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シアさんは優しい方だって事だ



 シアさんと共に昼食を食べる為に移動している訳だが……困った事に全然会話が弾まない。

 それは勿論シアさんのネガティブに変換されるフィルターも原因の一つではあるが、なによりも俺がシアさんの人物像を測りかねているからだろう。


 正直俺はまだ、シアさんがどんな方なのか、どんな性格なのかがよく分かっていない。というよりも、シアさんはどうも性格が読み辛い。

 どうも俺はあまり好意的に思われていないのか、わりと攻撃的な感じで接されている。かと思えば、差し入れをしてくれたり、遠回しながら謝罪があったり……よく分からない方だ。


 無言で少し前を歩くシアさんの後ろに続き、なにか会話の糸口が無いのかとシアさんの背中を見ていると、突然シアさんが足を止めた。


「どうしました?」

「……」


 首を傾げながら尋ねた俺の言葉には答えず、シアさんは僅かに顔を動かす。その視線の先には屋台でアイスクリームに似たお菓子を買い、嬉しそうな笑顔を浮かべている少女の姿。

 あの女の子がどうかしたんだろうか? そう思っていると、少女は俺とシアさんのすぐ横を嬉しそうな表情のまま走りって行き……その瞬間、女の子の体に光る線のようなものが一瞬見えた。


「ッ!? し、シアさん、それは……一体なにを?」

「……」


 そして、いつの間にかシアさんの手に禍々しい形の大鎌が握られていた。

 今のシアさんの体勢は、どう見てもその大鎌を振り抜いた感じであり、俺は慌てて先程の女の子の方を見るが……特に体が切れていたりする訳ではないみたいだった。

 シアさんは慌てている俺を一瞥した後、何事も無かったかのように大鎌を消して歩きだす。


「……私の鎌は厄を切る」

「……え?」

「不幸の種、みたいなものだと思えば良い」

「えっと、それがさっきの女の子にあったって事ですか?」

「……厄はどこにでもある。大きいか小さいかの差はあるけどね」


 それはつまり、厄払いみたいなものって事かな? それをさっきの女の子にしたのだろうか?


「……大きな厄を無理に切ると体に影響がある。だけど、小さな厄なら切っても問題無い」

「……ちなみに、さっきの女の子があのままだと、どうなったんですか?」

「さぁ? 私は運命神様みたいに運命は見えない。厄が見えるだけ……それがどうなるかまでは分からないけど、あの大きさなら、まぁ……転んで菓子を落とすとか、そんな程度」


 シアさんには運命は見えないらしいが、不幸の前兆とでも言うものが見えるらしく、先程の女の子の中にあったそれを切った。

 そうしなければ、あの女の子は転んだりと言った小さな不幸に見舞われていたらしい。


「……じゃあ、シアさんはあの女の子を助け……」

「勘違いするな。神族は祝福もしてない人間なんて、いちいち手助けしない」

「え? で、でも、今……」

「……私は素振りをして、そこをたまたまあのガキが通った。ただそれだけ!」

「え? あ、はい……」

「……ふんっ」


 なんとも苦しい言い分ではあるが、成程、それがシアさんらしさという事か……俺は少し、この方の事を誤解していたのかもしれない。

 言動はキツイ部分もあるが、普通の神族なら手助けしない一個人……小さな女の子を、そっと助けてあげたのは今見て分かっている。根は優しい方なんだろう。

 まぁ、でも、たぶんそれを言うとシアさんは怒るので、心の中だけに留めておく事にしよう。









 シアさんに連れられ、一件の飲食店に辿り着き、中にはいって席に座る。

 シアさんは神界の№5であり、上級神のトップと言って良い存在なので、もしかしたら騒ぎになるかとも思ったんだけど……どうやらシアさんは、基本的に裏方で動いているらしく、公の場には基本的に出ない為、顔は殆ど知られていないみたいだ。

 なのでこうして普通に飲食店の椅子に座っていても、特に騒がれたりしないので、認識阻害魔法は必要ないらしい。


「……好きな物を注文しろ」

「あ、はい」


 なんとなくエスニック風みたいな感じがする店内を眺めつつ、シアさんが手渡してきたメニューを眺める。

 ……なんかどれも辛そうなんだけど? ここ、どういうお店? 激辛料理の専門店?

 どうやら以前貰った差し入れ、あの激辛菓子は本当にシアさんの好物だったみたいで、俺は辛そうな名前の並んだメニューの中で、比較的大丈夫そうなのを選んで注文する事にした。

 注文を取りに来た店員に、シアさんとそれぞれ料理を注文すると……


「当店では料理の辛さを自由にお選びいただけますが、いかがなさいますか?」

「……100倍で」

「え?」

「え?」


 シアさんが淡々と告げた言葉を聞き、俺も店員も思わず硬直する。


「……100倍」

「あ、あの、恐れ入りますが、お客様……と、当店も辛さを売りとした店です。不可能だとは言いませんが……その、大丈夫ですか?」

「問題無い。100倍で」

「か、畏まりました……そちらのお客様も、100倍ですか?」

「い、いえ、俺は普通の辛さで……」


 明らかに動揺した様子で聞いてくる店員に、俺は普通の辛さで良いと答える。100倍の辛さとか冗談じゃない!? そんなの味覚が消滅してしまう。

 そして店員が頭を下げて去っていくと、シアさんが何故か驚いた表情で俺の方を見て呟いた。


「……お前、まさか……甘党なのか?」

「……」


 いや、それはおかしい。辛い料理を売りにした店で、通常の辛さを頼んだら甘党って……どんな恐ろしい判断基準だよそれ……


 そのまま、しばらく経つと店員は俺が注文した通常の辛さの美味しそうな料理と……『溶岩のように真っ赤に煮え立つ』恐ろしい料理を運んできた。

 赤い……ただひたすらに赤い……あんなもの本当に食べられるんだろうか?


