上手い儲け方考えてきたな
光の月21日目。六王祭も間近に迫り、今日はリリアさんと服を買いに行くことになっている。
考えてみれば、リリアさんとはいままでも何度も一緒に出かけたけど、二人きりでデートという名目で出かけるのは初めてだ。
以前避暑地に泊まった時は、半分はめられたようなものだし……。
「……お、お待たせしました」
「あ、いえ……その服、すごくよく似合ってますね」
「あ、ああ、ありがとうございます」
リリアさんは普段の動きやすさを重視し、足元が少し開いている服ではなく、丈の長いスカートを履いていた。
とは言えふわっとした感じではなく、緩やかにフィットするデザインで、ドレスというよりは少しお洒落な私服といったイメージだ。クリーム色もリリアさんの金髪と合っていてとても良く似合っている。
「じゃあ、行きましょうね」
「は、はい!」
「……手とか繋ぎます?」
「て、てて、てっ!? い、いえ、そ、そそ、それはちょっと、私には難易度が……もう少し経ってからで……」
……リリアさん緊張し過ぎ。
こちらから見ていても分かりやすいほどアタフタしており、失礼だが見ていて少し面白い。
まぁ、実をいうと俺も少し緊張していたが……人間は自分以上にテンパっている他人を見ると落ち着くもので、リリアさんが慌てれば慌てるほど、俺にはその様子を微笑ましく思う程度には心に余裕ができてくる。
「リリアさん、もう少し落ち着いて……気楽に楽しみましょうよ」
「うっ……は、はい。お恥ずかしいところを……」
「いえ、ゆっくり慣れていきましょう。さっ、それじゃあ行きましょうか?」
「はい」
苦笑しつつフォローをしてから、リリアさんと共に買い物に出かける。
しかし、買い物に行くだけでこの慌てよう……こりゃ、手を繋いでデートできるまでに、相当時間がかかりそうな気がするな……。
いや、でも前に避暑地で手は繋いだ気が……意識すると駄目なのかな? まぁ、その辺は徐々に慣れていってもらうことにしよう。
服を買うと言っても、あまり多くの店を回るわけではない。リリアさんは公爵であり、当然ながら六王祭に着て行く服にもそれなりの格が求められる。
するとおのずと、公爵家の女当主に相応しい服を取り扱う店は絞られていくる。
今回初めに訪れたのは、この世界に来てすぐに俺の服を買いに行った店……リリアさんは、その店で良く服を買うらしい。
「いらっしゃいませ……これは、アルベルト公爵様。ようこそおいで下さいました」
「礼服……より少しラフな服が欲しいのですが」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
今回購入する服は、六王祭を回る際の服だ。
最終日のパーティーには礼服で出席するが、それまでの六日間を礼服で過ごすのも窮屈。かといって、あまりラフな私服では貴族としての対面的にあまりよろしくない。
なので私服と礼服の中間ぐらいの服を買いに来たわけだ。
リリアさんが慣れた様子で要望を告げると、店員は丁寧に礼をしてから店の奥に移動し、数点の服を持って戻ってきた。
「こちらなどは、最新のデザインで高級感があります。とても綺麗な白色なので、アクセサリーも合わせやすいかと……」
「う~ん。でもこれは『剣を振る』には動きにくそうですね」
選ぶ基準そこ!? いやいや、なんでリリアさん六王祭で剣振る想定してるの?
「動きやすさでしたら、こちらなどいかがでしょう? 非常に軽くよく伸びるので、動きやすさは自信を持って勧められます」
「……しかし、ピンクというのは……」
「さようでございますか、でしたらこれなどは……」
うん。困った……全然話についていけない。
女物の服には詳しくないし、さらに高貴な人が着る服ともなればさっぱりだ。
どうしようかと思いながらその光景を眺めていると、リリアさんがこちらを向いて苦笑する。
「こちらは少し時間がかかると思いますので、よければカイトさんも服を見てみてはいかがですか? ここには男性物の服も扱っていますし」
「そうですね……そうしましょうか」
リリアさんの提案に頷き、俺も自分の服を選ぼうと視線を動かすと、丁度そのタイミングで店員がリリアさんに尋ねてきた。
「アルベルト公爵様、大変失礼ですが……こちらの男性は?」
「あ、ああ、えっと……その……こ、こい、恋人です」
「なんと! それは失礼致しました……なにぶん浅学浅慮な者でして、なるほど、よくよく見れば高貴なお顔立ち、さぞ名のある方なのでしょう」
……高貴? 誰が?
「申し訳ございません。『貴族様』のお顔を拝見する機会はあまりなく、ご尊顔を見てすぐに思い至らなかったお無礼、平にご容赦願います」
「……」
……貴族? あ、ああ、なるほど……公爵であるリリアさんの恋人だから、当然貴族だろうと、そう思ったわけか……俺のどこに貴族なんて要素があるのか問い詰めたい気持ちはあるが、変に否定しても話を長引かせるだけなので、適当に相槌をうって服選びを始める。
リリアさんと話している人とは別の店員が来て、俺に服の説明をしてくれるが……正直、あまりピンと来るものはなかった。
それもある意味当然かもしれない……俺がいま着ている服は、アリスが作ってくれたもの。正直アリスのセンスと技術は超一級品であり、しかも俺の好みに合わせているので、それを越えるものというのはなかなかない。
実際アリスの雑貨屋で服を買うようになってから、俺は他の店で服を買った覚えがない。
そんなことを考えていると……どこからともなく、見覚えのある仮面の少女……アリスが俺の目の前に現れた。
アリスは満面の笑顔を浮かべており、手には30cm四方の小さめの木の板が握られている。そして、そこには『アリスちゃん特製ハンドメイド服~六王祭仕様~3着セット・白金貨一枚』と書かれていた。
日本円にして1000万円……コノヤロウ……昨日の屋台の件で味しめやがったな。完璧にターゲットを俺に絞ってやがる。
店開いて待ち構えるんじゃなくて、その時に必要なものを高値で提供する手法……悔しいが、効果は絶大である。
白金貨……しかしこいつなら確実にその価値以上の品物を作ってくるだろう……そう思うと、安いのか?
少し考えた後、俺は無言でアリスに白金貨を握らせた。
するとアリスはホクホク顔に変わり、何事も無かったかのように姿を消した……これで六王祭の日までには、三着の服が届くだろう。アリスのセンスの良さは知ってるし、期待出来る。
なんかものすごく負けた気分ではあるが……。
「……あの、やっぱり服はいいです」
「ええ、幻王様より伺っております。こちらにお茶を用意しておりますので、どうぞおくつろぎください」
……貴女もアリスの配下ですか……これ、もしかして、この流れ……全部アリスの計算通りだったりするんじゃないだろうか?
拝啓、母さん、父さん――リリアさんとの買い物デートがスタートしたけど、女性の服選びで男性が置いてけぼりを食らうのは定番と言える。まぁ、それはいいとしても、本当にアリスの奴――上手い儲け方考えてきたな。
お金を沢山持っていて、なおかつ身内(恋人)に滅茶苦茶甘い快人をターゲットにする……呆れるほどに有効な戦術である。