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第3話 抜き打ち試験(3)
 青空の下、魔法大学附属高等学校に建てられたとあるコンクリート造りの建物の屋上。そこに立って無表情に
下の様子を見下ろす1人の少年がいる。黒い上着にベージュのズボンというスタイル、屋上の強風にサラリと
流れる髪型や、氷のような鋭さを湛えたその顔は、容姿端麗と言うより冷徹と言った方がはるかに正確だった。


 彼は何を口にするでもなく、何か動くでもなく、ただ淡々と下の光景を見つめている。いや、ひょっとしたら
その目は下の光景さえ見ていないのかもしれない。ただそれが思考を邪魔しないために最も優れた行動であるから、
しているだけなのかもしれないのだ。


「さて、旦那。そろそろ行きましょうぜ」


 そんな人を寄せ付ける気配の無い少年に、後ろから思いのほか気軽な口調で声がかかった。


「珍しいですね、旦那が自分からこういう競技に参加されるとは」


 声をかけたのは、屋上のほぼ真ん中に腕組みをして立っていた人影であった。耳や眉、首筋の上辺りで切った
その髪形に、楕円形の縁無しメガネ。体型は全般的に細く、お世辞にも筋骨隆々とは言いがたい。ただ眉を下げて
笑みを含ませたその顔立ちからは、どこと無く人を食ったような余裕たっぷりの態度が見える。


 そして一番変わっていたのはその服装であった。長袖のシャツと黒っぽいズボンの上には、なんと医者や
科学者の着る白衣をまとっていた。白衣の胸や両サイドについたポケットからは、なにやらガラスや金属、
コルク栓といった怪しげなものが見え隠れしている。


 そんな彼の言葉にも、「旦那」と呼ばれた方の少年は相変わらず地上を見下ろしたままだった。ただ、耳だけは
しっかりと傾けているらしく、相手の質問には意外に感情のこもった答えを返す。


「分かってるだろ? 別にやりたくてやってる訳じゃないし、本当ならすぐ失格になりたかったんだ。
 ただ・・・・・・」


 少年は心底うんざりといった風に眉をひそめた。


「あの学園長が、色々とうるさかったんだよ」


 そんな愚痴を聞いた白衣の少年は、「まあまあ」と相手をなだめにかかる。


「ま、どうせやるなら楽しくやりましょうや。オイラと旦那なら負けは無いでしょうし、旦那が目に見える魔法を
 使う事なんてそうそう無いですよ」


 そう言って白衣の少年はヘラヘラと笑う。相変わらず人を馬鹿にしたその口調は、他の誰かが聞いていれば間違いなく
不快に思っただろう。彼自身もそのことには気付いていたが、別に今なんと言おうが自由だ、と思っているのか気に留めた
様子1つ見せない。


「オイラも弱いものいじめは嫌いですけど、この手のゲームは大好きなんでね。まっ、適当に歩いて、さっさと他のチームを
 見つけて、サクサク倒していきましょう」


「悪趣味だぞ、佑。そんな下らない事に魔法を使うのは好きじゃない」


 伊織と呼ばれた少年は、怪訝そうな表情で白衣の少年をとがめた。だが肝心の白衣の少年はどこ吹く風といったところ。
笑みを崩さずに軽々しく話を続けた。


「へへっ、まあ気にせず行きましょう。とりあえず、校舎の方に戻ってみますか?」


「お前に任せるよ、薬生 佑〈くすき ゆう〉」


「ありがたい。じゃあ、適当に行きますか、天城 伊織〈てんじょう いおり〉さん?」


 祐の言葉を合図に、2人はその場から歩き出した。ここは屋上、ひとまず地上に降りなければならない。しかし、2人の
向かう先はドアの先にある階段では無い。その代わり、2、3歩動いたところで彼らはコンクリートのタイルを蹴り、
大きく宙に飛び出した。スローモーションで飛ぶ大砲の玉のように、2人の体は楽々フェンスを飛び越えて高度を
少しずつ落とし、やがて地上へと落下していく。


 普通に考えれば、ビルの10階に匹敵する屋上から落ちては命の保障などあるはずが無い。だが、2人はそれを
まるで意に介さず、地面との距離が猛スピードで近づくのにも涼しい顔をしている。そして、次の瞬間に2人の体は
地面に接触していた。怪我一つ無く、まるで階段を一段分だけ飛び降りたといった様子で、である。彼らは何事も
無かったかのように、両側の街路樹が木陰を作る太い舗装路を歩き始めた。