 そんな風に考えながらシアさんの方を見ると、シアさんは料理を一口食べ……やや渋い表情を浮かべる。

 ほ、ほら、やっぱりシアさんにとっても辛かったんじゃ……


「……ちょっと甘いな」

「……」


 この方味覚壊れてるんじゃないだろうか? その料理のどこに甘いなんて要素があるんだろうか? 見てるだけでこっちまで口の中が辛くなりそうなレベルなのに……し、信じられない。

 や、やっぱり、神族ってまともな方はクロノアさんしかいないのかな?









 恐ろしいものを見た。そんな感覚を抱きながら、自分の料理を食べ終え、激辛と呼ぶのすらおこがましそうな料理をたいらげたシアさんと共に店の外に出る。


「……シアさん、ごちそうさまでした」

「んっ……あんな甘い料理、よく食べれるね?」

「……」


 むしろシアさんの方こそ、あんな辛そうな料理よく食べれますね。いや、マジで……


「……ともかく、これで約束は果たした。文句ない?」

「え? ええ、ありがとうございました」

「じゃあ、戻るぞ」

「はい」


 そう告げて歩きだすシアさんに続き、俺も宿に向かって歩き出す。

 あれ? でも、シアさんが滞在してるのって王城だよね? 方向逆なんじゃ……もしかして、送ってくれるって事なのかな?


 そんな事を考えながら道を進んでいると、またシアさんが足を止めて顔を動かした。

 今度の視線の先には海が広がっており、漁にでも出たのか、遠くに一隻の船が見えた。


「……大きな厄」

「え? あの船ですか?」

「……」

「ど、どうするんですか?」


 シアさんが静かに告げたその言葉、大きな厄……それって、単純に読み取れば、あの船が沈むとかそういう事なんじゃ……

 そう考えて尋ねたが、シアさんは特になんでもないような感じで、船から視線を外す。


「どうもしない。さっき言ったように、神族は人族なんていちいち助けない」

「……で、でも……」

「お前の善意を押し付けるな……お前がどう思おうと勝手だけど、価値観はそれぞれ違う。お前が正しいと思う事を、私に求めるな」

「ッ!? す、すみません」

「……ちっ」


 忌々しげに告げたシアさんの言葉を聞き、俺は頭を下げる。

 確かに、あの船を助けて欲しいなんてのをシアさんに求めるのは、間違っているのかもしれない。

 そう考えて少し肩を落としつつ、だけども知ってしまった事を見過ごす事も出来ず、なにか方法をと考えた瞬間、シアさんが舌打ちをして大鎌を取り出す。


「……我が一閃は、災厄を断ち払う……」

「ッ!?」


 静かに呟いた後で、シアさんは大鎌を振り、直後に出現した巨大な漆黒の斬撃が船に向かって飛んでいった。

 その斬撃は船に吸い込まれるように消えていき、シアさんは何事も無かったかのように大鎌を消す。


「……シアさん」

「大きな厄を払えば影響があるけど……まぁ、そんなものは本気を出せばいくらでも調整できる……お前には運命神様を説得してもらった借りがあった。今回だけは、その甘い考えに付き合ってやる」

「……あ、ありがとうございます」

「……ふんっ……皆、勝手に幸せになれば良い……」


 つまらなそうにそう告げた後、シアさんは再び歩きだす。

 その言葉を聞いた瞬間、なんとなくだが……シアさんは、俺が余計な事を言わなくても、あの船を助けてあげるつもりだったんじゃないかと感じた。


「……シアさんは、優しい方なんですね」

「なっ!? な、なな、なにいきなり訳の分からない事を! なにを企んでる!!」

「え? あ、いや、すみません。別になにも企んでは無いんですが、つい思った事が口に……」

「くっ……う、うるさい馬鹿! 死ね!!」

「え、えぇぇぇ……」


 素直な賞賛の言葉のつもりだったが、シアさんは褒められる事自体に慣れていないのか、真っ赤な顔で叫んだ後走り去ってしまった。

 なんというか、走り去っていく後姿を見ながら……ツンデレという言葉が頭に浮かんだ気がした。


 拝啓、母さん、父さん――シアさんの事は、まだよく分からない部分が多い。嫌われているのかある程度は好かれているのか、それさえもよく分からないが……ただ、一つ確かなのは――シアさんは優しい方だって事だ。

 




シリアス先輩「なんだろう、この……自分自身に裏切られた感じ……」

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