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半熟果実
作:ドルフィン



29.合コン


「い、いや、大樹よ……。気持ちはありがたいのだが、生憎俺にそっちの趣味は――。っていうか、お前はてっきりノーマルだと思っていたのだが」
「は? なに言ってんだ、お前」
「え? いや、だってお前今、俺が夏菜のこと忘れさせてやるって――」
 俺の言葉を聞いて、大樹は呆れ顔で息をついた。
「アホか、お前は。何危ない勘違いしてんだよ」
「いや、よく見ればお前それっぽい顔してるし」
「ほっとけ! ってか、余計な茶々入れんじゃねえ!」
「はいはい。それで、この夏菜のこびりついた俺の脳みそから、どうやって夏菜を除去すると?」
 俺の言葉に、大樹は気を取り直したように、また不敵に笑い、声を出した。
「俺を誰だと思ってやがる?」
「え? 何の取り柄もない、しがない女ったらしだろ」
「うるっせえ! いちいち勘に触る言い方ばっかしやがるな、てめえは!」
 いや、だって、お前が変なこと聞くから。
「……まあ、いいや。いいか、純。今のお前に必要なのは、新しい出会いだ」
「アタラシ・イデア・イ?」
 これはまた随分難解な言語ですな。
「おぅ。新しい女作って、夏菜のことなんて吹っ切っちまえ。合コンがお前を待ってるぜ純!」
「……はい?」






 合コン。正式名称、合同コンパ。これは主として男女の出会いを求めるために行われるコンパで、女子の大学進学率が急激に上昇し始める1970、1980年代頃から盛んになり、その後学生同士に限らず広汎こうはんに行われるようになった。合同コンパという名称はうんぬんかんぬん。
 しかし、そういったものをまさかこの俺が体験することになるとは。いや、それというのも、俺のために今週の日曜日に、大樹が勝手に知り合いの女の子を集め、合コンを組んでいるというのだ。そして、夏菜のことを忘れられるという甘言かんげんに惑わされ、来る日曜日、俺は待ち合わせの午後六時、待ち合わせの駅前に来てしまったわけで。
 よく考えてみれば、親友が失恋で打ちひしがれているこの状況を大樹が放っておくはずなどないのだ。だって、ほら。もし麗美にこのことバレても、俺のためだって都合のいい言い訳ができるじゃん? 安心しててめえが合コン楽しめるってワケだな、うん。
 そこに直れ、大樹、ごらあっ!
 ――と、普段なら麗美に告げ口をして「修羅場ドッキリ」を仕掛けてやるところだが、気晴らしにはなるかな、などと思い、待ち合わせの場所に来てしまった俺は、やはり自分を見失っているわけだ。
 つーか、まあ、社会勉強の一環として合コンというものを一度は経験しておくのもありかなと。いや、決して家で一人寂しく過ごすのが辛いなんて思ってません。あわよくば、夏菜のことを忘れさせてくれるような天使様との巡り合いなどを夢見てるわけでは、ええ、決して!
 改札を抜け、駅の南口で人の流れをぼんやりと眺めながら大樹を待っていると、程なくして人の流れの中から大樹を発見。大樹は俺に気付くと、テンション高めの声を出し、俺に手を振ってきた。
「おーす、純。時間通りだな。感心、感心」
「……お、おぅ」
 バリバリのストリート系ファッションに身を包んだ大樹は、俺の元まで駆け寄ってくると、無遠慮に俺に肩組みをして、俺の腹を軽い調子で殴ってきた。
「どうした、どうした。情けねえ面しやがって。もしかして、緊張してんのか、お前」
「い、いや、まあ……なんだ。合コンなんて、初めてだからな」
 俺の言葉を聞いて、大樹はニヤリと嫌らしく笑った。
「喜べよ。今日集まった女の子はみんな上玉だからよ。夏菜に勝るとも劣らないかわいこちゃん揃いだぜ」
「いや、俺は別にそんなつもりは……。とりあえず、気晴らしにだな」
「いいから、いいから。御託は抜きにして今日は楽しめよ。なんせ、今日の合コンはお前のためにセッティングしてんだからよ」
「はあ……」
 つーか、お前のハイテンションについてけねえよ。
「いいか、純。今日の合コンは4・4だ。そんで、こっちの男メンバーの残りの二人とも引き立て役を用意しといた。つまり、初心者のお前でも、充分に楽しめるって寸法だ」
「いや、引き立て役ってお前」
「さて。じゃ、行くとするか」
 俺の言葉を聞かず、大樹は歩き出した。
「おい、おい、大樹。まだ、俺たち以外誰も来てねえだろ」
「あ? いや、構わねえよ。もう、合コンは始まってっから」
「は?」
「遅れて行くのも合コンの戦術だ。今頃、引き立て役の男二人相手に、女の子達も白けてる頃だ。そこで、真打の俺たちが登場することで、俺たちの価値は高まる。これぞ名付けて捨石戦法」
「お前……そういうことばっかしてたら、いつか、友達失くすぞ」
 ……麗美よ。お前は一体こいつのどこに惚れたんだ。今度、マジで聞いてみていいか。いや、誰ならぬ、お前自身のために。
「馬鹿なこと言ってねえで、さっさと行くぞ。ぐずぐずしてたら、女の子達が白けて帰っちまうぜ」
 そう言って揚々と弾む大樹の背中を見ながら、俺はこの時ほど強く疑問に思ったことはないだろう。
 俺、なんでこんな奴の親友やってんだろ――?







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