第11章 嫉妬の行方
「では私は帰りますから。くれぐれもベートーベンの幽霊には気をつけるようにね。私もこう見えても1年の時につけられたし。1年生が好きなのかしらね」
これまで本を読んでいた文芸部の萩谷部長がすっくと立ち上がり、みずきに向けて意味ありげに微笑み学生鞄片手にその場を立ち去った。
やはり捉えどころのない女子生徒だ。
無関心を装いながらもこちらの話はきちんと聞いていたというわけか。
それにしても、そのおかげでここでまた新情報が得られたわけだ。
べートーベンは1年生女子がお好き?
という。
兎に角、吹奏楽部の練習が終わると俺と新城みずきと那珂川翔太郎の3人は音楽室の中に入った。
扉を開けると中には困惑した表情の赤川春美が待っていた。
「まだベートーベンの絵はあるで。昨日はな、7時頃ここを出たんやけどその時もまだあったんや。で、なんで絵がのうなったのが分かったんかというとな。昨日は部長の三島先輩が忘れもんを取りに7時30分ごろここにもどってきたそうや。そしたら絵がのうなってたんやて。丁度30分といやあたしが家の近くで妙な気配。誰かにつけられてるようない嫌な気配を感じてたころやし」
春美は相変わらずの関西弁で一気にそこまで捲くし立てた。
よくしゃべる子だ。
しかし、そのおかげで事件の詳しい状況は把握できたから得意のおしゃべりが有効だったといえよう。
「分かったわ。じゃあ、とりあえず7時30分まで誰かこないか見張っていましょう。勿論机の下なんかに隠れてね」
単純な対策ではあるがそれ以外に手の打ちようがなかったのだろう。
俺を含めた4人は早速音楽室の電気を消した後、それぞれ机の下に隠れて不審者が現れるのを待つことにした。
1時間30分は少し長い時間だが犯人確保のためにはやむを得ないと言い聞かせて… …。
しかし。
10分、20分、30分経っても何かが入ってくる気配すらなかった。
そのうちに隣の机から待ちくたびれた那珂川のいびき声が聞こえてくる始末。
勿論それに気づいたみずきがそろそろと気持ちよさそうに寝ている那珂川の頬を思いっきりひっぱたいて事なきを得た。
「いってええ」
という情けない那珂川の声が音楽室に響いたのは言うまでもないが。
そして、とうとう7時30分になっても誰一人音楽室に現れなかった。
予想していたこととはいえ、さすがにこの結果は残念だ。
仕方なく音楽室の電気をみずきがつけ、ベートーベンの絵自体に仕掛けがないか調べようと絵に手をかけようとしたその時だった!
異変に気がついたのは他ならぬ赤川春美。
「ないわ!ありえへん!あたしらずっとここで見張っておったのに、ベートーベンの絵がのうなってるわ!」 |