「たまにはゆっくりお散歩も悪くないですね」


「ああ。これで魔法の戦闘ごっこさえやらなくていいなら、最高なんだがな・・・・・・」


 視線を空にやりながら、伊織は恨みがましそうに愚痴をこぼした。そんな彼の心底つまらなさそうな様子を見た祐は、
「そう言わないで下さいよ」と伊織に相槌を入れつつ彼の気分を変えようとする。


「相手が出たら出たでオイラが遊んでやりますよ。旦那は自分が怪我しないよう、気をつけててください」


「悪いな佑。少しなら俺もやろうか?」


「まあ、それなりの相手に会ったらお願いしますよ」


 会話をしながら歩き続ける伊織と佑。だが先ほどからのんきに歩いているこの2人には、おかしな点がいくつもあった。
まず第一に、1人とも魔法を使うこの学校の生徒には必須と言うべき「介具」を持っていない。他の生徒がほぼ例外なく
何らかの介具を持ち歩く中、彼らは手にも腰にも背中にも、体中どこにもそれらしきものが見当たらないのだ。


 それだけではない。今は魔法の実戦試験中であり、他の生徒たちは警戒をしている真っ最中である。本来なら時々
立ち止まって、辺りの気配をうかがったり、魔法を放つ介具や腕を構えたりといった行動があるはずだ。少なくとも、
周りの様子を常に見渡しておくくらいのことはしているはずである。


 にも関わらず、彼ら2人の行動には警戒心の欠片も無い。表情にあまり変化を見せず前を向きっぱなしの伊織などは
まだマシな方だ。前を歩く佑に至っては、欠伸はするは、空は見上げてるは、と自分の目の前さえまともに見ているかさえ
怪しい節があった。


 そして最大の謎は、そこまで無防備な2人が一向に敵チームの出現を恐れていないということ。伊織にしろ佑にしろ、
その表情に一切の不安や恐怖が見られない。


 こんな奇妙な2人連れが歩いているのは、学校の校舎に続くいくつかの道の一つだった。周囲を街路樹や建物に囲まれ、
周りからはそれなりに隠されていたものの、決して人通りの少ない場所ではない。


 そしてそれは、試験中の今もまた例外ではないのだ。


「あの機械からか?」


 異変に気付いたのは伊織の方だった。耳に入ってきた電子音に気が付くと、何気なくポケットにあった機械を取り出し、
それに目をやる。そんな伊織に、佑は振り返らないままで「どうしました?」と声だけを向けた。


「他の生徒らしいぞ。人数はわからないけど、3人か4人だな。10分のカウントが始まってる」


「ほう、思ったより早く会っちゃいましたね。それと向こうは、3人みたいですよ」


 伊織の手にした機械の画面は、敵が近くにいることを示している。だが、2人の歩みは止まらない。それどころか、
遅くなりさえしない。それまでと変わらないペースで進みながら、2人は楽しそうにおしゃべりを続けた。


「お前の事だ。どうせさっきから『見えて』いたんだろ?」


「まあ、ちょっと考え事してましてね。旦那が気が付く10秒くらい前って所ですよ」


「向こうの様子はどうだ? こっちに気付いているか?」


「いえ、正確な位置はまだ分かってないみたいですね。2つ次の角、右側からゆっくり歩いてきますよ」


 伊織の質問に平然と答える佑。だがそんな彼には一つ、先ほどまでと違っている箇所があった。それは、両目の色。
伊織や他の人々と同じく黒と茶色の塗られた黒目の部分が、今はトルコ石のように白みがかった青色へと変わっていたのである。
それがいつ起きたのかは、誰にも分からない。ただ何の前触れも無く、佑の目は青に染まっていたのだ。


「どうすんだ? ここに止まって向こうが来るのを待とうか?」


「いえ、こっちから出向いてやりましょうよ。どうせ結果は同じでしょうし。面倒な事は早いうちに済ませたいでしょ?」


「まあ、お前がいいならそれでもいいさ。次の角を右か?」


「そうです。一応オイラが止めますけど、旦那に来た向こうの魔法は適当に捌いてくださいね」


 佑の言葉に伊織は「分かった」と短く答え、会話は一旦中止される。歩みを止めることなく、そのまま目的の曲がり角に
歩いていく伊織と佑の2人。彼らはご丁寧に道の真ん中辺りまで直進した上、そこでゆっくりと曲がる。ちなみに、2人が
曲がり角に差し掛かった辺りからなにやら20メートルほど向こうが騒ぎだしたが、特に気にも留めなかった。


