「ねえ、蘭。
蘭は、工藤君が、探偵だって事、イヤじゃないの?」
部活の帰りがけ、園子が聞いた。
「え?どうしたの?いきなり」
「だってさ、あ奴、未だに帰ってこないじゃない。
いくら厄介な事件を抱えてるからって・・・」
言いよどむ園子を見て蘭は、ふと感じた事を口に出した。
「園子、京極さんと何かあったの?」
蘭に問われて、園子は、顔を赤くした。
「ううん。別に、何もないんだけど。
けどね・・・。
何もなさ過ぎるって言うか・・・。
そもそも、日本にいないんだから、まあどうしようもないんだし、
試合も近いから・・・」
(また連絡がなくなったのだ)
蘭はそう思った。
「でも、園子は、京極さんが、空手を捨ててまで、自分の側にいて欲しいと思う?」
園子の答えまで、しばらく時間があった。
「それは、思わない。
だって、勝って電話くれる時の京極さんって、ホントにうれしそうなんだもの。
私まで、試合に勝った気分になっちゃうわ」
蘭は、園子に微笑みかけた。
「私も同じ。
新一が事件を解いたときの顔って、いい感じなのよね」
「確かに。私から見てもね。
何かに打ち込んでる男って、罪よね。
でも、お互いそんな奴を好きになっちゃたんだから
どうしようもないわ」
あきらめを、明るい口調に載せて、園子は言った。
蘭は少しの間、黙っていた。
そして、内緒話をするように園子に話し掛けた。
「実はね、園子。
私が新一が探偵でよかったな、って思うのは
別の理由もあるのよ」
園子は、不思議そうに聞いた。
「何?別の理由って」
蘭は遠くを見つめるまなざしをした。
「私と新一がまだ幼稚園だった頃ね、
近所にまだ大きな柿の木がある家があったの。
その柿が欲しくって、新一にねだって盗ってもらったのよ。
でも、家の人に見つかって、怒られて。
私は怖くて何も言えずにいたら、
新一が、
『自分が盗ろうと思った。蘭は止めようとした』
って言い張ってくれたの。
で、家の人を呼ばれて、たまたまお父さんが非番だったから、
お父さんとお母さんが、やって来て・・・。
新一の嘘は、うちのお父さんには、すぐばれたの。
あの頃まだお父さん刑事だったでしょ。
新一を怒らないで、私の方を、すごく怒ったわ
『刑事の父を持つ子が、盗みなんかしていいのか!』
お母さんからは、
『正直に自分の罪を言ってない!』
ってしかられるし」
「工藤君は?」
「『私が、柿を取ってくれ、って頼んだんだから、新一が悪い事ない』、って
私は、新一のご両親が新一を迎えに来た時に謝ったの。
新一はその場では怒られなかったんだけど。
でも、私、心配になったの。
新一、家に戻ってからすごく怒られてるんじゃないかって。
だから、こっそり新一の家まで行って、
そっと窓の外から家の中を覗いてみたの。
そしたら、新一は、やっぱり、二人かがりで怒られてたわ。
でもね、その内容がうちとは全然違うの。
『大体、推理小説作家の息子なら、あのくらいのことを
なぜ完全犯罪に出来ないんだ!
私なら、100通りのやり方で完全犯罪を思いつくぞ!』
とおじ様が怒れば、
『そうよ、新ちゃん。
それに、この私の息子ならもっと演技力を見せてみなさいよ。
同じ嘘つくんなら、
"病気で幾ばくもない母親が、ここの柿を一口欲しがってる"
位の嘘ついてごらんなさいよ』
と、おばさまが嘆くの。
新一がそれを聞いて、
『母さん、そんな白々しい嘘、誰も信じやしねえよ』
『だから、あなたはダメなの。
私なら、どんな無茶な設定のお話でも、
あらゆる賞を総なめにしたこの演技力で皆に信じさせる自信があるわ』」
「うわ〜。でも、工藤君のお母さんなら、出来そう」
「私も、そう思うわ。
で、私は考えたの。
新一の御両親はいい方たちだけど、
新一は、この二人の下で正しい道を歩めるんだろうか、って」
「う〜ん。
工藤君の御両親は、ややアバンギャルドな発想を要求される職業だから
蘭の心配も、もっともね」
「アバンギャルドって、園子。微妙に違うんじゃあ。
でも、確かに、常識に囚われない発想は必要よね。
だから、私、新一が、法律とか無視するようになって、
泥棒とか、詐欺師になってお父さんに捕まったらどうしよう。
ってそれから、しばらく心配してたの」
「確かに、あれだけ語れる工藤君なら
今からでも、すごい結婚詐欺師になれそう」
「園子〜」
「ごめん、蘭」
「だから、一人で、待つ時間がいくら長くっても
新一が探偵になってくれてよかったって、本当に思うのよ」
「確かに、犯罪者よりはましよね」
園子が笑った。
蘭もつられて笑った。
ふと、蘭は自分の名を呼ぶ声に立ち止まった。
園子も振り返る。
「おや、あのガキンちょ。
こんな遅くまで遊び歩いてたのね」
コナンが、二人に、追いつこうと走って来た。
息を切らしながら追いついた、コナンは聞く。
「楽しそうだったね、何の話をしていたの?」
「別に」
と少し頬を赤らめながら言う蘭をからかうように、園子が言った。
「おのろけ、聞かされてたの。
蘭は、どんなに待たされても、工藤君が探偵になって本当に
よかったんだってさ。
と、おや?どうして君がそんなにうれしそうなのかな?コナン君」
慌てたようにコナンは言った。
「だって、僕も、新一兄ちゃん大好きだもん」
「君も、まっとうな道を歩むんだぞ、少年」
なぜそんなことをいきなり園子が言ったのか分からないままコナンは
子供らしく元気に返事をした。
「うん」
そして、何も知らないコナンは、幸せな気分で、家路を急いだのであった。
(終り)
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