バレンタイン番外編~ルナマリア&ノア~
本日二話目の更新です。
シンフォニア王都の一角にあるごくごく普通の一軒家。小さくもなく、かといって大きくもない家の中では、とある親子が台所で料理を行っていた。
「ルーちゃん、駄目ですよ。もっと丁寧に混ぜないと」
「あ、はい。お母さんの方はどうですか?」
自分より身長の低い母親……ノアの指導を受けながら、明日に迫るバレンタインに向けてチョコレートを作っているルナマリア。
彼女の知り合いには、料理が得意なジークリンデが居るが、普段の行いが行いなので……快人に渡すチョコレートの作り方を教えてくれと頼むのは、どうしても恥ずかしく、こうして母親に教わっていた。
母親であるノアは、流石に既婚者であり女手一つでルナマリアを育ててきたので、料理の腕前も一級品で分かりやすく丁寧に指導してくれていた。
「私ですか? 私はもう『完成しました』よ?」
「え? そ、そんなに早く……って、なんですかこれ?」
「チョコレートですよ」
「い、いや、チョコレートなのは分かりますが……これ『固まってない』じゃないですか……」
もう既に自分が快人に贈る分のチョコレートは完成したと告げるノアの言葉に、ルナマリアはそのあまりの早さに驚きつつノアの方を振り向く。
しかしそこにあったのは、ボールに入った液状のチョコレート……湯煎しただけで、とても完成品とは思えないものだった。
「ああ、これはちょっと材料に工夫して『低温でも固まりにくく』してあるんですよ~」
「……えっと、生チョコレートとかそういうやつですか? でもやっぱり、それじゃ完成とは……」
「完成ですよ? あとはこれを……ミヤマさんに『私の体に塗って』もらえば……」
「なに考えてるんですか、お母さん!?」
「え?」
サラリととんでもない発言にルナマリアは即座に怒鳴るが、ノアは不思議そうに首を傾げる。
「か、体にチョコを塗って、た、食べるなんて……ひ、卑猥な!!」
「ちゃんと、食べてもらう前に体は綺麗に洗うでの、大丈夫ですよ?」
「そういう問題じゃないですからね!? 駄目です! 絶対駄目! 男は獣なんです。そんなことしたら、お母さんまで食べられちゃいますよ!」
「……獣になったミヤマさんも、普段とは違う魅力があって素敵ですね」
「……駄目だこの母親……」
まさに暖簾に腕押し、糠に釘……ルナマリアの言葉を聞いて、ノアはのんびりと天然気味な言葉を返す。
そんな母親の様子を見て、ルナマリアは頭を抱えつつ……それでもなんとか、軌道修正しようと口を開く。
「と、ともかく、そんな卑猥なのは駄目です! お父さんに申し訳ないとは思わないんですか!」
「あの人のことは、今でも愛していますよ?」
「だったら……」
「でも、ミヤマさんのことも同じぐらい愛してます」
「……いや、まぁ、私も顔も覚えてないお父さんの肩を持つ気はありませんが……そこはもうちょっと、躊躇してもいいんじゃないですかね?」
「そうですか?」
こともなげに亡き父親も、快人も愛していると告げる母親を見て、ルナマリアは疲れたような表情を浮かべる。
「……だって、そんなことしたら、いくらミヤマ様でも手を出してきますって」
「……ああ、大丈夫ですよ。もう既に『私の方からお願いして』手を出してもらいましたし」
「本当になにやってるんですか貴女は!?」
「やっぱり、若い方は凄いですね……」
「聞きたくないですよそんな情報!?」
平然と危険な発言を連発するノアに、ルナマリアは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
確かに彼女も、母親が快人に対して好意を抱いているのは知っている。しかし、まさか、既にそこまで進んでいるとは夢にも思わなかった。
「……ルーちゃんは、なんでそんなに怒ってるんですか?」
「怒りもするでしょう! 自分の母親が、完全に『雌の顔』して知り合いの男性の話ししてるんですよ! 冷静に対応できるわけが無いでしょうがぁぁぁぁ!」
「……でも、ルーちゃんもカイトさんには『いっぱい甘えてる』んですよね?」
「なぁっ!?」
悲痛な叫びを上げるルナマリアだったが、直後に聞こえてきた思わぬ言葉に硬直する。
そしてその表情をだんだんと赤くしながら、やや慌てた様子で口を開く。
「な、なな、なにを急に……」
「普段はそうでもないけど、二人っきりになったらいっぱい甘えてますよね……抱っこしてもらったり、頭を撫でてもらったり」
「な、なんでそれをっ!? ま、まさか見て……」
「見てませんよ? でも、ルーちゃんは昔っから甘えんぼさんですから、大好きなミヤマさん相手なら、いっぱい甘えてるんじゃないかな~って」
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……」
ノアの語る内容は……事実である。
ルナマリアは普段、他人の目があるところでは快人をからかったり、気にしてないような態度をとっているが……部屋で二人っきりになったりすると、それはもう甘えまくっていた。
膝枕もしてもらったことがあるし、二人っきりの時だけは「カイトさん」と呼んでいるし、甲斐甲斐しく世話をすることもある。
それを、実の母親から指摘されてたルナマリアは、顔を真っ赤にしてその場に座り込んでしまう。
もはや羞恥で死んでしまいそうだった。
「あぁ、そうだ……ルーちゃんも一緒にチョコレートを塗って……」
「絶対やりません! 絶対です!!」
「そ、そうですか……ミヤマさんも喜んでくれると思うんですが……」
「うぐっ……と、とにかくもう、さっさと作業を続けますよ!!」
捲し立てるように話を切り上げ、ルナマリアは首を傾げるノアを無視してチョコレート作りを再開する。
その夜……快人の部屋に「か、カイトさんは、そういう食べ方はお嫌ですか?」と尋ねに行く、水色の髪をしたメイドの姿があったとか……。
未亡人……えろぃ……