俺の味方になってくれるらしい
俺の元に駆けつけてくれたリリアさんは、俺から斜め前に立ち、大剣を構えながら苦笑する。
「う~ん。こんなことになるなら、ルナかジーク辺りを連れてきておけばよかったですね」
「……これはこれは、まさかここで、人間族最強と謳われる『白薔薇の戦姫』殿の登場とは……いやはや、一筋縄ではいきませんな」
「で、できれば、その恥ずかしい二つ名は……」
リリアさんの登場に感嘆したように拍手をするゼクスさんだが、その表情にはまだ余裕がある……いや、骸骨なので表情はよく分からないが、なんとなく余裕そうな気がする。
「……使える奴が来たな。上出来だ……白薔薇の戦姫」
「……え、えっと、災厄神様……で、よろしかったですか?」
「ああ」
「お初にお目にかかります。お邪魔かもしれませんが、力添えさせていただきます」
「有象無象なら邪魔なだけだが、お前なら話は別だ……初代勇者を押さえられるか?」
どうやら俺が認識している以上にリリアさんは有名らしく、シアさんもリリアさんを評価しているみたいだ。
そして、シアさんはリリアさんの隣に並びながら……ノインさんと戦えるかどうか尋ねる。
「出来る限りはやってみます……まさか、伝説の勇者様と戦うことになろうとは……」
「油断するなよ……腑抜けてはいるが、アレでもかつては人間の身で伯爵級を打ち破った化け物だ」
「ええ、残念ながら……加減する余裕はなさそうです。本当に、久しぶりです……本気で戦うのは!」
瞬間、リリアさんの体から稲妻のような光が迸る。信じられないことだが、それは魔力……攻撃用の魔法ではなく、純粋な魔力だった。
そのリリアさんの様子を見て、ノインさんは油断なく日本刀を構えながら言葉を発する。
「……噂には聞いていましたが、この目で見たのは初めてですね。これが『高密度魔力体質』……ですか」
「常人の数十倍、術式を介さずとも目視できるほどの魔力密度を持つ特異体質……ノイン殿、彼女を人間族だと侮らない方がいいでしょうな。アレはもはや……『人間という種の特殊個体』と言っていいでしょう」
「……それでは、初代勇者様……若輩の身ですが、胸をお借りさせていただきます」
そう告げて雷光を迸らせながらリリアさんが大剣を構え、その動きに反応してノインさんも日本刀の柄を親指で少し押し上げる。
同時にシアさんも大鎌を構え、ゼクスさんの周りに居る魔族達もそれぞれの武器を手に持つ。
まさに一触即発……いまにも戦いが始まりそうなピリピリとした空気の中、突如それを裂くように聞き覚えのある声が上がった。
「待ってくださ~い!!」
「……え?」
「……ラズ殿?」
緊張した場に飛び出してきたのは、小さな体で可能な限り声を張るラズさんだった。
ラズさんはこの場の中心、俺達とノインさん達の真ん中辺りまで移動し、視線を俺に向けて動かす。
「……カイトクンさん」
「ラズさん?」
「……フィーアお姉ちゃんは、いっぱいいっぱい苦しんでるです。泣いてるんです」
まるでなにかを訴えるように、ラズさんは俺の目をジッと見つめながら話す。
「ラズは頭はよくないです。でも、フィーアお姉ちゃんが昔悪いことをして、ずっとそれで泣いてるのは分かります……だから、だから……」
「……」
……説得、だろうか? いまさら、なにを言われたところで引くつもりはない。それは、折角協力してくれてるシアさんやリリアさんに失礼だし、なにより俺も納得できない。
しかし純粋で真っ直ぐな、ラズさんを強く否定するのも心苦しいな……。
そんな風に考えながら、ラズさんの次の言葉を待っていると、ラズさんは一度顔を伏せてから……強い決意の籠った目で顔を上げ、俺に向かって口を開く。
「……カイトクンさんは、フィーアお姉ちゃんを助けてくれるですか?」
「……え?」
「クロム様を助けてくれたみたいに……フィーアお姉ちゃんも……笑顔にして、くれるですか?」
「……」
それは、説得ではなく、心からの問いかけだった。
大事な家族を救ってくれるのか、多くの言葉を連ねなくても……その重みは十分に理解できた。
「……絶対にとは、言えません。自分が部外者だってことも、理解しているつもりです。でも、このままじゃいつまでたっても変わらないとは思っています」
「……カイトクンさん」
「救う、なんてうぬぼれたことは言いません……でも、笑顔になって欲しいと、心から笑って欲しいと、そう願っています……フィーア先生にも『もう一人』にも……」
「……」
「だから、確約はできません。でも、頑張りたいと……そう、思っています」
ラズさんの言葉に心からの思いを返す……『三人共』笑顔になって欲しいと……
俺の言葉を聞いたラズさんは、目を閉じてなにかを考えた後……ニッコリと満面の笑みに変わる。
「……分かりました。じゃあ、ラズはカイトクンさんを応援するです!」
「え? ら、ラズさん?」
俺を応援する……そう告げると、ラズさんはこちらに移動してきて、小さな弓を手に持ち、俺を庇うように前に浮く。
それがこちらを味方してくれるという意味だと理解したタイミングで、さらに二人こちらに移動してくる。
「まぁ、そういうことになりやした。すいませんね、ゼクスの旦那」
「ラズ姐、あたし達もそっちに付きますよ」
「アハトくん! エヴァさん!」
青い角のオーガ族……アハト。銀色の毛の黒狼族……エヴァ。俺の知り合い……いや、友人である二人も、こちらに協力してくれると告げて、ラズさんの隣に並び立つ。
「アハト……エヴァ……」
「おいおい、なんて顔してんだカイト。別におかしなことじゃねぇ……ダチと家族、どっちかなんて選べねぇ。なら、上手くいけばどっちも笑顔になれそうな、お前の方につくってことだ」
「まぁ、あたしらは学なんてないからねぇ、リスクだなんだと、小難しいことは考えないようにしてるんだよ。つきたい方につく、それだけさ。悪いね、ゼクスの旦那」
「いえいえ、予想してなかったわけではありませんので……ほほほ、やはり、ミヤマ殿は恐ろしいですな」
あくまでも余裕そうに笑うゼクスさんだが、気のせいだろうか? その表情は心なしか……嬉しそうにも見えた。
拝啓、母さん、父さん――フィーア先生を巡って対峙し、まさに一色即発の中……その空気を裂いて話しかけてきたのはラズさんだった。ラズさん……だけでなく、アハトにエヴァ、友人である彼等は――俺の味方になってくれるらしい。
いや、申し訳ない。昨日はついうっかり寝ちゃいました。
クロ、フィーアの他に過去に囚われている三人目……まぁ、もう皆さんならお気づきでしょう。