 伊織と佑が道を曲がり数歩ほど歩いた時、向こう側の声が「お、おいっ! 止まれ!」と叫ぶ。そこで初めて、2人は
その歩みを止め、声のするほうに視線を向かわせた。


「ほう、男子3人ですか。まあ、下手に女子と戦って金切り声聞くよりマシ、ですかね」


 自分にしか聞こえないほどの声で、軽く呟く佑。その目前には、この学校の生徒である3人の少年が並んでいた。1人は
歯を食いしばって手に持った剣を2人に構えており、2人目は手にした木製の杖を2人に向けている。そしてもう1人は、
刃の先から石突の部分まで同じ金属でできた長い槍を小脇に抱えつつ、2人に向かって右手の平を突き出すように構えていた。
その槍を持った少年が、なにやら上ずった声で呼びかけてくる。


「ど、どうやら君たちが戦うべき相手みたいだな!」


「そうだな。あまり戦いたくは無いが」


 冷静な、と言うよりこれから戦うという事を意に介していないような口調で、伊織が言葉を返す。その反応を不気味に
思いながらも、槍の少年はなお声を発してきた。


「分かってるとは思うが、人数で言えば3対2で君たちが不利だ! それに僕たちは、ついさっき君たちと同じ
 2人組に勝ってきた! そ、そんな余裕でいいのか!?」


 威勢よく言葉を続ける槍の少年だが、相手は少しも表情を変えないことに動揺したのか所々で言葉に詰まる。この3人、
たまたま校舎の職員室を見学している時に放送を聴き、そのままチームとなって行動を共にしていた。そして、つい先ほど
女子の2人組と戦い、それなりに余裕を持ったまま勝利を収めてきたところでもある。数で有利だった上、魔法の実力も
若干ではあるが彼らが勝っていた。その上少し戦って相手にこちらの攻撃が通り始めると、怖気づいた相手がさっさと
降参して、自分たちから失格になったのである。


 そんな経緯から、3人はちょっとした自信を持ち始めていた。クラスも違う3人は先ほど競技が始まるまでは言葉も
交わしていなかったが、いざ一緒に戦ってみると魔法と近接戦闘のバランスが取れており、意外と息が合っていたのだ。
ゆえにこれから他のチームと出会うことがあっても、前の戦いと同じようにあっさり勝てるだろうと高をくくっていた。


 しかし、3人の目の前に現れた相手は、彼らの想像のはるか斜め上を行っている。介具も無ければ、魔法の詠唱も
準備していない。それどころか周囲を警戒しながら歩いている様子さえない。しばらくはそんな彼らに度肝を抜かれていた
彼らも、ようやく落ち着きを取り戻し、まずは目の前の2人に降参を勧めてやることにしたのだ。


「ま、まず警告しておく! 今ここで君たちの機械のボタンを押して、失格になってはどうだ? 俺たちも無理に
 戦う気は無いし、そっちもたかが購買の金権で怪我はしたくないだろう?」


「ええ、怪我なんてしませんよ。どっちにしろ、ね」


 全く余裕を崩さない佑の言葉に、3人の中で剣を構えた少年がしびれを切らしたように「おい!」と声を上げた。


「向こうが降参しないなら、さっさとやっちまおうぜ! 最初から戦うのが試験なんだからよ!」


 剣を構えなおし、今にも飛び掛ってきそうな体制になる剣の少年。どうやら彼は血の気が多い性格のようだ。次いで
彼の横で杖を構えていた3人目の少年も、それに同調してリーダー格の槍の少年に迫る。


「交渉はもう少し戦ってからでもいいんじゃないか? さっきもそうだったしな」


「わ、分かったよ! じゃあ、作戦通り、お前が時間を稼いでくれ! 俺たち2人は、その間に詠唱を済ませる」


 2人に急かされた槍の少年は、しぶしぶといった口調で2人に指示を出した。その言葉で、3人が一斉に動き出す。


「任しとけよ! ぼやぼや詠唱してたら、介具も持ってねぇやつらなんて俺だけで片付けちまうぞ!」


 そう言うが早いや、少年は剣を体の中心に構え、2人に向かって剣先を先頭に突進した。魔法を使って全身の力を
増したその走りは、加速度が普通の人間より明らかに速い。一方、その場に留まった槍と杖の2人は、なにやら目を
閉じてぶつぶつと言葉を暗誦し始めた。


