21−指輪の精霊
カチャカチャとナイフとフォーク、食器が擦れ合う音がする。家に戻って来た俺とロスヴァイセさんはヴェーリルさんの作ってあった昼飯にありつきながら午前中の出来事を話し合っていた。
話は先ず俺とロスヴァイセさんのスキルポイントでの修得に始まり、今はヴェーリルさんが買ったという小さな壷について話し合っている。
「来たるべき時に従うべき定めの者にしか解けない封印ね・・・何とも怪しさ満点な物を買いましたね。」
「んー、でも買った事は後悔はしてないよ。封印が解けて、何か力を得る事が出来るなら安いものだし、封印が解けなくてもそれはそれ。夢を買った気分でいられるわ。」
何とも浪費家的な台詞だろうか。
それにしても、その老婆から壷を買う時のヴェーリルさんの感覚が気になる。
恐らく現時点では俺よりも強いヴェーリルさんの感覚だと、自分が選ばれる側の様な買い物だったらしい。物に選ばれると言う事は、それなりの何かである可能性が高い。
「壷自体を開けようとはしてみたんですか?」
食事の手を休め、ロスヴァイセさんも話に乗ってくる。やっぱり何処か気になってしまう一品だ。
「いや、まだなんだよね。何か1人で開けちゃうと勿体ない気がしてさ。」
そういってテーブルの中央に置かれていた壷に手を伸ばす。壷はワインのコルクのように簡単に栓がしてあるだけだ。
「ふっ!」
ヴェーリルさんが軽く力を込めると、その栓は簡単に抜けた。
「ん、中に何か入ってる・・・」
壷を逆さまにして中身を取り出す。するとコロンと1つの指輪が出て来た。
「指輪・・ですね。」
「・・そうね。」
何の変哲も無さそうな指輪。光る石の材質は分からないが、それでも何処にでもあるような指輪に見える。
「何の指輪でしょうかね?」
ヴェーリルさんから受け取りそれを眺めた後、指を通そうとした瞬間、ビリッと電気が指に流れた。これは俺を選んでいない証拠なのだろうか?
「痛ぅ・・どうやら指輪自体が持ち主を選んでいるのは間違い無さそうですね。」
そう言って今度はロスヴァイセさんにも手渡す。
同じように指を通そうとして顔を歪めたと言う事は、ロスヴァイセさんも選ばれなかったという事だろう。
指輪は買い主であるヴェーリルさんの手元に戻った。
「これでアタシも拒否られたら、ちょっと凹むなぁ。」
そう言いながら指を通す。
何の拒否反応も示す事無く、指輪はスルスルと指に通されていく。
バタンッ
指輪をきっちりと嵌めた瞬間、いきなりテーブルにヴェーリルさんが突っ伏した。
「ちょっ!ヴェーリルさん!?ロスヴァイセさん手伝って!」
2人掛かりでヴェーリルさんをソファーに運び、起きた時の為にエリクサーも準備した。
何が起こっているのかは分からないが、とにかく今はヴェーリルさんの意識が戻るのを待つだけだ。
真っ白な世界。此処は何度か来た事がある、スキルポイントで来る事が出来る深層世界のようだ。
はて?アタシは何でこんな所にいるんだ?確か3人で昼ご飯を食べていて、指輪を嵌めて・・・
「それでオレっちに喚ばれて此処に来たってわけさ。」
何も無い空間に声が響く。キョロキョロと辺りを伺うも、姿は見えない。
「誰?」
「お、悪い悪い。実体化なんて何十年もしてないから忘れてたよ。」
空気が流れ、風が目の前に集まり出すと、風の渦の中から1人の男が姿を現した。
「挨拶が遅れたな。オレっちは精霊のジンっつーんだ。姐さんが嵌めた指輪に閉じ込められていたんだな。」
「指輪の・・精霊?」
「そうそう。姐さんと契約をしに来たんだな。」
「ちょっ、ちょっと待って!話が全然見えないんだけど!」
「そんな事無いさ。姐さんはあの喚言師の婆さんから指輪を譲り受けたんだろ?つまりオレっちとの契約の後継者に選ばれたって事だ。運が良かったなぁ。オレっちの仲間には後継者の命を狙ってる奴もいるからな。」
