kiss.28 買われたのは濃密な時間
現実逃避して、失神出来たらソッチの方がよっぽどいい。
親友と取引をして我が家に侵入してきた教師に、口移しで水は飲まされるわ、身体を押さえ込まれてパジャマは脱がされそうだわ。
ノーブラだから! モロ見えだからっ!!
無法地帯と化したあたしの部屋の中、助けを呼ぼうにも誰もいないし。
「……バカ……センセのバカぁ……」
このまま諏訪の言う通り「好きなように」されてしまうのかと思ったら、悔しくて、怖くて。
ポロポロと涙が零れた。
「馬鹿はお前」
呆れたような声と共にふわりと何かが肩に掛けられて、着ていたパジャマをするりと抜き取られた。
「……え」
「着替えだ。あんな汗だくじゃ体冷やすだろうが」
肩にかかったそれは、着替え用に置いてあったもう一枚のパジャマだった。
さらりとした肌触りが心地良くて、思わず隣の諏訪を見上げてしまう。
「人を盛りのついたガキと一緒にするな。病人喰う程飢えてない」
盛りについては日頃の行動を思い返すと首を傾げてしまうけど、見せてくれた優しさはちょっと意外。
「……あり、がと……」
自然とお礼の言葉が口を付いて出たっていうのに、眉を顰めた諏訪の態度が、ムカつく。
「やっぱり相当具合悪いな、お前」
「どうせ、普段は……素直じゃないです……から」
おぼつかない手でパジャマのボタンを一つ一つ掛けていきながら剥れたあたし。
その手を諏訪に掴まれて、抱いた肩を引き寄せられた。
「冷え切ったロビーを寝床にするほど、頭を冷やしたかった理由を訊いてやる。話せ」
思わず見上げてしまった諏訪と目が合って、
「別に……センセに話すこと……」
誤魔化しが効くとは思ってなかったけど。
「橘にキスされたことか」
――え?
「……センセ、見てた……の……」
夏合宿のあの時。遠くなった諏訪の足音が戻って来た気配はなかったはずなのに。
橘くんにキスされたところを見られてた??
訊ねると、諏訪の表情が険しくなった。
「そうか」
アッシュグレイの瞳が鋭く光る。
「あいつやっぱりしたんだな」
それは立派な誘導尋問というやつで。
あたしなんか一発で引っ掛かってしまうような、諏訪の策略だった。
まるで見ていたかのように言われて、素直に反応したあたしの一言で。
バレテしまった橘くんとのキスのこと。
それは、諏訪の逆鱗に触れてしまったようだった。
「警告がてら見せつけてやったのに、逆効果だったとはな」
感情のない冷めた独り言のように呟いて。あたしの頬に手が触れて、親指が唇をなぞる。
「平気でさせるお前にも腹が立つ」
「……平気で、させてなんか……」
突然だったから避けられなかっただけで、別に受け入れるつもりなんてなかった。
「どんな風にされた」
「……」
「何度もされたか」
「あのさ……」
「舌入れてきたりしてないだろうな」
「センセ?……ねえ、ってば……」
一方的に質問するばかりの噛み合わない会話に、諏訪の腕を思わず握った。
それきり問い質すことはなかったけれど、じっとあたしを見下ろしてくる眼差しが寂しそうだった。
「……センセ?」
何も言わない諏訪の胸に身体を押し込まれた。
捲きつく腕の力が、いつもより強い気がする。
「少しくらい妬かせろ。こっちは生徒を殴るわけにはいかないんだ」
「な、なんで殴るとか……」
「俺のモノに手をつけたんだ、十分に値する」
――だからさ。あたしは別にセンセのモノじゃないし。
「お前をこんな目に遭わせた事は、これから受ける恩恵に免じて許してやる」
「……はい?」
“これから受ける恩恵”って、一体何の……
呆然と諏訪を見上げたまま彼の瞳に答えを探してみるけど――全くもって理解不能。
不意に持ち上げられた顔に、被さるような諏訪のキスがやって来て。浮いては触れてを繰り返す。
「どこまで楽しませてもらおうか」
ってさ。さりげな~く、手が、手がっ、手がぁぁぁっ!!
いつもなら凶器と恐れられる大声全開で叫んだとこだけど、やっぱり調子は底を這うように低いまま。
控え目にあしらうことしか出来なかった。
「ちょっと……センセ、どこ触って……」
「どうせ最後まで出来ないんだ、無駄に豊満な胸くらい触らせろ。橘殴るより痛みもなけりゃ不快感もなくて済む」
パジャマの裾から侵入した手が、下から持ち上げるようなその触り方、すごくヤラシイから。
っていうか……許可なく勝手に触らないで欲しいんですけど。
「やめ……」
拒絶しようとした声を、深い角度で交わったキスに飲み込まれて。
胸元で感触を楽しんでいるような手の動きも気になるんだけど、いつになく執拗に口内をまさぐる舌の動きの方がもっと気になる。
別な熱に侵されて更に頭はボーっとしてくるし。
くったりと、諏訪に体を預けるような体勢になった所に。きゅっと、胸の尖りを摘ままれてゾクゾクと痺れが走った。
「……あっ」
タイミング良く唇を離され、信じられないような声が漏れて恥ずかしい。
そんなあたしを楽しそうに見下ろす諏訪の顔が視界に入ると、輪を掛けて。
「時任のクセに意外といい声で啼くな」
――すぐそういうエロいことを言う。
不満気にあたしが睨むと、ちょっと眉を上げた諏訪にベッドへと押し倒されてしまう。
話が違う――と青褪めた時だった。
「タイムアップだ」
言いながら体を離した諏訪が、胸元から携帯を取り出して確認する。
「薬飲めなきゃいつでも呼べ。続きがしたけりゃ、それでもいいぞ」
最後は額にキスを落として、余りにもあっさりとその人は部屋を出ていく。
――やりたい放題じゃん……あの人……。
呆然と、ただ呆然とするのは下がり切らない熱のせいだけじゃない。
一方的にされっ放しで変な気分にさせられた責任をどうしてくれるんだと、責めるのも恥ずかしい。
だからって続きをして欲しいなんて、死んでも言えないし。
「センセの……バカ!」
中途半端で放置され、身体に残った微妙な疼きから気を紛らわせるように、声を振り絞ってあたしは叫んだ。
もう絶対熱なんて出さないから。出しても自力で治してやるんだから。
そう、固く心に誓った
「あらー。随分元気になったみたいじゃない。やっぱり効果抜群ねぇ」
しばらくしてから入れ替わるようにして部屋に戻って来た紗枝の顔を見るなり、あたしは枕を投げつけた。
目の前に好物のチョコミントアイスが差し出されなかったら、次は目覚まし時計が飛んでいただろう。
彼女はしれっとした顔をして。
「心配して連絡してきたのは諏訪の方よ?」
なんてことを言い始めた。
「え?」
「熱を出しそうな様子だったから、何か聞いてないかって。おばさんから連絡きた直後のタイミングでよ? もーこれには“愛”を感じたわー!」
その時の興奮を思い出したのか、きゃーっと足をジタバタさせる。
「それで? ……あたし今回は何と交換されたんでしょう」
あたしと過ごす時間と引き換えに紗枝が手にしたモノを訊ねてみれば。
うふふ♪と。歌でも歌いだしそうに言った。
「来週オープン予定の、ブランドショップの関係者PASSよ」
絶対見つけ出して、そのPASS破り捨ててやるんだから!!
読んだよ♪のご報告に、簡単なメッセージに、宜しかったらお使い下さい。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。