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三丁目の大艦隊
作:清水正美



第八十三章『ノーベンバー・クライシス7』


ガダルカナル島南方五十キロの洋上…

米艦隊は二つの輪型陣を形成している。ひとつは空母インディペンデンスとプリンストン、
戦艦インディアナを中心に巡洋艦五隻、駆逐艦十隻…
もうひとつはカサブランカ級空母四隻と戦艦アラバマ、巡洋艦三隻に駆逐艦が十隻である。

F4Fを零戦が排除した空を圧して第一機動艦隊の攻撃隊が殺到する。

「航跡から見て、手前の空母が脚が遅い…護送空母、あちらが軽空母だな…よし!」

開戦以来、幾多の戦闘でそれなりに消耗したとはいえ、まだまだ最高レベルの技量を誇る
一機艦の攻撃隊は見事な機動で散開する。

「長官!日本機は向こうの輪型陣に集中しています」

「空母の数に目がくらんだか。奴らには護送空母と戦闘空母の区別がつかないだろうしな」

だが、そうだろうか…ハルゼーの脳裏を疑問かすめた。しゃくな話だが日本機のパイロットの
レベルは相当に高い…二十ノットでのろのろ動く空母に疑問を抱かないはずはないが…

戦闘の鉄則が『最強の敵をまず無力化する』ことならば、いまさら『戦艦』でもないだろうから
このインディペンデンスがまず狙われても不思議はないのだが…

「情報通り対空砲火が激しいな、ギルバート沖とはえらい違いだ。こりゃ相当食われるかも…」

米艦隊の重巡は従来艦のミネアポリス級だが、軽巡は最新鋭のクリーブランド級が入っている。
駆逐艦もほとんどが新鋭のフレッチャー級で、対空火力は格段に強化されている…とくに各艦に
装備された『ボフォース四十ミリ機関砲』は恐るべき対空砲であった。

スウェーデンの火器メーカー、ボフォース社が開発したこの機関砲は射程も長く…八千メートル
以上…弾道の直進性も良好で、史実では二十一世紀までも使用されることになる。
炸裂弾頭がたとえ一発でも命中すれば、重大な被害を受けることは避けられないだろう。

さらに日本機の搭乗員達の目に、異様な姿をした艦が飛び込んできた…

「隊長、いました! 針路前方…話に聞いていた例の奴です」

「…ようし、まずあいつをやるぞ!!」

作戦開始前…実施部隊、とくに航空隊の指揮官が集められた会合で米艦隊についての情報説明が
行われた。高性能の対空電探の普及、対空火力の強化とならんで、出現が予想される新型艦として
配られたイラストが皆を驚かせた。

あまりうまくないイラスト(椿が描いた)には、中心線上に連裝八基十六門の12,7センチ
高角砲を搭載した艦が描かれていた。艦橋の前に三基、後ろに五機がピラミッド状に積み重なって
いる…ハリネズミのような艦型には、排水量七千トン弱の防空軽巡との説明がついていた。
我が海軍の『阿賀野級』をしのぐ対空火力を持つ艦が出てくるかもしれないのだ。

説明にあたった連合艦隊参謀は攻撃の優先順位について注文を付けた。

『空母が最優先の目標であることは言うまでもない。だが一定の条件のもとではこいつを
真っ先に叩いて欲しい。こいつが生きてると味方機がどれほど落とされるかわからんのだ』

その条件とは、友軍戦闘機が優勢であり敵戦闘機の排除に成功したと判断されるとき…である。
現在の状況はぴったりそれに当てはまる…二十機ほどのグラマンは零戦に追いまくられて
かげも形も見えない…

その代わりに、針路前方に炸裂し始めた高角砲弾の閃光と黒煙は驚くべき密度になっている。
中でも説明にあった通りの小振りな巡洋艦は、全艦を発射炎で染め上げるようにして
攻撃隊と空母の間に立ちふさがっていた。

十二機の彗星は急降下して投弾するまでに三機が撃墜され、二機が大きく姿勢を崩された。
だが、高度三百五十メートルまで接近して投下された七発の五百キロ対艦爆弾は、あやまたずに
巡洋艦を押し包み艦上に三つの火柱、至近の海面に四つの水柱を吹き上げた。
それは七千トン弱の軽巡『アトランタ級』の活動を停止させるのに充分な打撃であった。

