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作:紅雫



雫−16:『イヴ』


−古城地下1階−
そこは赤い煉瓦の壁で包まれている部屋。天井も壁と同じく赤い部屋。そこに三人の人影が立っていた。
一人は全身を漆黒の衣を纏い、眼をその衣と同じ色の布で隠している。
そしてその隣にいる女性はその青年とは反対に純白の衣を纏っている。
女性の右手には両刃の剣が握られていた。
そして青年は左手に片刃の刀を握っていた。
二人とも沈黙したまま、ただ眼の前にある赤い煉瓦の瓦礫を静かに見ていた。
気を緩ませずただ、じっと・・・
「ふふふ・・・流石の“彼”でもこれだけやられればひとたまりもありませんね」
二人の後ろから笑い声と共に黒衣こくいを着た眼鏡を掛けた男性が歩いて来た。
「・・・」
「・・・」
二人はその男の声を無視し、ただ瓦礫を見つめている。
「では、器を破壊し中の物を頂きますか・・・シャムハザイ、ミトラス、やりなさい・・・」
男は、漆黒の衣を纏った青年、シャムハザイ、純白の衣を纏った女性、ミトラスに命令した。
だが・・・
「・・・“これ”を終わらせれば本当に“彼女”を自由にするんだよな?」
シャムハザイは刀で瓦礫を指し黒衣の男、クレックに聞いた。
「えぇ、分かっていますよ・・・」
クレックは眼鏡をかけ直しながら答えた。
「本当に?」
今度はミトラスがクレックに聞いた。
そして剣を前に突き出した。
だがミトラスはシャムハザイとは違いクレックの方へ振り向きクレックに刃を突き出していた。
「もし、反故ほごにでもしてみなさい・・・私は貴方の首をハネますよ?」
ミトラスは憎しみの言葉をクレックに向かって吐き出す。
「分かってますから、早くあれを壊して下さい」
クレックは怪しい笑みを浮かべながら煉瓦の瓦礫を指さした。
「・・・」
ミトラスはクレックに向けた刃を下ろし向き直る。
そして瓦礫に近づいた。
クレックはそんな彼女をただじっと見つめていた。
“ふん、聖霊風情が生意気なんですよ・・・あのは僕の最高傑作!そしてあの方に献上するモノ、自由などあの娘にはありませんよ・・・それに仮に僕に危害を加えるものならばあの娘を盾にすれば良いだけですしね・・・”
クレックは最初から約束を守る気は無かった。
そんなことは知らずミトラスは瓦礫に刃を向けていた。
“これで“あの娘”は自由に・・・”
ミトラスは瓦礫に向かって刃を振り下ろした。
バキンッ
瓦礫は粉々に砕け破片が虚しく散った。
だが、“中身”は砕けていなかった。
中にいた“少女”はミトラスの剣を白木造りの鞘で受け止めていた。
「貴女は・・・くっ!」
ミトラスは少女に問おうとしたが少女はそんな事を無視し、鞘から刀を抜刀しミトラスに切り掛かった。
ミトラスはそれをのけ反るような体制でかわしそしてバックステップし、距離を取った。
少女はそんな彼女を無視し、刀を鞘に納める。
刀は全て白木造りで出来ていた。つばはなくシンプルな形をしていた。
そして少女の姿は袴を着た巫女のような姿をしていた。
髪は漆黒で腰ぐらいまで伸びていた。
少女はその髪を首辺りの所から白い紐で結んでいた。

いきなりの少女の出現に全員に沈黙が走った。
少女はそんなことはお構いなしに口を開いた。
「久しぶりね?シャム、ミトラス、一体何年振りかしら?」
少女はクスッと笑い二人の聖霊に聞いた。
「クッ、まさかもう出られるとは思ってもみなかっぞ?・・・イヴ」
シャムハザイは舌打ちしながら少女イヴを見つめた。(シャムハザイは眼隠しをしていた為この場合イヴの方を向いたが正しい)
「私はただ誰かさんの性で死ぬなんて御免だからでてきたの」
イヴはそう言って姿勢を低くし、刀の柄を右手で握り左手で鞘を持って構えた。
「素晴らしい!!あれが時の巫女イヴですね!さぁお前達早くあれを回収しなさい!!」
クレックは歓喜の叫びを上げシャムハザイ、ミトラスに命令した。
“まったく煩いオッサンだ・・・回収だと?そんなの不可能に近いんだぞ?流石の俺でもイヴには勝てない・・・”
シャムハザイは頬に汗を伝わせながら刀を構えた。
だがミトラスはそんな彼に気付いたのか彼の手をギュッと握った。
「・・・シャム、此処は私に任せて・・・私がイヴを足止めするから貴方は“あの娘”の所へ向かって“あの娘”を守って・・・」
ミトラスは落ち着いた声でシャムハザイに優しく言う。
「駄目だ!此処は俺が・・・!!」
とシャムハザイが答えようとした時いきなり二人の間に透明の壁が出現し二人の間を遮った。
「ミトラス!お前・・・」
それはミトラスの術、『光障壁こうしょうへき』だった。
この術は自分の魔力と空気中に漂っている魔力を混ぜ半透明の障壁を作り出す術だった。
ミトラスはこれを主に防御壁に利用していた。
この壁は強度が高く、自分と相手の間の魔力を遮断するという能力がある。
なのでシャムハザイはこの壁を破壊する事が出来なかった。
シャムハザイは自分の眼の前にいるだろう女性に一言こう言った。
「また、会おう」
と・・・
そういってシャムハザイは奥へと走った。
「シャムハザイ!逃げるな!闘え!」
クレックは見えない壁を叩き叫ぶ。
クレックはミトラスとイヴと同じ空間にいた。
「おい!ミトラス!何をしてるんだ!なんで僕まで閉じ込めたんだ!」
クレックはミトラスに近付き問い質した。
「これで貴方は“あの娘”、“エデン”に近付けないでしょう?」
ミトラスはクスッと笑い言った。だがこの笑みはさっきのシャムハザイの笑みとは違い冷え切っていた。
「な、・・・ぐごばっ!」
ミトラスはクレックを蹴り飛ばした。
クレックは吹っ飛び壁に激突し、壁が崩れ瓦礫に埋もれてしまった。
「・・・どうせ約束を反故にするきだったようだしそこで死んでなさい・・・クズが・・・」
ミトラスは足を元の位置に戻しイヴの方を向いた。
「ごめんなさい、待たせたわね?」
「別にいいわよ?貴女のあの蹴りが久しぶりに見れたから」
イヴは手を口の前に当ててクスクス笑った。
「でも、今の男が死んだらこの闘いに意味は無いんじゃない?もう命令されないんだしさ?」
イヴはふっと思ったことを口にした。
「意味はあるわ。私がどれくらい貴女に近付いたか知りたかったから」
ミトラスはそういって剣を両手で握り構えた。銀色の刃が鈍い光りを放っている。
「そう、なら私は私がどれくらいに貴女を離したか見せてあげるわ」
イヴはそう言って刀の白木造りの柄を右手でギュッと握り、白木造りの鞘を左手で握り刃を鞘に納めたまま姿勢を低くし構えた。
辺りは沈黙が支配したのであった。












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