 その様子をじっと見ていた伊織は、前に立っている佑に向かってこう切り出す。


「手伝うか?」


「いえいえ。旦那の手を煩わせる事はありませんよ。まあ、少しは向こうのやりたい様にさせてみますんで、適当に
 逃げてりゃ十分です」


「悪いな。任せたぞ、佑」


「へいへい。頑張りますよっと」


 2人が会話を終えたときには、もはや剣を構えた相手が後5メートルほどまで距離を詰めていた。剣を振り上げる事も、
横に振りためる事も無く、ただその切っ先に速度と加速の全てを集めた突きの一撃。佑の体の中心目がけて、高速の剣先が
迫っていたのだ。


「喰らえっ!」


 だが、剣が体に迫るかと思われた瞬間、佑は自分の右半身を引き寄せて、反対の左半身を斜め前に思い切り突き出した。
結果として、佑の全身は右を向いた状態で元いた位置より大きく左にずれることとなる。その目の前を、高速の突きとそれに
まとわりついた風がすり抜けていった。


 一撃をすんなりと避けられた剣の少年だったが、なぜか突きのスピードを殺して向き直ろうとはしない。それどころか更に
加速を続け、佑の後ろに走りこんでいく。一瞬後ろにいた伊織に突っ込むのかとも思えたが、彼は伊織に剣さえ向けず、
そのまま2人の20メートルほど後ろにまで駆けていった。


「攻撃がまるで直線じゃないですか。もっとゆっくり攻めないと、ただの一撃じゃ簡単にかわされますぜ」


 離れた敵にアドバイスを送った佑に、敵の少年はニヤリと笑いながら言い放つ。


「まずお前の後ろを見てみな! 話はそれからだ」


「後ろ?」


 言われたとおりに佑が目線をずらすと、そこには先ほどの2人が杖と槍をかざしていた。ただ先ほどと違ったのは、
その杖先はオレンジ色に、槍先は緑色に染まっていたということである。杖先の色は光のようにも見えたが、それより
真っ赤に熱された鉄の色、とでも行った方が近いだろう。一方の槍は、一見するとその先端に草の色が反射したようにしか
見えないほどだったが、良く見ると確かにそれが光の反射などではなく、薄い薄緑色に染まった何かである。

 
「おやおや、これまたずいぶんとやる気ですねぇ」


「よしっ! ぶっ放せっ!」


 佑の含み笑いから来る不気味さをかき消すように、槍を持った少年が威勢よく声をかけた。直後、オレンジと薄緑の
空間がはじけるように拡散する。杖の先のオレンジ色からは一筋の炎が、槍先からは強烈な風が噴き出した。間欠泉を
思わせる猛烈な勢いで噴き出した炎に、爆風を思わせる強風が絡み合って赤色の爆炎となり、佑、そしてその先にいる
伊織をも包み込む。


 爆炎は多少の狙いなど無視して伊織と佑に襲い掛かり、2人は瞬時に炎の中へと飲み込まれていった。2人を巻き込んで
なお炎は勢いを止めず、彼らのいた場所を中心に地面からゴウゴウと燃え盛っている。


 その勢いに、風を放った槍の少年は弱気になっていた。敵に怪我をさせないことはこの競技の絶対原則である。
先ほどの戦いではあまり本気を出さないうちに向こうが降参してくれたから良かったものの、今の魔法は相手の
不気味さに思わず全力で放ってしまった。


「お、おい、まさかあの中で大やけどなんて事はないだろうな?」


「大丈夫だ。俺たちが派手にやっても、ある程度までダメージが行けば学校の安全装置が自動で何とかしてくれる」


「そ、そうだな。さすがにこの程度なら、まだだ・・・・・・」


 「大丈夫だろ」と言いかけて、彼の声が止まった。


「大丈夫ですかい? 旦那」


 いきなり、周囲の空気と燃料を奪われたかのように炎が消え去る。そこにいたのは、着ていた白衣も、
両手をポケットに突っ込んだ体制も、含み笑いの表情さえ、何一つ炎に包まれる前と変わらない佑の姿。そのすぐ後に、
上から地面に音も無くスタリと着地した伊織の姿だった。


「狙われたのはそっちだろ? かわさなくて良かったのか?」


「まあ、面倒だったんでね。こいつで消しましたよ」


 そう言って、彼は自分の目を指差した。パッと見ただけでは普通の人間と同じ、白と黒の瞳。だが良く見ると、その色は
まったく普通ではない。真ん中の黒目も周りの虹彩も無い。まるでインクを垂らされたように漆黒の黒目があった。