「指輪・・後継者?」
「なぁんだ、何も知らないのか?姐さんが嵌めた指輪だけじゃない。他にも色々なアイテムがあってな、そのアイテムにはそれぞれ精霊が宿っているんだ。昔はあの婆さんに使役されて共に暴れていたんだが、大分前にな、婆さんが引退するって言い出したんだ。それからオレっち達精霊は、何時の日か再び使役されるのを待つだけになっちまったんだ。」
「ジンは精霊なのね・・・」
「そうさ。指輪に封印されていた精霊さ。」
「そっか。何となくだけど事情は分かったわ。それで?何でアタシはその封印が解けたの?」
「精霊の封印は精霊自身しか解く事が出来ないのさ。だから姐さんが封印を解いたというのは間違い。何故姐さんなのかっていう質問なら、何となく、かな?何となく波長が心地良かったから、封印を解こうと思ったのさ。」
フヨフヨと空中に浮かび上がるジン。
それを追うように自分も浮かび上がってみる。
「ははっ、やっぱり思った通りだ!姐さんはオレっちと似たような能力を持っているんだな!」
「確かにそうみたいね。それで?後継者になるにはどうしたらいいの?」
「簡単な事さ。姐さん、少し手を貸してくれないか?」
「手?」
右手を差し延べると、空中で片膝を付くような姿勢を取るジン。手の甲にそっと口づけをすると、ヴェーリルを見上げて口を開いた。
「我が身、御矛、御盾となる事を誓います、マイマスター。」
宣言が終わるとジンの体が淡く光り、次いで指輪も輝いた。
「・・・さて、これで契約は終了だ。晴れて立派な後継者になったぞ。」
「そ、そうなの。それで、今度は何をすればいいの?」
「そうさなぁ、オレっちの力の使い方でも勉強するか・・・実戦でな!」
ジンが目を見開いた瞬間、とてつもない暴風が発生し、10メートル近く吹き飛ばされる。
何とか体勢を整えてジンに向き直ると、いくつもの竜巻がジンの周りに発生していた。
「改めて自己紹介しよう。オレっちの名前はジン。風使いのジンだ。姐さんの風はちょっとそよ風過ぎるからな、本格的な風を教えてやろう。来たるべき日に備えてな。」
ジンが手を翳すと、竜巻の1つが物凄い速度でこちらへ向かって来る。
エアブラストを駆使しながら何とか避けるが、次々に襲い来る竜巻に防戦一方だ。
「本物の風の威力、先ずは体で覚えるんだな。」
やがて逃げ切れなくなり竜巻を直撃してしまうのは時間の問題だった。
ヴェーリルさんが倒れて数時間が過ぎた。
その間にロスヴァイセさんはロッドの改良をして来ると言って、部屋に閉じこもっている。何でもルーン文字の刻印だけではなく、それの除去まで行えるらしい。本当に腕の良い技術屋だ。
俺はその間特にする事も無く、暢気にレヴァンテインの手入れなんかをしていたわけなんだが。
「ん・・・」
どうやらヴェーリルさんが起きたようだ。
「大丈夫ですか?相当昏睡してましたけど?」
エリクサーをコップに注いで手渡すと、一口一口ゆっくりと、コップ一杯のエリクサーを飲み干した。
「何かあったんですか?」
「何か処の話じゃないわね・・ロスヴァイセちゃんは部屋?」
「はい。ロッドの改良だそうです。」
「隠すような事じゃないし、2人にキチンと話すわ。呼んでくるから待ってて?」
ヴェーリルさんが立ち上がり、軽く柔軟をしながらロスヴァイセさんを呼びに行く。
部屋から出て来たロスヴァイセさんを交えて、それぞれソファーに座りながらヴェーリルさんは自分の身に起こった出来事を話してくれた。
指輪の事。指輪に宿る精霊、ジンの事。そしてジンに鍛えられた事。最後にジンが何度も口に出していた来たるべき日という物の存在について話してくれた。
