ご褒美ってなんだろう?
夕食までの空いた時間に、なにをしようかと相談した結果。アリスが丁度いいところを知っているということで、その案内に従って移動して、大きめな建物に辿り着く。
「……ここが、アリスのお勧めの場所? なにするところなの?」
「色々ですよ。まぁ、とりあえず入ってみましょう」
演劇とかコンサートだろうか? いや、そんな雰囲気じゃないな。
一体なんの建物なのかと不思議に思いつつ、アリスに続いて中に入ると、非常に賑やかな音があちこちから聞こえてきた。
「えっと、まずあそこがクロックカード、あっちが的当て……ここにはいろいろな遊戯があるんですよ」
「へぇ~確かに、凄く賑やかだな」
なるほど、遊技場……この世界版のゲームセンターみたいなものかな? 確かにそれなら時間をつぶすにはうってつけだし、いろいろなゲームがあってとても楽しそうに見える。
「……あっ、ちなみに『ゲームに使うチップ』はあちらで交換でき――ふぎゃっ!?」
「カジノじゃねぇか!!」
結構頑張って好意的に受け取ろうとしたけど、紛うことなきカジノであった。
本当にコイツは、ちょっと油断するとすぐギャンブルに……
「ま、待ってください、カイトさん! これには、深い理由があるんです」
「……ほう、一応聞いてやろう。説教はその後だ」
「……せ、説教は確定なんすか……あ、あれですよ。親愛なるカイトさんに、ある一つの誤解っていうか……もう一つ隠していた事を教えようかと思いまして」
「うん? 隠していた事?」
どうせ言い訳だろうと思っていたが、アリスの言葉を聞く限り本当になにか理由があるみたいだった。
それを察した俺は、先程までの怒りを消して、アリスに聞き返す。
「まぁ、見ててください……大丈夫です。銅貨1枚しか使いませんから」
「お、おい……アリス?」
まるで歴戦の勝負師なんじゃないかと感じられる、どこか重々しい威圧感を発しつつ、アリスは一枚の硬貨をもってカウンターに向かっていった。
そして、1時間後……アリスの目の前には、山ほどのチップが積み上げられていた。
「つ、つよっ……」
「ふふふ、これが私の本来の実力ですよ!」
今までの印象を覆すが如く、アリスはカジノ内で鬼のような強さを発揮していた。
決して全戦全勝ではないが、攻め時と引き時を冷静に見極め、面白いようにチップを増やしていっている。
まさに圧倒的とすら言える無双っぷリで、このまま続ければ出禁でもくらいそうな勢いだった。
まぁ、それはそれとしてドヤ顔が、どうしようもなくウザい。
「酷くないっすか!?」
「じゃあ……ドヤ顔のアリスも可愛いよ」
「はぅっ!? あ、そ、そんないきなり……ぁぅ……」
コロコロと表情を変えるアリスを少しからかいつつ、俺は今の主題に話を戻す。
「……それにしても、こんなに増えるとは……」
「ふふふ、見てくれましたか? パーフェクト美少女アリスちゃんの本気を!」
「……じゃあ、なんで今まで……」
少なくともこの1時間ほど見ている限りでは、アリスは常に冷静で、熱くならず流れを見極めていた。
素人目の感想ではあるが、アレなら大抵の勝負には勝てそうな気がする。
だからこそ、今までのギャンブルに弱いアリスの姿とかけ離れていて、思わず唖然としてしまった。
「……あはは、これが隠してた事でして……実は私、今まで『ワザと負けて』ました」
「……なんで?」
この実力を見せられれば、今までワザと負けていたという言葉は素直に信じる事ができるが、そうする理由が分からない。
そりゃ、これだけ勝てるなら、ワザと負けるのも簡単だろうけど……
「あ~えっと、実はですね。私って昔からギャンブルが超得意で、ほとんど負け無しだったんですよ。だから、昔の自分はもういないんだって意味で、ワザと負けてたりしました」
「……ギャンブルやらなければよかったんじゃ」
「い、いや~それはその、ギャンブルは好きですし……ついつい」
アリスが俺に打ち明けたかった秘密は、実はギャンブルが強かったということらしい。
なるほど、アリスの事をまた一つ知れたのは、嬉しいけど……なんでそれを、このタイミングで打ち明けてきたんだろう?