一機艦の攻撃は空母一隻を撃沈させ二隻の空母、一隻の軽巡と一隻の駆逐艦を大破炎上させて
終了した。帰投を開始した編隊からは四十機ほどの機影が消えている…損耗率二十五パーセント…
一度の攻撃では、これまでに一機艦が被った最大の数字になるだろう。

「レーダーが南百キロに大編隊を捉えました。およそ三百機とみられます」

報告する士官の声が震えている…『今度はおれ達の番だ』

当然のことながらその予想は的中する。十機ほどに減ったF4Fが零戦に呑み込まれ、
アトランタ級がつぶされ、二隻のインディペンデンス級空母に攻撃が集中する。

インディペンデンスが猛火に包まれ停止し、プリンストンが横転した時点で攻撃は
残っている一隻のカサブランカ級に向けられた。

「長官…消火の見込みは立ちません。本艦はもうだめです…インディアナへ移乗して下さい」

すすと焼けこげで軍服をボロボロにしたブローニング参謀長が同様の姿のハルゼーに
退艦を勧める。司令部スタッフが無事なのが奇跡に思えるような日本機の攻撃だった。

プリンストンはすでに海面から姿を消している。カサブランカ級三隻も同様…残る一隻も
インディペンデンスと同じように長くはもたないだろう。

アトランタ級二隻とブルックリン級軽巡一隻、駆逐艦は四隻が沈み数隻が傷ついていた。

『戦艦は二隻とも無傷かよ。奴ら完全に無視しやがった…何か意味があるのか…
ともかく、移乗してこちらの攻撃隊の戦果を待つしかない』

日本機の攻撃の最中に、ハルゼー艦隊がはなった攻撃隊から『敵戦闘機と交戦中』との
連絡が入っていた。彼らがどれだけ日本艦隊を叩いてくれるか…ただし、帰って来ても
降りる艦はもうないが…

魔王艦隊は二百五十機の零戦で米軍攻撃隊を迎え撃った。艦隊から五十キロ、三十キロの地点に
百機ずつ、艦隊直前に五十機を配した三段の防御陣である。

百四十三機…二機がエンジン不調で脱落…の米軍攻撃隊は二段までで編隊をバラバラにされ
組織的攻撃が不可能になっていた。第三段の零戦にばたばたと撃ち落とされながらも、
三十機ほどが二つのうち手前にいる輪型陣にたどりついた。吉浜少将指揮下の四隻の空母を
中心とする特設第百二航空戦隊である。

近接信管装備の高角砲弾と三十ミリ対空機関砲弾が空を埋め尽くし、頑丈な米軍機も次々に
火を吹く…

最後のアベンジャーが魚雷を投下した直後に海面に落下し、空母『あだち』がその魚雷の回避に
成功した時点で戦闘は終わった。

夕雲型駆逐艦一隻が撃墜されたドーントレスの体当たりを受けて大破炎上している。
魔王艦隊初の喪失艦になりそうだが、損害はそれだけだった。電探が捉えている北に向かう
機体は全部で十機ほど…史実のマリアナ沖海戦を裏返しにしたようなほぼ一方的な戦闘であった。

「消火できても自力航行が無理ですと、場所が場所だけに連れて帰るのは難しそうですな」

「乗組員の救助を優先した方がいいだろう。駆逐艦は日本海軍からもらうこともできる」

「…ですね。我が艦隊も今後のことを考えると護衛艦艇を増やしたいです。駆逐艦の建造は
順調なようですから何隻かもらいましょう。乗組員の補充は連合艦隊に移籍した『ねりま』…
いまは『乗鞍』ですか…から返してもらうこともできるでしょうし」

「さて、まだ仕上げが残ってる。松島先任、いまの内に一機艦に詳細な戦果報告を入れて
おいてくれ」

「承知しております。攻撃隊からの報告をもとに敵の残存艦について、できるだけ詳細に
連絡します」

魔王艦隊は陣形を整えると北上を始めた。

つづく




このソロモン海戦はこんなに長く書く予定ではなかったのですが…さらにもう少し延びそうです。戦争はなかなか思ったようには進みませんね。











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