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 これから綴られる『上杉謙信公の物語』は、あくまでも作者の妄想による物語です。正史にのっとた解釈とは隔絶したところが多々あり、許容出来る方のみお読み下さいませ。

 なお本編の主人公は、第二次世界大戦戦後の日本における昭和史を生きた女性であり、性別を違え戦国時代に長尾景虎として生まれ変わった転生者です。前世の記憶はありますが、戦国時代の歴史については、ごく一般的な知識しかありません。

序章


 数日前より、降りつづいた豪雨が、妻女山に築いた陣屋の縁先に、ひっそりと咲くヤマホトトギスの、その小さな白い花弁を、無惨に散らしていた。

―――陣屋の片隅で、ただ精一杯の生を営んでいただけなのに……。

 一片の散らされた花弁は、この胸をしめつける。転生した世界の理不尽さを重ね合わせ、私は無心に琵琶をかき鳴らす。

 なんの因果か、私が生まれ変わった、この世界のありようは、力をもたぬ弱き者に厳しくて、随分と平和だった前世の記憶と比べれば、とうてい許容出来ない倫理観の違いに、目の前が真っ暗になった。

―――なぜ神仏は、世の理からはずれた生を私に与え、このような理不尽な世界に生かしているのだろう?

 気がつけば、いつも絶望と恐怖をかかえて生きてきた。この世界の理から目をそらし、運命を呪い抗った時もあった。しかし今は静かに燃え猛る青白い(ほのう)を胸に秘め、来るべき時をまつ。

―――たとえ間違っていようとも、信じる道を貫くのみ!!



 決意を内に秘めた私の目の前に、ものものしい鎧に身に包んだ宇佐美定満(うさみさだみつ)が、おだやかな好好爺のかおをして、この縁先にあらわれた。

「お屋形様、高台から面白いものがみえますぞ」

「んっ……宇佐美か?武田方にうごきがあったな」

 答える声に、モノクロームに凍りついていた私の視界が、在るべき色彩をはっきりと取り戻す。そして新たな運命の歯車が、軋んで回りはじめる予感がした。

 やってきた決断の時に、私がゆるりと立ち上がると、気を察し室内にひかえた小島弥太郎(こじまやたろう)は、のそりと縁先に現れ琵琶をうけとった。

「お虎様、やっと動くのだろ?久々に腕がなる!!」

 さぞかし今まで退屈だったのだろう、私の腹心は赤鬼のような顔を期待でさらに赤く硬直させて、二の腕に力瘤をつくってみせる。

「さてな、どうであろう」

 弥太郎の言葉をはぐらかし、私はすこし首を傾け思考を巡らせた。そして閃くままに縁先へ飛び降り、いまだ降る小雨のなか敵陣がみわたせる高台へと駆けだした。

―――いま決戦の時が近づいて来た!!ドキドキと心の臓が高鳴る!!身のうちに燃え上がる青白い焔!!この度こそ、決着をつけるのだ!!

「おやおや……まるで子供ようじゃ。お屋形様、足元に気をつけなされ――」

 宇佐美は、無邪気な顔つきで走り行く主の背に声をかけた。そして振り向いて弥太郎と視線を交え、確信をもってひとつ頷くと、走り去った主の後を追う。



 高台にたどりつくと、私は敵陣から立ち上る煙をチラリと見て、切れ長の目元を細め、唇の端をつりあげた。それは絶望と恐怖、忌まわしい狂宴のはじまりだ。

 胸のうちに静かに燃えさかる、青白い焔が本来の私をのみこむと、すぐさま頭に、驚異的な数の戦術パターンが、つぎつぎと浮かび駆けめぐる。

―――そうだ絶望と恐怖をあたえる、青白い焔に飲み込まれ、私は『戦さ人』になる。

 宇佐美が遅れて高台につくと、すでに雨はあがり、ぽっかりと浮かんた冴えた月が高台の主を照らす光景が見えた。

 その主のうしろ姿は、誰もが畏怖する魔性をやどし、噴き出す青白いオーラが世界を侵食していくような、錯覚をおぼえさせる。

 彼は、はやる鼓動を強引に抑えつけ、ことさらゆっくりとした足取りで、主の隣にならび立つ。そして、世間話でもするように、主に問いかけた。

「あの煙、敵はどうやら、明日攻めてくるようですな。いかがいたしますか?」

「ふっ……あやつらしびれを切らしたな。明日は面白い戦が出来そうじゃ」

 満足そうに言うと、明日の戦を占うように天を見上げた。すると、雨が上がっている事に気づいて、私は口角をニィとあげた。

「んっ……どうやら天は、我に味方するようだ」

「しかり!!地元のものに訪ねました所、雨が止んだ翌朝は濃い霧が出るそうです。丁度、敵が陣をはる八幡原は、濃い霧で一寸先も見渡せなくなるそうです。我らには好都合ですな」

 私は好戦的な視線で、並び立つ宇佐美を見ると、声あげてクツクツと笑いだした。

―――理不尽に奪われ続ける者たちを、平和を願う力なき者たちを守りたい。

「宇佐美!!軍義の支度をせい!!」

―――両手を真っ赤に染めて、我は毘沙門天の化身となる。

序章[完]
 初めまして作者の有坂ありさか けいです。拙い文章ですが、興味を持って読み初めて下さった皆さんありがとう御座います。

 本作品は、私個人の運営するHP上にて公開している小説を加筆修正したものになります。ですから更新はゆっくり目になりますのでご了承下さいませ。

 また最近、筆をとったばかりの初心者ゆえ見苦しき点が多々あり誠に申し訳ない限りです。出来ましたら本作品の質を向上させるためにも、ご意見ご感想など頂けたら幸いです。


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