kiss.07 告白
「―――で? 本当のトコ、家まで送ってもらったんでしょ」
両手で頬杖をついて、正面からじっとあたしを見てくる。
(あ……やっぱり気付いてた?)
―――昼休み。なぜかあたし達は、音楽室にいる。
橘くんからの詮索を避けるために、状況を知らない筈の紗枝が鋭い勘を働かせて気の利いたアシストをしてくれた。お陰でその場を逃れることはできたんだけど……
「何かあったわね梨緒?」
彼女の追求からは、絶対逃れられないと確信した。疑問じゃなくて確認の域に達している辺りが、凄いと思う。
小さく、頷く。
「今朝からずっとあんな調子だったのは、諏訪絡みだったわけねー」
納得、納得~♪ なんて鼻歌交じりに頷きながら、紗枝は楽しそうだ。
「さては送り狼にでもなられて、食べられちゃったとか?」
どどどど、どきっ。
“送り狼”というフレーズに、あたしの心臓がバカ正直に反応する。
「なっ、ないないっ! そこまでされてないっ!!」
ずいっと、紗枝の顔が近付く。
「“そこまで”はされてないんだー。……ってことは奪われちゃった? ファーストキス」
「…………うん」
ぼぼぼっ、と一気に熱くなる顔。
「もぉ~~可愛いっ!!!」
勢い良く紗枝に抱きつかれる。
「諏訪が手を出したくなる気持ちも分かるわぁ! 梨緒のそういう純情なところが百戦錬磨なオトナの男としては放って置けないっていうか♪ うんうん、そっかーやっぱりねぇ」
ぎゅうぎゅうと締め付けが強くなる。紗枝の豊満な胸があたしの鼻を塞いで窒息寸前、彼女の腕をタップした。
「く……苦しいよ……紗枝ぇ」
「あら、ごめん」
ようやく清々しい空気にありつけてホッとする。
「紗枝は楽しいかもしれないけどさぁ。あたしは好きでもない人にキスされたんだよ? しかも、初めてだよっ?」
「相手に不足はないじゃな~い?」
「不足だらけだよっ! あたしは好きな人とキスしたかった!!」
「梨緒ってばぁ。あんた贅沢っ」
むにぃーって両頬を横に引っ張られて。
「い、いひゃい」
「で? 諏訪のキスはどんな感じだった? 強引なの? それとも優しかったりするの?」
「……そっ、そんなの……」
最初のキスは余りにも突然だったから、強引に奪われた内に入るんだろうけど。
次にしてきたのは―――。
「優しい……かも……しれない……」
軽く唇に吸いつくようにして触れて。すぐに離れていった。
思い出して、背筋がゾクゾクしたし顔が一気に熱を帯びた。
(ああっ、あたし、何言ってんの!?!?!?!?)
紗枝の誘導尋問に上手いこと乗せられてよく滑る口から出てきた言葉に、深く後悔する。
「……やっぱり、梨緒は愛されてるのねぇ」
いつもの冷やかしとは違った口調で、真剣な顔をした紗枝が言う。
「いつもそう言うけど……なんで?」
熱を帯びた顔はなかなか冷めないでいる。
そんなあたしに触れてくる紗枝の手が、ひんやりと冷たくて気持ち良かった。
「それはね―――」
同性でもキレイ、って思う笑顔で言った。
「私、諏訪とエッチしたことあるから、分かるの」
***
頭の中が真っ白になった。
確か今は昼休みで。そしてここは音楽室で。目の前にいるのは、あたしの友人の紗枝で。
突然の衝撃告白に腰が抜ける、というのを初めて経験したあたしは力なくその場に崩れて、立ち上がることが出来なかった。
「ちょっと梨緒、大丈夫? そんなに驚くことじゃないでしょ」
「お、驚くに決まってるじゃん! 自分が何ってるか分かってる? ねえだって紗枝……ガッコのセンセだよ?」
諏訪だよ? あの、メガネの、サド教師だよ?
『遊び以外は相手にしない』
昨日、諏訪の言った言葉が蘇る。
あれって……こういうこと?
遊びって……そういうこと?
「言っとくけど、別に付き合ってる訳じゃないのよ? 2、3回した位で」
「えええええーーーーーっ!! に……にさんかいって……」
一回だけじゃないのぉぉぉっ!? 訳も分からず両耳を塞いだ。
「だーけーど」
腰が抜けて身動きの取れないあたしの前にしゃがみこんで、紗枝がにっこり微笑んだ。
「優しいキスされたことなんてないわ。いつも力づくで強引だし、キスなしで終わることもあったし」
だからそんな詳細要りませんからぁ。
平然と話をする当事者の紗枝より、聞いてるあたしが恥ずかしくなる。
「それに普段の諏訪が梨緒に接する態度見てると、何か違うのよね」
「……違う?」
「そ。愛しいモノを愛でるような目で、時々あんたのこと見てるのよ」
―――知らなかったでしょ。
そう言って、紗枝は立ち上がった。
「今保健の先生呼んできてあげるから、待ってなさい」
そう言って、部屋から出て行った。
―――残されたあたしは、呆然と脱力状態が継続中のまま。
笑って“冗談よ、ジョーダン”なんて言ってくれるんじゃないかって期待してたのに。
『――2、3回した位で』
そんなヤツにキスされたなんて。
遊びで生徒に手を出すようなエロ教師に、最低のオトナに、ファーストキスを奪われたなんて。
「最悪……」
なんだかすごく汚されたような気になって、今頃になって悔し涙が出てきた。
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