「う、嘘だろ。詠唱も無しにあれを消すなんて、そんな・・・・・・」


 2人分の魔法。それも詠唱を込めて本気で放った魔法のコンボが何の詠唱も無しにかき消された。そんな事ができるのは、
それこそプロの魔法家でも一流に属するレベルの人間だけである。いくら魔法に秀でたこの学校の生徒でも、それは無理、の
はずだった。


「さぁ〜て、今度はオイラの番ですね」


 だが、佑はそれを成し遂げてしまった。しかも、ちょっとした魔法を使うかのように、さも簡単に、である。


「こ、こいつ。なんなんだ・・・・・・」


 その場に固まる2人を尻目に、佑は先ほど最初の攻撃を行なった剣の少年の方に体を向けた。その瞳の色は、
漆黒から光を反射する金属光沢に変わる。まるで鉄のコンタクトレンズを入れたような、不思議な色合いの瞳。


「さて、旦那。最後の仕上げはお願いしますぜ」


「分かった。しばらく頼むぞ」


 そう言って、伊織は剣の少年にゆっくりと近づいていく。だが、剣の少年とてもう戦意を失っている訳ではない。
ここまで余裕を見せられ、そのまま食い下がっては自分たちのプライドが許さないのだ。剣を構えなおし、今度は
丸腰の伊織に狙いを変えて一太刀浴びせようと地面を蹴りだした、はずだった。


 だが、そこまでだった。やや前かがみに剣を構えたままで、少年は伊織がいくら近づこうとも一向に動く事が
できない。それどころか、声を発する事さえ許されない。まるでその場に時を止められたようなその様子に、
槍の少年が怒鳴り声を上げる。


「な、何やってるんだ! 早く斬れ! 相手は介具も持ってないんだぞ!」


 だが、その声にさえ剣の少年は何一つ反応を示さない。ただ1点を見つめて立ち尽くす彼は、もはや
恐怖だけに心を奪われていた。


(ひぃ、た、助けてくれ・・・・・・ 体が、言う事を聞かないんだ!)


 剣の少年の心の叫びむなしく、どんなに力を入れようと、逆にどんなに力を抜こうとその体は動かなかった。
伊織はそんな彼に何の表情も見せないままで、ただ淡々と近づく。目の前まで来て、伊織は彼の羽織ったジャンバーの
ポケットに手を差し入れ、すぐに引き戻した。その手には、なにやら液晶画面のついた機械が握られている。


「悪く思うななんて言えないけどな、こっちも別に悪いとは思ってないさ」


 そう言って、伊織は機械の後ろについた大き目のボタンを指で押した。同時に、剣の少年はやっと体の自由を
取り戻す。だが恐怖に震えたその体は伊織に剣を振り上げるどころか、そのまま崩れ落ちていく自分自身を支える
ことさえできなかった。少年はその場に音も無くひざを突き、しばしの間をおいてカランと剣が少年の手から地面に
落ちる音が響いた。


「旦那、もう行きましょうぜ。あんまりぼやぼやしてると野次馬が来ちゃいますからね」


「ああ。そうだな」


 伊織と佑は振り返り、何事も無かったかのようにその場を離れようとする。圧倒的な力を見せ付けた彼ら。
その後ろから、先ほどの槍少年がもはやパニック気味の口調で叫びかけた。


「お、お前たちは、何なんだ!? 何を使ったんだ!? どうして俺たちの攻撃をあんな簡単に潰せた!?」


 訳のわからないものに対する恐れ。それをかき消そうと必死に問いかける少年に、佑が白衣の汚れをポンポンと
手で払いながら答えた。


「ご心配なく。あなた方と同じ、この学校の新入生ですよ」


 そう言って佑は軽く振り返り「ご迷惑をおかけしました」と会釈する。3人を見据えたその目は、すでに何の変哲も
無いただの瞳へと戻っていたのが、彼らにそんな事を気にかける余裕など無かったのは言うまでも無い。

やっと更新終わりました! 今回の更新を持って、予告編は全て終了となります。中途半端な作品に付き合っていただけた皆様、本当にありがとうございました!

今回は主人公登場、そして初のバトルシーンです。正直こういうのは初めてなので上手く書けたかどうか・・・・・・ 文章力の低さに改めて反省です。

この作品の本連載は、夏からということになります。今から連載を開始しても良かったのですが、これから夏までちょっとした用事で執筆に時間があまり割けなくなってしまうので、もう少々時間をいただきたく思います。

この作品に感想を書いていただいた皆様、本当にありがとうございました!もちろんこれからの感想もお待ちしておりますので、是非お願いいたします!


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