そんな風に考えていると、アリスはニヤリと口元に笑みを作り、積まれているチップの半分を俺の方に差し出しながら言葉を発する。
「……リベンジマッチといきましょう。カイトさん、どっちがより多く稼げるか、勝負です!」
「しょ、勝負?」
「はい! 私が勝ったら、豪華なディナーにスペシャルなデザートを付けてもらいます!」
「……俺が勝ったら?」
リベンジマッチ……それはきっと、以前モンスターレース場で行った勝負を指してのこと。
要約すると「あの時は本気を出して無かったから、もう一回勝負だ」ってことらしい。
まぁ、時間にも余裕があるんだし、それはそれでいいんだけど……なにやらアリスは、自分が勝った時の報酬まで付け加えてきた。
となると、気になるのは俺が勝った場合のことだ。アリスに自信があるというのはわかるが、俺が勝つ可能性だってゼロではない。
ならば、勝負を受ける前にその点に関して聞いておこうと思った。
「……え、え~と……カイトさんが勝ったら……その、家に帰ってから……ご、ご褒美を……」
「ご褒美?」
「か、勝ってからのお楽しみです!」
「……ふむ、まぁ、分かった。やろう」
「ふふふ、今日の私は一味も二味も違いますよ! さあ、敗北の苦汁を味わってください!」
妙にはりきっているアリスに流されながら、俺とアリスの二度目の勝負が幕を開けた。
結論から言おう……『出禁になった』。
アリスとの勝負が始まって、ある程度時間が経過した辺りで、オーナーと名乗る人物が現れ、土下座しながら「もう勘弁して下さい」と言ってきて、アリスと顔を見合わせた後で終了することにした。
いや、まさか俺もあそこまでツイてるとは思わなくて、ついつい調子に乗ってしまった気がするし、この出禁は反省の意味も込めて、甘んじて受けることにした。
「……ぐっ……うぅぅ……」
「い、いや、ほら、途中で中断だったわけだし……」
「……カイトさん、絶対チートです……なんで、ルーレットの『一点がけが連続で当る』んですか……あんなの勝てるわけがないじゃないっすか……」
「あ~いや、運が良かったというか……」
アリスとの勝負に関しては……中断した時点で、俺が3倍ぐらい勝っていた。
というのも、ビギナーズラックなのか、よく知らないままに賭けたものが次々に当り、結局一度も負けることなく全勝してしまった。
ちなみに、アリスもスタートの段階から数倍に増やしていたので、決して弱かったわけではなく、俺が変にツキ過ぎていただけだ。
「……うぅぅ」
「いや、だから、中断だったんだし、無効試合でいいって……」
「だ、駄目です! それじゃあ、私のギャンブラーとしてのプライドが許しません。なので、ちゃ、ちゃんと、帰ったらご褒美をあげます……の、のの、ので、お、おお、お楽しみに……」
「あ、あぁ……」
なんでそんな真っ赤な顔で、しかもドモりながら? ご褒美って、一体なにを用意するつもりなんだ?
聞いても「帰ってからのお楽しみ」って言って教えてくれないし、それは一端置いておこう。ともあれ、程良く時間も潰れたわけだし、そろそろ夕食に関して考え始める事にしよう。
拝啓、母さん、父さん――アリスとギャンブルで再び勝負をする事になった。そしてまたしてもビギナーズラックで勝利してしまった訳だけど、アリスの様子がなんか変だ。いったい――ご褒美ってなんだろう?
ご・ほ・う・び♪……なんか、卑猥な……
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