帰ってから続きを書くことにするよ
リリアさんとフィーア先生に、エデンさんのことをある程度説明し終えると、かなり重い沈黙が訪れた。
そして少しして、リリアさんが重々しい口調で口を開く。
「……つまり……そのエデン様という御方は、以前カイトさんから聞いた、カイトさんたちの世界の神様で……その神様が、カイトさんのことを気に入って……今回力を貸してくれたと……」
「え、ええ、まぁ、そんな感じです」
エデンさんの愛情は、気に入ったとかそんなレベルじゃないと思うんだけど……まぁ、その辺は適当に茶を濁しておいた。
いや、ほら、流石に「俺たちの世界の神様は、ヤンデレでした」とか言えないし……。
「……この世界の重鎮とほとんど知り合って……それで終わりだと思ってたら……今度は別世界の神様に助力してもらう……もぅやだ……この人、全然自重してくれない」
「……申し訳ありません」
疲れ切った声で呟くリリアさんに、もう一度深く頭を下げる。
するとそこまで黙って話を聞いていたフィーア先生が、どこか納得したような表情で話しかけてきた。
「ミヤマくん、つまりあの御方は……この世界で言うところの、創造神様みたいな存在ってことでいいのかな?」
「え、ええ、おそらく」
「なるほど……道理で手も足も出なかったわけだよ。私もそこそこ強い方だと思ってたけど……やっぱり一つの世界の頂点は、格が違うねぇ~」
フィーア先生は、エデンさんの正体に驚いてこそいたが、自分が圧倒されたことに納得がいったみたいで、うんうんと頷いている。
「……フィーア先生」
「うん?」
「……良い胃薬……ないですか?」
「うん。まずは薬に頼るのを止めるところから頑張ろうね。精神的なものだろうから、気分転換とか大事だよ。日に少しでも外を散歩したりするのもいいね」
「……私は、どうしたらいいんでしょうか?」
「う~ん。リリアちゃんは真面目だから、色々抱え込んじゃうんだろうね。今回の件は、私にも原因があるからあんまり強いことは言えないけど……気にしすぎないのが一番だよ」
なんかカウンセリング始まっちゃった!? いや、もう、本当にごめんなさいリリアさん……。
「愚痴とか話すだけでも楽になるよ。ルーちゃんとかに相談してみるのもいいんじゃないかな?」
うん。フィーア先生の言葉は至極正論なんだろうけど……その人選は完全にミステイクだと思う。
しかし、ここで「俺が愚痴を聞きますよ」なんていうことは出来ない。だって俺が原因なわけだし……。
「あっ、そうだ! 気分転換に『ミヤマくんとデート』したらいいんじゃないかな?」
「へっ!? で、でで、デート……ですか?」
「うん。二人は恋人同士なんでしょ?」
「そ、それはその、そそ、そうですが……」
突然のフィーア先生の提案を聞き、リリアさんは先程までの落ち込みはどこかへ消え、真っ赤な顔で視線を泳がせながら話す。
「し、しかし、ですね……デートは……デートなわけで……カイトさんの都合も含めて……デートなので……デートがデートになって……デートだとすると……む、難しいのではないでしょうか?」
「ごめん、全然意味が分からない! ちょっと落ち着いて……」
「は、はい……」
「リリアちゃんは、ミヤマくんとデートするのは嫌?」
「い、いえ! そんなことありません! むしろ前からしたか……な、なんでもないです!?」
なんか話が変な方向に流れていってる気がするが、俺としてもリリアさんとのデートは大歓迎だ。
以前一緒に旅行に行ってから、なんだかんだで二人きりで出かける機会はなかったし、ぶらぶらと街を回ってみるのもいいかもしれない。
「……リリアさんさえ良ければ、明日にでも一緒に買い物にでも行きませんか?」
「か、かか、カイトさん!? そ、そそ、それはその、で、デートということでしょうか?」
「はい。六王祭も近いですし、服を新調するのもいいかもしれませんね」
「あぅ……はぅ……」
「リリアさん? 都合が悪いなら別の日にしますよ?」
「い、いえ! だ、大丈夫でしゅ!?」
……噛んだ。いま思いっきり噛んだ。反応がいちいち可愛すぎる。
真っ赤な顔でデートを受けてくれたリリアさんを、微笑ましく思いながら見ていると、フィーア先生がポンと手を叩く。
「あっ、そうだ! 良いものがあるよ」
「良いもの、ですか?」
「うん。貰いものなんだけど……演劇のチケットだよ。えっと、確かここに……あった! はい、どうぞ」
「え? えと、いただいていいんですか?」
「もちろん。貰ったのは良いんだけど、いまいち都合がつかなくてね……後10日ぐらいは期限があったはずだから、二人で見に行くといいよ」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして……まぁ、一枚しかないから、一人分は買ってもらうことになっちゃうけど……結構評判のいい劇らしいよ」
演劇か……そういうものがあるのは知ってたけど、元の世界でもこっちの世界でも行ったことはない。
フィーア先生の厚意をありがたく受け取り、リリアさんにも確認してみると、リリアさんは真っ赤な顔のままで何度か頷いた。
そして、フィーア先生は診療所に戻ると告げ、俺達にもう一度お礼と謝罪をしてから帰っていった。
俺はリリアさんと明日のデートの予定を少し話し合ってから、執務室を後にした。
夕食をすませ、入浴してから部屋に戻り、今日のことを思い返しながら日記を書いていると、いつものようにクロが姿を現した。
「カイトくん! きたよ~」
「いらっしゃい」
「ねぇ、カイトくん。突然なんだけど……いまから、ちょっとボクと『デート』しない?」
「へ? デート? いまから?」
俺の部屋に現れたクロは、いつも通りの明るい笑顔で突拍子もないことを告げてきた。
現在の時刻は夜の9時……寝るには早いが、出かけるには遅い時間って感じがする。
「うん……ちょっと、カイトくんと一緒に行きたい場所があるんだ。駄目かな?」
「いや、大丈夫……ちょっとまって、上着出すから」
「うん!」
俺がデートの誘いを了承すると、クロは心から嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
拝啓、母さん、父さん――リリアさんとデートをする約束をしたのもつい先ほどだが、今度はクロからデートに誘われた。今日の出来事を日記に纏めようとしていたけど……まだ書くことが増えそうだから――帰ってから続きを書くことにするよ。
Q、シリアス先輩「デートは六王祭でっていったじゃないですかぁぁぁぁ! フライング! オフサイド!!」
A、砂糖が足りない。