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水乙女
作:中華


老人が森の中で、広い湖を見て佇んでいた。
その視線の先、湖の中央で美しい娘が優雅に踊っていた。
「私を見て」
娘が老人に言うと、老人が笑って頷いた。
「ずっと見ているよ。君は、出会った時から変わらないね」
二人が出会ったのは、老人がまだ子どもの頃。
老人は小さい頃からバイオリンが得意で、
一人で森へ行ってはお気に入りの湖のほとりでよくバイオリンを弾いていた。
ある時、バイオリンを弾いていると水の中から綺麗な女が彼を見ていた。
湖には昔から幽霊と精霊の伝説があった。
「−−−−」
娘が、老人に何か言ったようだった。
「ん?何て言ったんだい?もう耳が遠いんだ」
「あなたも、まだ踊れるわって言ったの」
トン、トン、トン…
彼女が水の上で軽やかにステップを踏む度に波紋が広がっては消えて行く。
踊り続けながら娘が言う
「私の心はずっと幸福だわ、貴方が幸せに生きて、死ぬお陰でね」
彼女は水乙女と言われる水の精霊だった。
「欲を言えば、もう一度あなたの人生が戻って来たらいいのにね…」
娘が寂しそうに言う。
「ありがとう」
「これが最後よ、私を見て」
「あぁ」
頷いて娘を見た瞬間。
「そろそろ時間だ」
後ろから声がした。振り返ると、病気で死んだ親友だった。
彼の体には白い翼が生えている。
「迎えが来た…貴方が愛した人達…家族の元へ戻りなさい。
最後のお別れを言って、安らかにお逝きなさい。運がよければまた会えるわ」
老人は頷いた。
「さぁ早く!」
友が再び叫ぶ。
「今行く」
彼女の方へ振り返る事はせず、親友の元へ駆け寄った。
「急げ、時間はそんなに無いぞ」
二人の姿はその場から消えた。
娘は、さっきまで老人がいた場所にそっと呟いた。
「いいわね、人間には魂があって…」
水乙女には魂が無い。魂を持つ為には愛を持たなくてはならないがそれも無い。
だから、生まれて最初に出会った人間の心に自らの心の一部を同化させ、
一生を見守り続ける事で愛を覚える。
その人間が愛を知らない冷たい人間として一生を終えたら水乙女の体は凍りつき、石となり、
粉々に砕けて消えてしまう。
娘は老人がいよいよ天国に迎えられるのが分かり、泣きながら彼の為に祈った。
涙を流すのはこの時が初めてだった。
「あぁ、ありがとう…私の中にちゃんと愛がある…これが愛…」
たちまち娘の体に白く美しい翼が生え、娘は嬉しそうに天へ高く高くのぼっていった。














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