「・・・何て言うか、スケールが大きな話ですね。」
「そうね。実際に体験したアタシが信じきれていないもの。でもジンの口調は確信めいていたわ。来たるべき日の為に確実な力を付ける。何度もそう言っていたもの。」
「来たるべき日、ですか・・・」
2人が頭を悩ませる。そんな中、俺は1つの考えが頭を過ぎった。
俺は英雄になる為にこの世界にやってきた。
英雄にはそう簡単になれるものではない。
英雄になるにはそれに相応しい活躍をこの世界に残さなければならない。
『英雄』に相応しい活躍を残す事。すなわちこの世界で何等かの偉業を達成しなければならないという事だ。
「・・・あの。」
思案顔の2人に、まだ私見の域を出ないが、俺の考えていた事を話した。
まぁ俺視点から見た、神から言い渡された『英雄にならなきゃいけない』という点ではあるが。
どう受け取るかは予想が付かなかったが、意外にも2人は良い方向に受け取ってくれた。
「成る程ねぇ・・ケイ君はまだそんな事を隠していたか。」
「すいません。変に担がれたりするのが嫌なので黙ってました。」
「ケイさんはやっぱり何かを成し遂げる為にいるんですね・・・凄いです。」
「持ち上げても何も出ないよ?実際はまだまだ駆け出しのクライマーでしかないんだから。」
「ふむ・・・とにかく、ケイ君をこの世界に誘った神っていうのはケイ君をこの世界の英雄にしたいんだ。でも英雄なんてそう簡単になれないんじゃない?実際問題ケイ君より強いクライマーはまだ沢山いるわけだし。」
「それはこれからの課題ですね。パーティーが休みの時は、1人でラグナロクに入るかスキルポイントで地力を上げようと思います。」
「来たるべき日については何か心辺りあるの?」
「・・・これは推測の範囲でしかありませんが、それでもいいのなら。」
「ん、聞くだけ聞いてみる。」
「分かりました。まぁ話半分に聞いて下さい。」
俺は元の世界で一般的に言われている北欧神話の話をかい摘まんで話し出した。
ユグドラシルと呼ばれる宇宙樹、その第1階層に存在する、アースガルズ、ヴァナヘイム、アルフヘイムと呼ばれる3つの世界。
その名はここの世界の街と酷似している。
神話ではその3つの世界が戦争を起こし、最後には全てが滅んでしまった。
奇しくもこの世界でも3つの街は三つ巴状態にあり、このままでは覇権を唱えた戦争が起こるのではないだろうか。
そこは、英雄の登場としては十分過ぎる舞台。その戦争で偉業を達成する事こそが英雄への道なのかも知れない。
「――――という事です。あくまで俺の個人的な私見ですから、確信はそんなに無いですけどね。」
「いや、それは有り得るかも知れない。」
再び思案顔になったヴェーリルさんは、まだ心身の疲れが取れないのか、エリクサーを一口飲んでから口を開いた。
「3つの街の拡大はここ最近激しくなってるの。ケイ君がこっちの世界に現れるほんの少し前からね。それが今では領土が無くなるまでに至ってるわ。いずれ何処かの街が何等かの動きを見せる可能性はありそうではあるわね。」
「それが来たるべき日なんでしょうか?」
「そこまでは分からないわね。ジンも明言はしなかったもの・・・でも、アタシ達パーティーのやる事は決まったわよ?ケイ君をその英雄にしてやろうじゃない。その為に各自の力も鍛えなきゃね。」
何ともハッキリとしない目標ではあるが、とりあえず俺達パーティーは早い所で力を付けなければならないみたいだ。
その為にもまた明日の迷宮入り。気合いが入って来たのは3人一緒だと思う。
サイトの移転を考えてます。
移転を機にここでの執筆活動を終了させるかどうかが1番の悩みです。
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