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小さな命の尽きる部屋

作者: 茶和

私は、ある大学の施設で働いています。人間のために差し出される命の世話をするために…

改札口を出たらすぐに右に曲がり、線路に沿って歩き出す。電車に乗っているのは僅か7、8分なのだが、降りてからが長いのだ。広がってゆっくりと歩く学生達をかき分けるようにして14、5分は歩かねばならない。特に年度始めは一年生が元気すぎて、楽しそうな明るい声が耳に響いて頭が痛くなる。

途中にある保育園ではママ達と保育士さん達のテンションの高い挨拶が飛び交い、ヤル気を失わせる。その先の接骨院では若い男性の医師が玄関脇の鉢植えに水をやっている。角の総合病院に続々と入って行くのは看護師達だ。朝の街は動いている。

スーパーの駐車場を左に曲がればあとは道なりだ。みな、ひたすら大学に向かう。雑木林や小山を崩して都心近くからキャンパスを移したのはもう10年以上も前のことだ。なのにこの街は全く学生達と馴染もうとしない。喫茶店など一軒もない。大学側もそれに対抗するかのように、生協やカフェテリア、弁当屋までを用意して、朝来た学生達を夕方まで決して離そうとはしない。シルバーの男性達が道の要所要所に立っている。大学生相手に、その通学路に立っている。恐ろしい程に無愛想なので、逆に挨拶が出来ない。挨拶したこともあるにはあったのだが、不機嫌な低い声で挨拶を返されて気分が悪くなったので、もうやめた。

この道は長いごく緩やかな下り坂だ。のどかな畑が広がり、所々に家々の塊がある。白い花ばかりを集めた庭のある家の前を過ぎ、最近出来たコンビニを通過すれば、やっと大学の正門がある。自然を生かしたキャンパスは広々としていて、四季折々の移ろいが美しい。門を入るとすぐ両側には欅並木が続く。抜けると下り階段があり、左手には立派な大学生協がある。階段を下りてずっと奥まで進むとやっと研究棟になる。扉を開け、さらに開ける。

さあ、ここへはもう学部生は入って来ない。空調の単調な機械音が響き、空気は澱んでいる。臭気が立ち込め、ドアは重い。ここは地底の祠のようだ。使われない核シェルターのようだ。絶望の牢獄のようだ。死体安置所のようだ。そして、実際そうなのだ。動物研究施設。私はここで働く。


コトコトとリズミカルな 音に乗せて

餌をかじる 小さな命た ちよ

神は 人と同じ生命維持 の仕組みを

おまえたちにも与えてお られるのだね

食べ 消化し 排泄する

完成された その仕組み を

決して

無駄にはするな

赤い血に運ばせる命の未 来は

あと 僅かしか

残されてはいないのだ




楽しいこともあり、辛いこともあります。ここで働くことは、私の人格形成にどんな影響があるのだろう?私は、どんな人なんだろう?過去にあったこと、今あること、これからあってほしいこと、ありそうなこと。

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