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2−渡来した世界はファンタジー
その日、アタシは何時もと変わらない朝を迎えていた。

ベッドから起きだし着慣れた真っ白なチュニックに袖を通す。下に履くズボンも白、白色は清廉さを表す、アタシの好きな色だ。


部屋を出てキッチンへと向かう。3年前に母を亡くしてから、家族はいない。食事は自分で作らないといけないのだ。

カリカリに焼いたベーコンとスクランブルエッグ。パンを数枚にミルク。

簡単な朝食だが、手間も掛からないし、1番楽なメニューだ。


朝食の片付けを行うと自室に戻る。仕事の準備だ。

前日きちんと手入れをした特注の鎧と、これまた特注の大鎚、ミョルニル(加治屋命名)。呪印師にルーン文字を刻んで貰ったお陰で雷を発生させる事が出来る、雷神の鎚(自分命名)だ。

この装備を整えるだけで、親の残してくれた遺産とこの3年の稼ぎは無くなった。残っているのは僅かな金とこの家のみ。


だが、今日からまた新しい装備で仕事を始めるのだ。

スイッチをオンにし、仕事モードへと切り替える。


「よしっ!」


気合いを入れて家のドアを開ける。


アタシの目に飛び込んで来たのはいつもと変わらぬ風景の中、真っ黒な服装で剣を握り締めたままアタシん家の前に倒れている、1人の男の子の姿だった。


「君、大丈夫?」


とりあえず揺すり起こしてみるが大した反応は返ってこない。


「ん・・ん・・・」

「行き倒れか何かかなぁ?」


男の子の顔を覗き込む。人の心配など他所に、安眠しているかの様な穏やかな顔だ。


「・・・仕方無い。これも人助けか。」


しばし顔を覗いた後、アタシは彼を家に連れて帰った。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


平たく言って仕舞えば利害の一致だ。

現実世界で退屈な毎日を過ごしていた俺と、神という職業を退屈に過ごしていたジークルーネ。

人間を使って無理矢理英雄譚を紡がせるという、主神オーディンの戯れを利用したお遊びを通じて、お互いの利害を一致させた事で、俺を強制的にこのお遊びに参加させる。参加の選択権が無い代わりは、レヴァンテインという武器と、ドラウプニルというアイテムを渡された事でイーブン。


でも・・・最後の最後まで神だゲームだなんて半信半疑だった。

少々のオママゴトに付き合うつもりだったが、気付いてみたら見知らぬ部屋で見知らぬベッドに寝かされている。此処は何処だ?


「ん?あ、気付いた?」


ベッドの横にある机に向かっていた女性が、読んでいたであろう本を閉じ俺に向き直った。

肌の色が若干茶色く、ショートカットの綺麗な銀髪にアーモンド形のキリッとした目。そして長く尖った耳。

ゲームや小説で見るエルフ、といった印象そのままの女性がそこにいた。


「エルフを見るのがそんなに珍しい?」

「あ、すいません。」

「いいよ、気にしないで。アタシはエルフの中でもダークエルフだから珍しいかもしれないからね。・・・さて、アタシはヴェーリル、ヴェーリル・シグルーン。貴方は?自分の名前分かる?」

「俺は・・慶です。烏丸慶です。」

「カラスマ君?」

「いえ、名前は慶です。慶烏丸になるのかな?」

「分かった、ケイ君ね。さて、どうしてウチの家の前に倒れてたのかな?」

「倒れてた・・・そうですか。看病ありがとうございます。」

「どう致しまして、ってそうじゃなくてさ。大丈夫?ちゃんと記憶ある?」


記憶ならある。光の中を歩いていた所までしっかりと覚えているからな。

ただ、このヴェーリルさんに話していい物かどうか・・・


「もしかして記憶無いの?」

「いえ、記憶はあります。あるにはあるんですが、ちょっと訳ありなんです。」

「ほぅほぅ、訳ありか。でもその訳のお陰で今日アタシは仕事に出掛けられなかった訳よ。それでも話を聞く理由にはならないかな?」


う〜ん、困った。倒れてた俺を助けてくれたり、話をしている感じでは悪い人?エルフ?には感じないんだけど、どうやって話せばいいのだろうか?


「・・・ヴェーリルさん、今から話す事は誰にも言わないって約束出来ますか?」

「お、話してくれる気になったわね。話の内容にもよるけど、いいわ、約束する。」

「じゃあ話しますね。」


俺は俺の記憶について話し始めた。


とある世界に16歳の男がいた。勉強や喧嘩等に毎日明け暮れていたが、何処か退屈に感じてしまう毎日だった。

そんなある日、帰り道で突然意識を失う。気が付いたらそこはジークルーネと名乗る神様がいる場所だった。

男と同じ様に神という職に退屈を感じていたジークルーネは、男に1本の剣、レヴァンテインを渡す。

そして異世界への扉を開き誘った。


英雄を作り出すゲームだ何だという部分は、はしょって話してみた。信じるかどうかは分からないがこれは事実だ。


「成る程ね。嘘を言っている様には見えないし、それがケイ君と言う訳だ。それで?退屈を感じていたケイ君はこの世界で何をするの?」


あら、割と簡単に受け入れられた?俺以外にもそんな存在がいるのか?


