第2章 嫉妬の対象
「今日から1週間、このクラスで教育実習を受けることになった的矢中先生だ。みんな、短い間だけどよろしくな!では、的矢先生。簡単な自己紹介をよろしく!」
俺が1週間の間、教育実習を受けることになった学校は県内でも有数の進学校。というか、もっと分かり易く説明するならば俺の母校だ。
母校―。
脳裏に浮かぶのは俺のくだらない高校生活。俺は運良くこの県内でも割と上位の世間で言う進学校とやらに入ることができたのだが、だからといって人より頭がきれるだとかそういうことは全然なくてただ単にマークシート方式の受験問題を適当に塗りつぶしたら運良く合格しました程度のレベルだった。
だから、当然の如くテストの度に発表される順位も下から数えたほうが早いという所謂落ちこぼれに過ぎなかった。
当然、彼女はおろか分かり合える友達もいなかったし、ぼんやりと過ごしていたらあっという間に3年間が終わってしまったという虚しい青春時代だった。
そんな俺が卒業して丸3年経って教育実習とやらで母校に帰ってきたところで、さしたる感慨もなかった。
むしろ、たった今俺を紹介してくれた小太りで眼鏡のメタボリック教師と再会することになったのにため息が出るほどだ。
この男、名は渥美正といい寅さんで有名なかの名優渥美清に名前が似ていることだけが取り柄のろくでもない職業教師だ。
何を隠そう俺が高校の時は2年、3年とこいつが担任だった。こいつのせいで俺の高校生活はさんざんなものだった。
弓道部の矢が当たりそうになり、危うく命を落としかけた時もこいつは目の前でその光景を目撃したにも関わらずでかい腹を抱えて笑いながら俺にこう言ったことを今でもはっきり覚えている。
「的矢。そんなとこで突っ立ってるお前にも問題があるってもんだぞ。お前が弓道部の前に来たらそりゃあ誰だって矢を当てたくなるさ。がははは」
そんな渥美大先生がよりによって俺が1週間教育実習を受けるクラスの担任だとは。
1年4組。それが俺が1週間お世話になるクラスだ。まだ高校に入学して間もない多感な時期にいる高校1年生の男女27名が在籍していた。
5月の大型連休も終わった最初の週。
休み明けでだらけた雰囲気の教室。
そのクラスの担任はメタボ渥美。
そこにきた大学生の教育実習生。
そして―。
「初めまして、的矢中です!これから1週間至らない点もあるかと思いますが、皆さんよろしくお願いします!」
黒板に的矢中とチョークでメタボ渥美が勝手に書くと、沸きあがる大爆笑。
「的に矢、当たるだってよ!だっせー名前」
もうこんなことは日常茶飯事なので慣れていたが、やはり幾らかはショックだった。
まだ渥美正のほうがましだといえる。
こんな時でも俺は誰かに嫉妬せずにはいられなかった。
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