったが、言葉の途中で気づいた。実際は存在しない『あいり』の存在を、もろもろの事情を知らない人物に教えてはいけないのではないかと。本人の性格からして、女の子ライフを楽しんでいるともまったく考えられなかったからだ。
『……い?』
「い、一切関係ないと思うよ! 多分、園子の気のせいだよ」
『んー……』
けっこう似てると思ったんだけどな。残念そうにそう言って、園子はその話題に終止符を打った。うんうん、そんなに似てる人なんかなかなかいないって、と蘭もさらりと答える。実際、心の中ではでは『あいり』の姿がはっきりと浮かんでいたが。そして、その残像は、顔をかすかにほてらせながらある言葉を口にしていた。
(今度会う時は、な)
『あいり』との別れの日から、何度その言葉が脳内で流れたことだろう。蘭はそれさえも分からなくなっていた。前のような、どこかぼんやりとしている約束とは違って、今存在しているのは確かな感触があるからだ。
『らーん。……蘭?』
そんな中、蘭はすごい勢いで現実に引き戻された。電話の向こうの園子は、少し機嫌が悪くなってしまっていたように思えた。
「え、なんか話してたっけ?」
『だから、今日わたしが行ったデパートでの話! ほら、バーゲンやってたって』
「あ、ごめん」
もう、と言って園子は話を再開した。まるで何事もなかったかのように。
それでも、蘭の中から『あいり』の姿が消えることはなかった。そして『彼女』に対する様々な思いも同じく、時が経つに連れてより強くなっていった。
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