「此処の世界はね、力が物を言う世界なの。喧嘩してても退屈なケイ君には丁度良い世界かもよ?もっとも力を生かした職業に就けばだけどね。」

「力を生かした・・・具体的に言うとどんな職業があるんですか?」

「そうね、手っ取り早いのは探索者(クライマー)よ。この世界には数多くの迷宮が存在しているの。その中でもこの町、アースガルズには世界最大の迷宮、ラグナロクがあるわ。毎日何千何万というクライマー達が迷宮に入り、武を磨いているの。かく言うアタシもクライマーよ。」

「クライマーですか・・・」

「勿論クライマーとして身につけた力で、他の職業に就いている人もいるわね。何にせよこの世界ではクライマーが台頭しているから、とりあえずの職業としてクライマーになってみるのは良いんじゃないかな?」


クライマーが台頭している世界という事は、それだけ迷宮に付随する職業が盛んだという事か。

英雄になるという目的を考えたら、クライマーという職業はベストと言えるかも知れないな。


「・・・そうですね。クライマーになります。」

「そう、それじゃあ早速探索者支援組合(クライマーズギルド)に登録しに行きましょうか。」


ベッドから起き出し、ベッドの横に立て掛けられていたレヴァンテインを手に取ると、俺とヴェーリルさんは家を出た。


街を歩くと色んな人を見る事が出来る。人間は当たり前だが、野性的な髪型や顔付きの獣人や翼を持った鳥人、エルフの姿も所々に見られた。

歩いて十数分の場所にクライマーズギルドはあった。


「白壁に赤煉瓦の建物がこの町のクライマーズギルド、通称パレスよ。ここはその第4支部。一応町の主要な建物の1つね。」


建物自体が物凄く大きく、聞けば食堂や酒場も兼ねているんだとか。


「さて、クライマー登録してみましょうか。」


シグルーンさんに促され、窓口にいるエルフの兄ちゃんの方へと歩く。


「いらっしゃいませ、初心者の方ですか?」

「そうです。」

「それではクライマー登録ですね。こちらの用紙に記入をお願いします。」


渡された用紙を見て俺は固まった。


字が読めない・・・

助けを視線でヴェーリルさんに求めてみると、理解してくれたのか俺に質問してヴェーリルさんが書き込むという形態が出来た。


ジークルーネめ、そこら辺は考慮して日本語を共通語にしとけよ。


いくつか質問に答えて用紙が完成すると金貨を1枚渡された。


「登録には料金として1000ソル必要なんだ。行っておいで?」


言われるがままに窓口に金貨と用紙を持って行く。


「はい、ケイ・カラスマ様ですね?少々お待ち下さい。」


カタカタとパソコンの様な機械のキーボードを打ち始めるエルフの兄ちゃん。

しかし言葉は通じても文字の読み書きが出来ないのは痛いな。此処の世界の金銭感覚も身についていない。これは早急に手を打たないと。


「お待たせ致しました。それでは登録料としまして、1000ソルになります。」


ヴェーリルさんから渡された金貨を提示する。金貨と交換するような形でカードを渡された。


「こちらがクライマーのライセンスカードになります。ライセンスカードにはそのクライマーの情報が詰まっていますので紛失などにはお気を付け下さい。また、パレスの中のサービスはこのライセンスを提示するだけで半額となります。町にもこのライセンスカードを提示するだけで割引や無料になるサービスもありますので、詳しくはこのパンフレットをご覧下さい。」


銅版のカードと一緒に、町の案内図だろうか、1冊のパンフレットを渡される。これも暇を見付けて見て回るか。


「それではあちら、鑑定と書かれた部屋へお進み下さい。」


鑑定の文字は分からなかったが、手で示された方向に部屋は1つしか無かったので迷う事は無かった。

数人の行列に列び、俺の番がやってきた。

部屋の中に入ると何やら大きな機械がデンと部屋の半分以上を占めていた。


「ライセンスの提示をお願いします。」


この女の人は人間か。多種多様な亜人ばっかり見ていると、逆に人間が新鮮に見えてくる。

そんな事を考えながらライセンスを手渡す。


「はい、初回の鑑定ですね?それでは鑑定についてご説明させて頂きます。こちらの部屋で行われる鑑定は、10日間に1度の鑑定がクライマーに義務化されています。本日の鑑定が1回目となりますので、次は最低でも10日以内にいらして下さい。それでは始めましょうか。腕をこちらへお願いします。」


病院で見掛ける腕を通す血圧計の大型版に腕を通す。すると機械がピピピと音を立て始め、目の前の電子盤に色々な文字が浮かび上がっては消えていった。針で刺したかの様なチクッとした痛みがあったが、それ以外は何も無かった。


「肉体レベルは5、魔術レベルは3、総合レベルで4ですか・・・初回の鑑定にしてはやけにレベルが高いですね・・・まぁ許容範囲内です。はい、よろしいですよ。」


電子盤から文字が消えたのを合図に腕を抜く。


「これで鑑定は終了です。お疲れ様でした。」


ライセンスカードを手渡され、部屋の外へと促される。すると、待ち構えていたかの様にヴェーリルさんがドアの外で壁に寄り掛かっていた。


「お待たせしました。」

「ん、お疲れさま。立ち話も何だし、お昼も過ぎてるわ。上でご飯でも食べながら話しましょうか。」


ヴェーリルさんの後を着いて階上の食堂へと向かった。
ミョルニルというのは雷神トールの持つ鎚としても有名な北欧神話最強の鎚ですね。一撃で死ななかったのは世界蛇ヨルムンガンドぐらいだそうです。

ヨルムンガンドはロキの息子の1匹だそうですが、、、

友として行動した事もあるロキの息子に戦いを挑むなんて、北欧神話ってのはどんな神話なんでしょうか?


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